2011年1月19日 09:34 (
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ホットケーキの話−10
パンやホットケーキなどのドウやバッター(ともに小麦粉に液体を加えて練ったものをいいます)では、米を炊飯するときに比べ、加水量の比率が低いため、これらのパンやホットケーキなどのデンプンはかなり糊化度が低くて、デンプン粒の原形をとどめています。
米は炊飯時に加える水の量が大変に多いですから、デンプンは十分糊化(α化)しています。だからご飯の方がパンやホットケーキよりも、消化はよくエネルギーが大きいのです。それに比べ、特にホットケーキより加水量の少ないパンの方が、消化は悪くデンプン粒の原形をとどめている傾向は大きいのです。
ということは、デンプン粒表面の性質が、パンやホットケーキの組織形成(膨らみ、弾力性)に大きく影響して、これを食べた時の食感にも大きく影響するということです。クロリネーションのデンプン粒表面の疎水化と弾力性獲得も正にそれです。デンプン粒表面の性質が大変に重要なのです。小生がデンプン粒表面にこだわるのはそんな理由です。
これまでの話で、小麦デンプン粒の表面タンパク質の存在とその定量方法の確立まで進めました。ではそのデンプン粒自体はどんな構造しているのか、興味の出るところです。
小麦デンプン粒には2種類あり、大粒(サイズ約20μメータ-)と小粒(約2μメーター)の2つです。その中間サイズはないため、おのおのの生合成ルートは別のものと考えられます。大粒の方が小麦粉酢酸分画した時にPS区分にくるもので、小粒の方はTailings区分に紛れ込みます。大粒はPS区分そのものです。
今クロリネーションのメカニズムの調査から、PS区分を追っかけているので大粒の方を調べました。この大粒の形はというと、横から見ると凸レンズ状で、上から見ると円形です。粒はお椀状のもの2枚が真ん中で張り付いているように見えます。張り付いたところには線が見え、これを赤道溝(equatorial groove)と呼んでいます。ここのところが構造的には弱そうです。
大粒を割ってその内部を見たいのですが、みるならばお椀状のものがはり付いている赤道溝のところが弱そうで、ここを引き離したら内部がきれいに見えそうでした。
デンプン粒を水中で熱すれば糊化し、デンプン粒はくちゃくちゃになり、何れも歪んでしまいます。また、アミラーゼなどの酵素作用でも酵素で何が起るか不明です。酵素も使いたくないのです。
加熱したり、酵素など用いないで何とか粒を開けないだろうかと。
界面活性剤など使って前回述べたように粒表面からはいろいろなものが外れてゆきます。次第に内部に及び、粒の形を保持しながら元の姿が変形してゆきます。
何かデンプン粒の表面環境を変化させて、粒がうまくオープンしないだろうかと考えました。
デンプン粒表面の環境を変えるために、レマゾールブリリアントブルー(RBB)色素で粒表面を染色したデンプン粒を用いました。これを用いて、半日間室温で前回述べたメルカプトエタノールという還元剤を入れたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で撹拌しながら、洗浄操作を行いました。
走査型電子顕微鏡(SEM)でこのサンプルを観察しました。研究者は金長助手(当時)でした。彼女は極めて熱心なSEM観察者でした。その当時の本学のSEMには旧式のためコンピューターが入っておらず、全て手動式でした。彼女は1枚の写真を撮るのにも、数十分から1時間ほどかけ、微調整しながら取ってゆきました。その写真は素晴らしいもので、陰影の明快さもコンピューター以上のものでした。徹夜で多くの写真を撮ってくれました。すぐにCereal Chemistryに投稿しました。先方のレフェリーからは彼女の取った写真に対し絶賛でした。
この方法でやると、デンプン粒は先述のような赤道溝の所から2つに割れるものが多くみられました。
童話の世界、桃から生まれた桃太郎のような割れ方でした。あるものは、ハンバーガーの2枚のバンが少々ずれて見えるといったようなものもありました。
1個のデンプン粒が2つに割れ、内部はというと何か桃の種子が中心部にあるようで、中心部は周縁部と異なった構造が認められました。
粒には2重構造があるようでした。いろいろな角度の写真から、デンプン粒の内部構造を推察しました。このような写真はこれまで雑誌にはなかったので、Cereal ChemistryはすぐにAcceptしてくれました(Cereal Chem. 74:548-552, 1997)。
金長氏は体調を崩され、大病で入院することになりました。小生も数回病院へお見舞いに行きました。ちょうどそのころ、彼女の取った電顕写真の掲載された論文の別刷りがCereal Chemから郵送されてきました。
その別刷りを病院に持ってゆきました。ベッドで寝ていた彼女に報告しました。彼女は感激したのか、それを見て泣いていました。命がけで撮影された電顕写真だったことは確かです。
現在、ご本人は元気になり、大学に復帰されています。
米は炊飯時に加える水の量が大変に多いですから、デンプンは十分糊化(α化)しています。だからご飯の方がパンやホットケーキよりも、消化はよくエネルギーが大きいのです。それに比べ、特にホットケーキより加水量の少ないパンの方が、消化は悪くデンプン粒の原形をとどめている傾向は大きいのです。
ということは、デンプン粒表面の性質が、パンやホットケーキの組織形成(膨らみ、弾力性)に大きく影響して、これを食べた時の食感にも大きく影響するということです。クロリネーションのデンプン粒表面の疎水化と弾力性獲得も正にそれです。デンプン粒表面の性質が大変に重要なのです。小生がデンプン粒表面にこだわるのはそんな理由です。
これまでの話で、小麦デンプン粒の表面タンパク質の存在とその定量方法の確立まで進めました。ではそのデンプン粒自体はどんな構造しているのか、興味の出るところです。
小麦デンプン粒には2種類あり、大粒(サイズ約20μメータ-)と小粒(約2μメーター)の2つです。その中間サイズはないため、おのおのの生合成ルートは別のものと考えられます。大粒の方が小麦粉酢酸分画した時にPS区分にくるもので、小粒の方はTailings区分に紛れ込みます。大粒はPS区分そのものです。
今クロリネーションのメカニズムの調査から、PS区分を追っかけているので大粒の方を調べました。この大粒の形はというと、横から見ると凸レンズ状で、上から見ると円形です。粒はお椀状のもの2枚が真ん中で張り付いているように見えます。張り付いたところには線が見え、これを赤道溝(equatorial groove)と呼んでいます。ここのところが構造的には弱そうです。
大粒を割ってその内部を見たいのですが、みるならばお椀状のものがはり付いている赤道溝のところが弱そうで、ここを引き離したら内部がきれいに見えそうでした。
デンプン粒を水中で熱すれば糊化し、デンプン粒はくちゃくちゃになり、何れも歪んでしまいます。また、アミラーゼなどの酵素作用でも酵素で何が起るか不明です。酵素も使いたくないのです。
加熱したり、酵素など用いないで何とか粒を開けないだろうかと。
界面活性剤など使って前回述べたように粒表面からはいろいろなものが外れてゆきます。次第に内部に及び、粒の形を保持しながら元の姿が変形してゆきます。
何かデンプン粒の表面環境を変化させて、粒がうまくオープンしないだろうかと考えました。
デンプン粒表面の環境を変えるために、レマゾールブリリアントブルー(RBB)色素で粒表面を染色したデンプン粒を用いました。これを用いて、半日間室温で前回述べたメルカプトエタノールという還元剤を入れたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で撹拌しながら、洗浄操作を行いました。
走査型電子顕微鏡(SEM)でこのサンプルを観察しました。研究者は金長助手(当時)でした。彼女は極めて熱心なSEM観察者でした。その当時の本学のSEMには旧式のためコンピューターが入っておらず、全て手動式でした。彼女は1枚の写真を撮るのにも、数十分から1時間ほどかけ、微調整しながら取ってゆきました。その写真は素晴らしいもので、陰影の明快さもコンピューター以上のものでした。徹夜で多くの写真を撮ってくれました。すぐにCereal Chemistryに投稿しました。先方のレフェリーからは彼女の取った写真に対し絶賛でした。
この方法でやると、デンプン粒は先述のような赤道溝の所から2つに割れるものが多くみられました。
童話の世界、桃から生まれた桃太郎のような割れ方でした。あるものは、ハンバーガーの2枚のバンが少々ずれて見えるといったようなものもありました。
1個のデンプン粒が2つに割れ、内部はというと何か桃の種子が中心部にあるようで、中心部は周縁部と異なった構造が認められました。
粒には2重構造があるようでした。いろいろな角度の写真から、デンプン粒の内部構造を推察しました。このような写真はこれまで雑誌にはなかったので、Cereal ChemistryはすぐにAcceptしてくれました(Cereal Chem. 74:548-552, 1997)。
金長氏は体調を崩され、大病で入院することになりました。小生も数回病院へお見舞いに行きました。ちょうどそのころ、彼女の取った電顕写真の掲載された論文の別刷りがCereal Chemから郵送されてきました。
その別刷りを病院に持ってゆきました。ベッドで寝ていた彼女に報告しました。彼女は感激したのか、それを見て泣いていました。命がけで撮影された電顕写真だったことは確かです。
現在、ご本人は元気になり、大学に復帰されています。
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