2011年3月15日 19:12 (瀬口 正晴)
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ホットケーキの話−18
さらに乾熱処理小麦粉PS(小麦デンプン大粒)区分のバッター中の気泡安定性を検討しました。これはクロリネーションの時に行った時と同様の実験です。その方法はホットケーキの話、第5回に書いた通リです。
乾燥熱処理小麦デンプン粒(120℃, 1, 2, 5 時間)500mgを水に懸濁し、ここに起泡剤として2%イソアミルアルコールを入れ、縦型の震盪機で激しく30分間震盪後、数秒置きに、泡の消えてゆく状況を写真にとりました。全く乾熱処理しないコントロールに比べ、120℃乾熱処理デンプンによる泡安定性を比較する研究でした (Cereal Chem. 65: 375-376, 1988)。
乾熱処理時間が伸びるに伴って、デンプン粒表面の疎水性は大きくなりますが、やはりイソアミルアルコールで生じた気泡は、このデンプン粒で次第に安定化しました。最終的に全ての泡は消えてしまいますが、その間の気泡の安定性に差が認められました。現像写真から各試験管中の泡の高さを測定することからデーターを得ることが出来ました。これはクロリネーションの時と同じことでした。
ホットケーキ組織中にあっても、バッター中の二酸化炭素による泡は、乾熱処理小麦粉のPS区分の疎水化により安定化し、ホットケーキの組織安定化にも関与するものと思われました。
乾熱処理小麦粉を酢酸分画した後、PS, T区分間の相互作用が確認できましたが、ホットケーキベーキング中でもこれが食感改良に結びついていると思われました。何と言ってもPS とT区分とで小麦粉のほぼ80%を占めていますから。
T区分にも親油性のあることが証明されました(Starke 61, 389-406, 2009)。
さらに共同研究者の小澤氏は、乾熱処理によるPS, T区分間の相互作用を次のように証明しました。PS区分のみをヨード染色してほぼ黒くし、T区分はそのままのほぼ白色にして、乾熱処理によるPS, T区分間の相互作用を巧みに色の混合で証明しました。
即ち、未乾熱処理小麦粉からのPS, T区分は、きれいに白(T区分)、黒(PS区分)が遠心分離で分かれますが、PS, T区分を乾燥熱処理すると,PS, T区分間は相互作用により分離しなくなり、色も分離しなくなるという訳です。
更に、彼女と一緒に仕事をやっていた大学院(マスターコース)の加藤 幸恵さんは、小麦粉の乾熱処理により生じるアミログラフ最高粘度の上昇と、糊化開始温度の低下の原因を調べました。彼女は、アミログラフ実験中のデンプン粒をアミログラフカップから各温度でサンプリングし、その顕微鏡観察を行いました。
そして乾熱処理、未処理小麦粉の同一実験の、同一温度でのデンプン大粒の形状変化とその膨潤を比較しました。
しかし、未処理小麦粉中のに比べ、乾熱処理小麦粉中のデンプン粒の糊化膨潤の増加は認められなかったのです。
彼女はその原因を調べる為に、さらに小麦粉からまず水溶性区分を除去して、それを乾燥後、半分は乾熱処理して、半分は未処理のままで、同様のアミログラフプロフィールをそれぞれ求めました。アミログラフの最高粘度、糊化開始温度の乾熱処理による変化はそのまま保持されたのです。
さらに小麦粉から水溶性区分とグルテン区分を酢酸分画法で除去して、pHを調整後、乾燥し、半分は未処理、半分は乾熱処理を行ってアミログラフを求めると、今度は乾熱処理、未処理小麦粉からの両プロフィールが一致したのです。
即ち、乾熱処理小麦粉と未処理小麦粉を比べ、乾熱処理による最高粘度増加、糊化開始温度低下の原因は、小麦粉中のグルテン区分への乾熱処理の効果の大きいことが推察されました(Starke 61, 389-406, 2009)。
この辺は、これからの大きな研究テーマだと思ってます。
東北関東大震災に合われた皆様、衷心からお悔やみ申し上げます。
管理栄養士、栄養士の皆さん、困窮の方々をお助けください。頑張りましょう。
つづく
乾燥熱処理小麦デンプン粒(120℃, 1, 2, 5 時間)500mgを水に懸濁し、ここに起泡剤として2%イソアミルアルコールを入れ、縦型の震盪機で激しく30分間震盪後、数秒置きに、泡の消えてゆく状況を写真にとりました。全く乾熱処理しないコントロールに比べ、120℃乾熱処理デンプンによる泡安定性を比較する研究でした (Cereal Chem. 65: 375-376, 1988)。
乾熱処理時間が伸びるに伴って、デンプン粒表面の疎水性は大きくなりますが、やはりイソアミルアルコールで生じた気泡は、このデンプン粒で次第に安定化しました。最終的に全ての泡は消えてしまいますが、その間の気泡の安定性に差が認められました。現像写真から各試験管中の泡の高さを測定することからデーターを得ることが出来ました。これはクロリネーションの時と同じことでした。
ホットケーキ組織中にあっても、バッター中の二酸化炭素による泡は、乾熱処理小麦粉のPS区分の疎水化により安定化し、ホットケーキの組織安定化にも関与するものと思われました。
乾熱処理小麦粉を酢酸分画した後、PS, T区分間の相互作用が確認できましたが、ホットケーキベーキング中でもこれが食感改良に結びついていると思われました。何と言ってもPS とT区分とで小麦粉のほぼ80%を占めていますから。
T区分にも親油性のあることが証明されました(Starke 61, 389-406, 2009)。
さらに共同研究者の小澤氏は、乾熱処理によるPS, T区分間の相互作用を次のように証明しました。PS区分のみをヨード染色してほぼ黒くし、T区分はそのままのほぼ白色にして、乾熱処理によるPS, T区分間の相互作用を巧みに色の混合で証明しました。
即ち、未乾熱処理小麦粉からのPS, T区分は、きれいに白(T区分)、黒(PS区分)が遠心分離で分かれますが、PS, T区分を乾燥熱処理すると,PS, T区分間は相互作用により分離しなくなり、色も分離しなくなるという訳です。
更に、彼女と一緒に仕事をやっていた大学院(マスターコース)の加藤 幸恵さんは、小麦粉の乾熱処理により生じるアミログラフ最高粘度の上昇と、糊化開始温度の低下の原因を調べました。彼女は、アミログラフ実験中のデンプン粒をアミログラフカップから各温度でサンプリングし、その顕微鏡観察を行いました。
そして乾熱処理、未処理小麦粉の同一実験の、同一温度でのデンプン大粒の形状変化とその膨潤を比較しました。
しかし、未処理小麦粉中のに比べ、乾熱処理小麦粉中のデンプン粒の糊化膨潤の増加は認められなかったのです。
彼女はその原因を調べる為に、さらに小麦粉からまず水溶性区分を除去して、それを乾燥後、半分は乾熱処理して、半分は未処理のままで、同様のアミログラフプロフィールをそれぞれ求めました。アミログラフの最高粘度、糊化開始温度の乾熱処理による変化はそのまま保持されたのです。
さらに小麦粉から水溶性区分とグルテン区分を酢酸分画法で除去して、pHを調整後、乾燥し、半分は未処理、半分は乾熱処理を行ってアミログラフを求めると、今度は乾熱処理、未処理小麦粉からの両プロフィールが一致したのです。
即ち、乾熱処理小麦粉と未処理小麦粉を比べ、乾熱処理による最高粘度増加、糊化開始温度低下の原因は、小麦粉中のグルテン区分への乾熱処理の効果の大きいことが推察されました(Starke 61, 389-406, 2009)。
この辺は、これからの大きな研究テーマだと思ってます。
東北関東大震災に合われた皆様、衷心からお悔やみ申し上げます。
管理栄養士、栄養士の皆さん、困窮の方々をお助けください。頑張りましょう。
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