2012年4月アーカイブ
2012年4月24日 19:27 ( )パンの話36 (炭化セルロース粒/小麦粉によるパン−5)
セルロース粒を炭化して、食品合成色素の吸着を見たところ8種類のうち、3種類の合成色素の吸着が認められました。
実験は直径 0.4mm、長さ11cmのガラスのカラムにこの炭化セルロース粒を詰めて、カラム法で行ないました。3種類の赤色色素は何れもよく吸着し、炭化セルロース粒1g当り3−5mgの色素が吸着しました。
3種類の赤色色素とはエリスロシン、フロキシン、ローズベンガルです。これらの色素がどのようにしてこの炭化セルロース粒に吸着したのか、そしてなぜセルロース粒を炭化しないと吸着しなかったのかが知りたくなります。
田原さんは、3種類の赤色色素のうちエリスロシンを用いて吸着のメカニズムを調べました。
炭化セルロースカラムにエリスロシンを吸着させ、その後吸着したエリスロシンをイオン性物質(NaCl, NaOH, KCl ), 非イオン性物質(エタノール、シュクロース、グルコース)、1分子中に親水基と疎水基の両方を持つ両親媒性物質(ショ糖脂肪酸エステル)の3種類で夫々溶出しようとしました。
イオン性物質を流した場合、カラムから色素は殆ど溶出しました。両親媒性物質の場合も溶出しました。しかし非イオン性物質の場合には全く溶出しなかったのです。
この事は何を意味しているのでしょうか。炭化セルロース粒表面に結合したこれらの色素の共通構造は数個のベンゼン環からなるキサンチン系構造でした。
そのキサンチン系色素の構造式を眺めると、3種類の色素はいずれも陰イオン性物質です。
一方、炭化セルロース粒表面をESCA (Electron spectroscopy for chemical analysis) という機器ではかると、この炭化セルロース粒表面にアミノ基によるNが突出している事がわかりました。この陽性を示すアミノ基にキサンチン系色素の陰性が吸着されたのです。
一度吸着した色素はNaCl, NaOH等のイオン性物質を流すと、セルロース表面から離れて水中に溶出してしまったのです。
非イオン性物質、エタノール、シュクロースなどでは色素は全く溶出しなかったのです。これに対し、両親媒性物質であるショ糖脂肪酸エステルでは色素は溶出しました。
これはショ糖脂肪酸エステルがシュクロースと脂肪酸のエステル結合物質であり、前の実験から非イオン性物質のうちシュクロースは溶出には関与しなかった事から結合に関与するのはシュクロース部位ではなく脂肪酸部位の方と思われました。
ショ糖脂肪酸エステルのうち脂肪酸部位が炭化セルロース類に吸着したのでしょう。その証拠としてこのショ糖脂肪酸エステルの吸着した炭化セルロース粒をソックスレーでエチルエーテル抽出したら、ショ糖脂肪酸エステルはエチルエーテル抽出されたのです。
これは色素が炭化セルロース粒表面に疎水結合で結合した事を示しています。
この炭化セルロース粒による疎水結合は意外でした。炭化セルロース粒表面の疎水性は、キサンチン系色素分子の何処に結合するのか?という事です。
キサンチン系色素の構造をよく眺めてみると、この色素は3種類ともいずれもハロゲン元素(I、Br、Cl) が分子内に存在しています。このハロゲン元素は疎水性を示します。
炭化セルロース粒表面の疎水基にこの色素のハロゲンが引き合ったのでしょう。
炭化セルロース粒は、炭化で表面に飛び出したアミノ基から来る陽性と表面の疎水性の2つの性質と、このキサンチン系色素の持つ陰性、疎水性との間で結合したのでしょう。
この田原さんの仕事は、BBB (Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry) 誌に間もなく掲載されます。
つづく
実験は直径 0.4mm、長さ11cmのガラスのカラムにこの炭化セルロース粒を詰めて、カラム法で行ないました。3種類の赤色色素は何れもよく吸着し、炭化セルロース粒1g当り3−5mgの色素が吸着しました。
3種類の赤色色素とはエリスロシン、フロキシン、ローズベンガルです。これらの色素がどのようにしてこの炭化セルロース粒に吸着したのか、そしてなぜセルロース粒を炭化しないと吸着しなかったのかが知りたくなります。
田原さんは、3種類の赤色色素のうちエリスロシンを用いて吸着のメカニズムを調べました。
炭化セルロースカラムにエリスロシンを吸着させ、その後吸着したエリスロシンをイオン性物質(NaCl, NaOH, KCl ), 非イオン性物質(エタノール、シュクロース、グルコース)、1分子中に親水基と疎水基の両方を持つ両親媒性物質(ショ糖脂肪酸エステル)の3種類で夫々溶出しようとしました。
イオン性物質を流した場合、カラムから色素は殆ど溶出しました。両親媒性物質の場合も溶出しました。しかし非イオン性物質の場合には全く溶出しなかったのです。
この事は何を意味しているのでしょうか。炭化セルロース粒表面に結合したこれらの色素の共通構造は数個のベンゼン環からなるキサンチン系構造でした。
そのキサンチン系色素の構造式を眺めると、3種類の色素はいずれも陰イオン性物質です。
一方、炭化セルロース粒表面をESCA (Electron spectroscopy for chemical analysis) という機器ではかると、この炭化セルロース粒表面にアミノ基によるNが突出している事がわかりました。この陽性を示すアミノ基にキサンチン系色素の陰性が吸着されたのです。
一度吸着した色素はNaCl, NaOH等のイオン性物質を流すと、セルロース表面から離れて水中に溶出してしまったのです。
非イオン性物質、エタノール、シュクロースなどでは色素は全く溶出しなかったのです。これに対し、両親媒性物質であるショ糖脂肪酸エステルでは色素は溶出しました。
これはショ糖脂肪酸エステルがシュクロースと脂肪酸のエステル結合物質であり、前の実験から非イオン性物質のうちシュクロースは溶出には関与しなかった事から結合に関与するのはシュクロース部位ではなく脂肪酸部位の方と思われました。
ショ糖脂肪酸エステルのうち脂肪酸部位が炭化セルロース類に吸着したのでしょう。その証拠としてこのショ糖脂肪酸エステルの吸着した炭化セルロース粒をソックスレーでエチルエーテル抽出したら、ショ糖脂肪酸エステルはエチルエーテル抽出されたのです。
これは色素が炭化セルロース粒表面に疎水結合で結合した事を示しています。
この炭化セルロース粒による疎水結合は意外でした。炭化セルロース粒表面の疎水性は、キサンチン系色素分子の何処に結合するのか?という事です。
キサンチン系色素の構造をよく眺めてみると、この色素は3種類ともいずれもハロゲン元素(I、Br、Cl) が分子内に存在しています。このハロゲン元素は疎水性を示します。
炭化セルロース粒表面の疎水基にこの色素のハロゲンが引き合ったのでしょう。
炭化セルロース粒は、炭化で表面に飛び出したアミノ基から来る陽性と表面の疎水性の2つの性質と、このキサンチン系色素の持つ陰性、疎水性との間で結合したのでしょう。
この田原さんの仕事は、BBB (Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry) 誌に間もなく掲載されます。
つづく
パンの話35 (炭化セルロース粒/小麦粉によるパン−4)
セルロース粒の加熱処理でセルロース粒に何か新しい機能は生じないだろうか?
白色状のセルロース粒(650μメータ-)を磁性のるつぼに入れ、途中ガラス棒で引っ掻き混ぜながら下からガスバーナーで加熱しました。
15分ほどやるとセルロース粒表面は真っ黒になりました。これを炭化セルロースサンプルとして使いました。このやり方は少々再現性の点で問題があるとして、実験がうまく行き始めてからきちんとした加熱装置により250℃,20分間の炭化処理を行ないました。
セルロース粒は炭水化物だから、炭化によってトリプトファンからTrip -P-1や、あるいはグルタミン酸からGlu-P-1という発がん性物質の生成はありません。
その点安心です。この炭化したセルロース粒表面に何か吸着しないだろうか。
田原さんは、食品添加物、特に実験のやり易さから、眼で見てすぐ判別のつく食用色素について注目しました。日本で許可されている合成着色料は7−8種類ほどあります。何れもきれいな色で、色調ははっきりしていて、安定で、色伸びがよい、安価であるという塩梅です。
いろいろ調べているうちに、日本は、この食品添加物に対し、かなり他の国、ヨーロッパ,アメリカなどよりその規制が緩いように思われました。
これらを全て許可していない国もあるというのに。規制の厳しいわが国と思っていたのに少々意外でした。
これら合成色素の安全性に対しいろいろ研究されております。有毒性、発ガン性など多くの面で研究報告があります。それらにもとづいて他国では規制されているのでしょう。
田原さんは、日本で許可されているこれらの合成色素を片っ端から調べました。炭化セルロースへの吸着性をチェックしたのです。小さなカラムにセルロースを詰めて、そのカラムに色素水溶液を流しました。
その結果、3種の赤色色素が吸着しました。それはエリスロシン、フロキシン、ローズベンガルでした。勿論未加熱セルロース粒にはすべての合成色素が吸着しませんでした。
つづく
白色状のセルロース粒(650μメータ-)を磁性のるつぼに入れ、途中ガラス棒で引っ掻き混ぜながら下からガスバーナーで加熱しました。
15分ほどやるとセルロース粒表面は真っ黒になりました。これを炭化セルロースサンプルとして使いました。このやり方は少々再現性の点で問題があるとして、実験がうまく行き始めてからきちんとした加熱装置により250℃,20分間の炭化処理を行ないました。
セルロース粒は炭水化物だから、炭化によってトリプトファンからTrip -P-1や、あるいはグルタミン酸からGlu-P-1という発がん性物質の生成はありません。
その点安心です。この炭化したセルロース粒表面に何か吸着しないだろうか。
田原さんは、食品添加物、特に実験のやり易さから、眼で見てすぐ判別のつく食用色素について注目しました。日本で許可されている合成着色料は7−8種類ほどあります。何れもきれいな色で、色調ははっきりしていて、安定で、色伸びがよい、安価であるという塩梅です。
いろいろ調べているうちに、日本は、この食品添加物に対し、かなり他の国、ヨーロッパ,アメリカなどよりその規制が緩いように思われました。
これらを全て許可していない国もあるというのに。規制の厳しいわが国と思っていたのに少々意外でした。
これら合成色素の安全性に対しいろいろ研究されております。有毒性、発ガン性など多くの面で研究報告があります。それらにもとづいて他国では規制されているのでしょう。
田原さんは、日本で許可されているこれらの合成色素を片っ端から調べました。炭化セルロースへの吸着性をチェックしたのです。小さなカラムにセルロースを詰めて、そのカラムに色素水溶液を流しました。
その結果、3種の赤色色素が吸着しました。それはエリスロシン、フロキシン、ローズベンガルでした。勿論未加熱セルロース粒にはすべての合成色素が吸着しませんでした。
つづく
パンの話34 (炭化セルロース粒/小麦粉によるパン−3)
セルロース粒サイズが大きいほど製パン性がよくなり、粒子サイズが小さいほど製パン性が悪くなるという発見は、前述のように非常識なことでした。
普通ならば、小麦粉ドウに異物をブレンドしてそのグルテンの性質を保持しようとするならば、異物をなるべく細かくして小麦粉と見分けのつかなくなるぐらいにするものです。しかし製パン結果は逆でした。
その頃、大学院に田原さんが入学し、この研究をすすめる事になりました。パンが膨らむという事は、小麦粉独特のグルテンタンパク質の均質膜形成(マトリックス化)することです。
グルテンタンパク質は水とともに撹拌する事で吸水して膜を形成し、連続性を有します。
イーストが発生するガスは、このマトリックスでキャチアップされ、そのままゴムのように膨らんでゆくのです。このマトリックス中に異物であるセルロース粒を石ころ状に混在させます。
田原さんはグルテンタンパク質をクマシーブリリアントブルーというタンパク染料(タンパク質を染める染料)で青色に染色して、このマトリックスの連続性を顕微鏡観測しました。
よく膨らんだ普通のパンドウ(コントロール)と、セルロースを混ぜたパンドウを夫々をクマシーブリリアントブルー染色したわけです。
コントロールのパンドウでは均一に青く染まり、異常は認められません。これに対し細かなセルロース粒の混入したものは、その異物の混在がマトリックス中に認められました。ガスがイーストから発せられ、これをマトリックスがキャッチアップする時に細かなセルロース粒の混入したものではマトリックスの連続性が弱められ、膜全体からガスは抜けてしまうのでした。
セルロース粒の大きなもので製パン性のよかったものは、クマシーブリリアントブルー染色はどうだったのか?
大きな島のようなセルロース粒のかたまりが、ブリリアントブルー染色した海のような均一のマトリックス中に浮いているようにみえました。発生したガスはこの均一なマトリックスにキャッチアップされ、膜の弱いところもなかったのです。従って発生したイーストガスはきちんとキャッチアップされてパンは膨化するのです。
セルロース粒は巨大なために大きな大海の中の島であり、大海の均一性にはダメージは与えなかったのです。
パンドウから漏れてくるガスを定量的に測定する装置(ファーモグラフ)があります。これを用いて田原さんは、粒子サイズを変えたセルロース入りドウから漏れ出るガス発生量を定量しました。
やはりセルロース粒サイズの小さいものではガスは抜けてゆき、セルロースサイズの大きなものはガスはきちんとドウに保持されていました。こうして製パン性の保持されること、顕微鏡的に均一なマトリックスが保持されていることとの関連性が認められました。
つづく
パンの話33 (炭化セルロース粒/小麦粉によるパン−2)
セルロース粒というユニークな素材を使い、低カロリーパンの研究を進めました。そしてそのサイズ(直径)選別が、セルロースによる製パン性(パン高、比容積)劣化を抑える事に有効である事がわかった事は大切なことでした。
これはセルロース以外の物質でも、粒子サイズが製パン性に大きく関与し、そのサイズに注目しさえすれば、製パン改良に有効であると思われますね。
更にセルロースといえば、我々はこれを紙にして文字をそこに書きこみ、記録を残す事が出来、昔から伝達記録材料として利用してきました。ペーパー、パピルスと言ったところです。
果たしてセルロース粒とした場合、この粒表面も何とか利用できないだろうかという事です。この粒表面に文字を書き付けてという事は、その粒子サイズの細かな事から意味はありません。
我々はこの粒表面に何か機能を持たせて、製パンにしてこれを食べたとき、低カロリーと同時に何か体中で健康増進のための機能を持たせられないであろうかという事です。
しかしこの粒子の表面をそのままでは何も機能を示しません。あるいは示してもそれはわれわれの欲しい新規機能ではありませんね。しかも体に取って安全なものでなければなりません。
かつてデンプン粒子でも同じ事をやってきました。たとえば小麦デンプン粒のクロリネーション(塩素ガス処理)であれば、デンプン粒表面に疎水化が起り、ケーキ類に組織改良効果が生じました。さらにその展開例として、クロリネーションにかわり乾熱処理により粒表面に同様の疎水化をおこし、ケーキ類等の組織改良に応用が考えられています。
そのころ山口県立大学から田原さんが院生として入ってきました。
彼女はこのセルロース粒の炭化処理を考えました。
はじめは、磁性の皿の中にこのセルロース粒を入れて、ガスバーナーで下から黒色になるまで熱処理を行なったのです。そして何か新しい機能の生じる事を期待したのです。
つづく