2013年8月アーカイブ
2013年8月22日 11:41 ( )ICC CONFERENCE 2013-PERTH,WESTERN AUSTRALIA (In association with the 63rd Australian Cereal Chemistry Conference, 25-28 August 2013) にむけて
オーストラリアのパース市からすぐ近くの古い港町フリーマントルで8月26日-28日にわたって、ICCとオーストラリア穀物学会合同の穀物研究会が行われることになり、私は "Effect of polysaccharides on frozen and thawed bread dough to improve the deterioration of breadmaking properties(冷凍ドウによる製パン性劣化を防ぐための多糖類添加効果について)"というタイトルで口頭発表(8/27、11時20分-11時40分)を行うことになりました。
ここでは冷凍ドウの研究を発表します。これまで卒業生の森元さんと一緒に行ってきた仕事です。森元さんは2001年頃からずっとこの仕事を私のところで進めてきました。彼女は管理栄養士で、現在ある企業につとめながら毎週土曜日に研究室に来て仕事をしています。
これまで冷凍ドウの製パン性の劣化の原因を、冷凍ドウからしみでる液量の増加と製パン性(パン高、比容積)低下という相関の研究から調べたり、そのドウからしみでる液成分は何に原因するのか調べてきました。ドウからしみでる原因は添加する塩分量と発酵中に生産される物質量できまることがわかりました。しかし冷凍による製パン性低下としみでる液体成分とはあまり関係はありませんでした。
冷凍した際のその氷結晶生成による水分移行がその原因だろうと考えました。冷凍がグルテン等の小麦粉成分に与えるダメージは小さいのではないかと考えました。
しかしそれを証明するためには解凍後の再度の撹拌、発酵とベーキング試験が必要です。はじめの発酵でイーストの力は弱まり、砂糖も消費されたために、冷凍ドウを解凍した後、再度撹拌、発酵して焼いても、パンがきちんとまともに焼けません。小麦粉はどこもいたんでなく、ただ単にドウマトリックス中の水の存在の仕方が乱れて、狂ってきたために、パンがうまくやけないのだという認識の確認の実験がこれではできません。
そこでドウを解凍して、再びそこに砂糖、イーストを入れて、水などはそのままで再度撹拌、発酵、ベーキング試験を行いました。元の通りのきちんとパンが焼けたのです。冷凍ドウのダメージは、小麦粉構成成分へのダメージはなく(グルテンタンパク質の変性やデンプンの変化などはなく)、水の移動でグルテンマトリックスのびる力が欠けたためと結論しました。
しかしながらドウを一度解凍してから再びそこに砂糖、イーストを加えて発酵してベーキングしていたのでは冷凍ドウの意味がありませんので、何か別の方法を考えて、解凍してそのまま撹拌せずに今まで通りのパンができることが必要になります。
製パン業界のすすめている冷凍ドウは、すべて解決済みだと企業研究者からいわれ、何かこちらの研究は少々時代遅れのような感じがいたしておりました。そのことも頭に入れて、実験に取り組んできました。
水のしっかりしたキャッチアップのできるパンドウが、冷凍ドウ改良に大きな効果のあることは十分に想像されます。当方もこの辺にポイントをおいて研究しました。三栄源(株)の長谷川さんにお願いして、たくさんの多糖類サンプルをいただきました。それは、Locust bean gum, Guar gum, Xanthan gum, Tamarind seed gum, native Gellan gum, Detrin, LM pectin, fermented cellulose, CMC, Konjac glucomannan, HM pectin, κ-Carrageenan,ι-Carrageenan,λ-Carrageenan でした。
これらを片っ端からドウに入れて、冷凍、解凍、そしてベーキング試験を行いました。その結果、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガムなどに改良効果があらわれ、未冷凍の小麦粉パンドウと同様の製パン性を解凍したパンでも示しました。特にキサンタンガムにその効果が大きかったのです。
この多糖類は微生物の生産する多糖類です。微生物はよく知られているように、生育に不適になると芽胞を形成し、乾燥、加熱等の周囲の環境悪化に強い抵抗性を示します。このキサンタンガムなども、その芽胞の袋の形成をなしているものと思われ、尋常ならざる多糖です。キサントモナス・キャンペストリスがその生産菌です。
セルロースの主鎖があり、そこに3個のβ結合でつながったオリゴ糖鎖(マンノースーグルクロン酸ーマンノース)がぶらさがり、はじめのマンノースはアセチル基が、最後の先端のマンノースにはピルビン酸が結合しているというもので、面白いものです。
微生物が生育に不利になったときに、自らを守るため用のものだから頑丈にできていて、他の多糖類とは性質が異質です。冷凍ドウなどには丈夫で好都合なもののようです。
この多糖類を入れると、解凍後もパンはオーブン中でどんどん膨らみ、何と210℃オーブン中でも品温100℃近くですが、20分間膨らみ続けるのです。
オーブンスプリングとはパンドウ210℃ほどのオーブンに入れて、はじめの30-40℃くらいまでイーストはガス発生をつづけふくらむことを言います。どんどん熱は上昇し、その後はイーストの死滅とともにドウ自体も水蒸気をキャッチアップできずにそのままかたまってきますが、このキサンタンガムはなぜか膨らみ続けます。この多糖類は大変に興味深いものです。
これらを発表してきます。
ここでは冷凍ドウの研究を発表します。これまで卒業生の森元さんと一緒に行ってきた仕事です。森元さんは2001年頃からずっとこの仕事を私のところで進めてきました。彼女は管理栄養士で、現在ある企業につとめながら毎週土曜日に研究室に来て仕事をしています。
これまで冷凍ドウの製パン性の劣化の原因を、冷凍ドウからしみでる液量の増加と製パン性(パン高、比容積)低下という相関の研究から調べたり、そのドウからしみでる液成分は何に原因するのか調べてきました。ドウからしみでる原因は添加する塩分量と発酵中に生産される物質量できまることがわかりました。しかし冷凍による製パン性低下としみでる液体成分とはあまり関係はありませんでした。
冷凍した際のその氷結晶生成による水分移行がその原因だろうと考えました。冷凍がグルテン等の小麦粉成分に与えるダメージは小さいのではないかと考えました。
しかしそれを証明するためには解凍後の再度の撹拌、発酵とベーキング試験が必要です。はじめの発酵でイーストの力は弱まり、砂糖も消費されたために、冷凍ドウを解凍した後、再度撹拌、発酵して焼いても、パンがきちんとまともに焼けません。小麦粉はどこもいたんでなく、ただ単にドウマトリックス中の水の存在の仕方が乱れて、狂ってきたために、パンがうまくやけないのだという認識の確認の実験がこれではできません。
そこでドウを解凍して、再びそこに砂糖、イーストを入れて、水などはそのままで再度撹拌、発酵、ベーキング試験を行いました。元の通りのきちんとパンが焼けたのです。冷凍ドウのダメージは、小麦粉構成成分へのダメージはなく(グルテンタンパク質の変性やデンプンの変化などはなく)、水の移動でグルテンマトリックスのびる力が欠けたためと結論しました。
しかしながらドウを一度解凍してから再びそこに砂糖、イーストを加えて発酵してベーキングしていたのでは冷凍ドウの意味がありませんので、何か別の方法を考えて、解凍してそのまま撹拌せずに今まで通りのパンができることが必要になります。
製パン業界のすすめている冷凍ドウは、すべて解決済みだと企業研究者からいわれ、何かこちらの研究は少々時代遅れのような感じがいたしておりました。そのことも頭に入れて、実験に取り組んできました。
水のしっかりしたキャッチアップのできるパンドウが、冷凍ドウ改良に大きな効果のあることは十分に想像されます。当方もこの辺にポイントをおいて研究しました。三栄源(株)の長谷川さんにお願いして、たくさんの多糖類サンプルをいただきました。それは、Locust bean gum, Guar gum, Xanthan gum, Tamarind seed gum, native Gellan gum, Detrin, LM pectin, fermented cellulose, CMC, Konjac glucomannan, HM pectin, κ-Carrageenan,ι-Carrageenan,λ-Carrageenan でした。
これらを片っ端からドウに入れて、冷凍、解凍、そしてベーキング試験を行いました。その結果、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガムなどに改良効果があらわれ、未冷凍の小麦粉パンドウと同様の製パン性を解凍したパンでも示しました。特にキサンタンガムにその効果が大きかったのです。
この多糖類は微生物の生産する多糖類です。微生物はよく知られているように、生育に不適になると芽胞を形成し、乾燥、加熱等の周囲の環境悪化に強い抵抗性を示します。このキサンタンガムなども、その芽胞の袋の形成をなしているものと思われ、尋常ならざる多糖です。キサントモナス・キャンペストリスがその生産菌です。
セルロースの主鎖があり、そこに3個のβ結合でつながったオリゴ糖鎖(マンノースーグルクロン酸ーマンノース)がぶらさがり、はじめのマンノースはアセチル基が、最後の先端のマンノースにはピルビン酸が結合しているというもので、面白いものです。
微生物が生育に不利になったときに、自らを守るため用のものだから頑丈にできていて、他の多糖類とは性質が異質です。冷凍ドウなどには丈夫で好都合なもののようです。
この多糖類を入れると、解凍後もパンはオーブン中でどんどん膨らみ、何と210℃オーブン中でも品温100℃近くですが、20分間膨らみ続けるのです。
オーブンスプリングとはパンドウ210℃ほどのオーブンに入れて、はじめの30-40℃くらいまでイーストはガス発生をつづけふくらむことを言います。どんどん熱は上昇し、その後はイーストの死滅とともにドウ自体も水蒸気をキャッチアップできずにそのままかたまってきますが、このキサンタンガムはなぜか膨らみ続けます。この多糖類は大変に興味深いものです。
これらを発表してきます。
旧冷凍ドウの論文、読後
自分の10年前に行った冷凍ドウの研究、これをCereal Chem. 80: 264-268, 2003. に発表したものを読み直して見ると、内容の一部をすっかり忘れていたことに気がつきました。再度論文を精読してみました。その中であんなこと、こんなこともあったのかと思い出しながら、今の仕事を考えてます。
冷凍ドウを解凍後パンベーキングすると、製パン性(パン高、比容積)が極めて低下することは既にお話ししました。そして解凍したときにドウからしみでてくる液体の量が、コントロール(未冷凍)に比べて増加する傾向にあることが認められ、この傾向と製パン性低下の傾向が一致することを報告しました(負の相関です)。しみでてくるこの液体について本論文で詳しく研究したのです。
まず何が原因でパンドウから液体がしみでてくるのかを以下のように調べました。
パンドウ(小麦粉、イースト、砂糖、食塩)の完全系から、小麦粉等の各成分を除去して作ったパンドウからしみでる液量の検討、さらにそれぞれの冷凍ドウにした場合の同様の検討を行いました(水はすべてに入る)。さらに事前にイースト、砂糖、食塩を発酵(140分)させその中に発酵生成物を作らせたあと、小麦粉を入れてドウを作るという新たなドウ(発酵液ドウという)を作ってテストしました。このときもやはり各成分を抜いた場合の発酵液ドウを作り完全系(イースト、砂糖、塩/小麦粉)と比較するというものでした。
小麦粉をあとから入れた発酵液ドウからのしみでる液体量と、その中の炭水化物量、タンパク質量いずれとも高い相関性があり、かたよりはありませんでした。つづいてはじめからづっと小麦粉の入ったパンドウからしみだす液体への影響についても検討しました。しみ出た溶液量とその中の炭水化物量、タンパク質量を定量し、相関性を求めるといずれも相関性が高く、タンパク質量のみ、炭水化物量のみと言った相関性の多少は無かったのです。このことはパンドウ中でも小麦粉の酵素類、例えばアミラーゼ、プロテアーゼ等の働きはしみでる液量には関係の低いことが推察されました。このことは小麦粉中の酵素類(アミラーゼ、プロテアーゼ類)はしみでる液量には効果の少なかったことを示すものでした。
種々の組み合わせ実験から、イースト+塩+小麦粉系のパンドウの場合、その完全系に比べて85%の液体をしみださせました。しかしイースト+塩/小麦粉系の発酵液系の場合、完全系にくらべて、36%ほどしかありません。いずれもイーストの餌(砂糖)は入ってませんが、パンドウでは小麦粉中の糖質を利用してイーストは発酵できますが、発酵液ではイーストはそれができません。従ってイーストの関与する発酵生産物がしみでる物質に関係していると思われました。冷凍ドウでも同様の傾向が見られました。
発酵生産物が原因ならば、時間とともにしみでる液量は増加するはずです。イースト、砂糖、食塩(完全系)で発酵時間をのばし(これまでの140分から280分まで)、そこに小麦粉を添加すると直線的に離水量は増加しました。食塩添加のみでもしみでる液体量はかなり多いです。その発酵生産物は食塩のみにでる液量にさらに加算されるようでした。
パンドウの砂糖、イースト、食塩(完全系)の中の食塩添加量を増加させてしみでる液量を調べると、5グラムまではしみでる液量は増え続けたがそれ以上になると、低下しました。食塩による小麦粉ドウからの溶液引きだしに何らかの変化が起きたと報告しました。
パンドウ中に食塩存在下でイーストによる発酵生産物ができ、それもしみでる液体量に大いに関連あるという論文です。冷凍ドウでも同じしみだし増加傾向を示しましたので、冷凍によるしみだし増加のメカニズムは、パンドウ成分によるものではなく、単なる氷結晶生成によるものと予想した論文でした。
冷凍ドウを解凍後パンベーキングすると、製パン性(パン高、比容積)が極めて低下することは既にお話ししました。そして解凍したときにドウからしみでてくる液体の量が、コントロール(未冷凍)に比べて増加する傾向にあることが認められ、この傾向と製パン性低下の傾向が一致することを報告しました(負の相関です)。しみでてくるこの液体について本論文で詳しく研究したのです。
まず何が原因でパンドウから液体がしみでてくるのかを以下のように調べました。
パンドウ(小麦粉、イースト、砂糖、食塩)の完全系から、小麦粉等の各成分を除去して作ったパンドウからしみでる液量の検討、さらにそれぞれの冷凍ドウにした場合の同様の検討を行いました(水はすべてに入る)。さらに事前にイースト、砂糖、食塩を発酵(140分)させその中に発酵生成物を作らせたあと、小麦粉を入れてドウを作るという新たなドウ(発酵液ドウという)を作ってテストしました。このときもやはり各成分を抜いた場合の発酵液ドウを作り完全系(イースト、砂糖、塩/小麦粉)と比較するというものでした。
小麦粉をあとから入れた発酵液ドウからのしみでる液体量と、その中の炭水化物量、タンパク質量いずれとも高い相関性があり、かたよりはありませんでした。つづいてはじめからづっと小麦粉の入ったパンドウからしみだす液体への影響についても検討しました。しみ出た溶液量とその中の炭水化物量、タンパク質量を定量し、相関性を求めるといずれも相関性が高く、タンパク質量のみ、炭水化物量のみと言った相関性の多少は無かったのです。このことはパンドウ中でも小麦粉の酵素類、例えばアミラーゼ、プロテアーゼ等の働きはしみでる液量には関係の低いことが推察されました。このことは小麦粉中の酵素類(アミラーゼ、プロテアーゼ類)はしみでる液量には効果の少なかったことを示すものでした。
種々の組み合わせ実験から、イースト+塩+小麦粉系のパンドウの場合、その完全系に比べて85%の液体をしみださせました。しかしイースト+塩/小麦粉系の発酵液系の場合、完全系にくらべて、36%ほどしかありません。いずれもイーストの餌(砂糖)は入ってませんが、パンドウでは小麦粉中の糖質を利用してイーストは発酵できますが、発酵液ではイーストはそれができません。従ってイーストの関与する発酵生産物がしみでる物質に関係していると思われました。冷凍ドウでも同様の傾向が見られました。
発酵生産物が原因ならば、時間とともにしみでる液量は増加するはずです。イースト、砂糖、食塩(完全系)で発酵時間をのばし(これまでの140分から280分まで)、そこに小麦粉を添加すると直線的に離水量は増加しました。食塩添加のみでもしみでる液体量はかなり多いです。その発酵生産物は食塩のみにでる液量にさらに加算されるようでした。
パンドウの砂糖、イースト、食塩(完全系)の中の食塩添加量を増加させてしみでる液量を調べると、5グラムまではしみでる液量は増え続けたがそれ以上になると、低下しました。食塩による小麦粉ドウからの溶液引きだしに何らかの変化が起きたと報告しました。
パンドウ中に食塩存在下でイーストによる発酵生産物ができ、それもしみでる液体量に大いに関連あるという論文です。冷凍ドウでも同じしみだし増加傾向を示しましたので、冷凍によるしみだし増加のメカニズムは、パンドウ成分によるものではなく、単なる氷結晶生成によるものと予想した論文でした。