2011年12月19日 20:35 (
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パンの話24 (酢酸ガス処理小麦粉によるパン−6)
小麦粉の酢酸ガス処理が、なぜパンの膨らみに貢献するのかという事が次に問題になります。小生のところの林真知子さんは、これを研究テーマとして学位論文を仕上げました。
彼女は数多くの小麦粉(外麦、内麦)で酢酸ガス処理小麦粉を作り、片っ端からそれを製パン試験し、酢酸ガス処理レベルと小麦粉タンパク質の間に大きな関係があることを明らかにしました。
小麦粉に吸収された酢酸ガスが、その小麦粉のパンドウにイーストを混入したドウを加温する時に、どのような影響を与えるのであろうかを探りました。
ドウから発生するガス量はガス発生装置で、膨張するドウの容積変化は膨張測定装置を用いて測定しました。そこではパンドウ(イーストを含む)のかたまりをプラスチックの筒内に押し込み、さらにゴム栓で底部を封じます。これを一定温度の恒温槽内に立てて、ドウの膨張を望遠鏡のようなカセトメーターで測定できます。と同時にドウから生じる炭酸ガス量をそのガスが排水する排水量を測定する装置に附属して測定できます。
ドウは恒温槽中で伸張してゆきますが、あるところにくると、ドウ上面が破れそれとともにガスが漏れてしまい、ドウの伸張は止まってしまいました。
イーストの発生する炭酸ガスの方も、ある点でその発生は止まってしまう事がわかりました。しかしドウ伸張の止まるところ、ガス発生の中止するところは、小麦粉の酢酸ガス処理レベルの違いで相違のあることがわかりました。つまりある点まではドウの伸張はつづき、酢酸ガス処理によりそのドウの伸張はより長くなり、炭酸ガスの発生中止するところも酢酸ガス処理レベルの違いによって異なる事がわかりました。
即ち、製パン性のよくなる酢酸ガス処理レベルでは、ドウの伸張性は大きくなり、炭酸ガス発生量も大きくなるのです。酢酸ガス処理量が最大製パン量を与える時にはドウにいい伸張性が出てくること、イーストのガス発生能も大きくなる事が見出されたのです。
こうして小麦粉への酢酸ガス処理は、2つのポイントで製パン性に貢献するようでした。
その1つは小麦ドウの伸展性に関与する事、1つはイーストのガス発生に関与するという事です。
まづ酢酸によるイースト炭酸ガス発生能の増加についてであります。
彼女は酢酸以外の有機酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸等がイーストのガス発生能へどのような影響を与えるかについての検討も進めました。
彼女の方法は極めてシンプルです。
シリンダー(注射筒)を用いて、その先端をゴム栓に突っ込んで封をし、一定量のイースト/砂糖/水懸濁液をそこに入れ空気の入らぬようにピストンをセットするのです。このまま一定温度の湯中に入れて加温します。湯中にあってイーストは、懸濁液中の砂糖をえさにして増加をはじめ、ガス発生を始めます。
生じたガス量によりシリンダー中の内圧は上昇し、ピストンを押し上げます。そのガス発生量をメモリから読み取ります。この懸濁液の中に有機酸を加え、発生ガス量を比較検討するわけです。
各有機酸を用いてこの実験を進めましたが、その結果、酢酸のガス発生の挙動に他とは違った異常性がありました。
酢酸の場合、低濃度の時、急激なガス発生があったのが、濃度増加に伴ってそのガス発生は急に中断してしまいました。
ところが他の有機酸の場合、低濃度での急激なガス発生は無く、このような酢酸で見られたガス発生停止と言った傾向は全くなかったのです。これらの酸は酸濃度の増加に伴って、僅かですが次第にガス発生量は増加してゆくのでした。
この事は何を意味しているのでしょうか。即ち酢酸は低濃度の場合にはイーストのガス発生能を大いに刺激し、多量のガス発生に及んだが、濃度が更に上昇すると炭酸ガス発生能は急激に停止したのです。
この傾向は他の酸には全く認められずに酢酸独特のイーストのガス発生能との関係でした。
その原因は水中における酢酸の低解離度のためと思われました。酢酸の水中における低解離度はよく知られているところです。
酢酸の場合には、解離度が低いために水中にあって殆どイオン化されないのでイーストの菌体中に分子がそのまま吸収されてゆくのです。菌体表面でのイオン結合などで邪魔されることは無く吸収されるのでしょう。
従ってそのまま菌体に入り、低濃度の場合には菌の生理メカニズムを刺激して、活性化し、炭酸ガスを多量に出す。それに対し、ある濃度以上になると酢酸はイーストの生理機能を止めてしまうのでしょう。そのために菌体は死滅してしまうのでしょう。
小麦粉の酢酸ガス処理で製パン性が改良されたのは、この低レベルの酢酸によるイーストへの影響が生じたものと思われました。
彼女は数多くの小麦粉(外麦、内麦)で酢酸ガス処理小麦粉を作り、片っ端からそれを製パン試験し、酢酸ガス処理レベルと小麦粉タンパク質の間に大きな関係があることを明らかにしました。
小麦粉に吸収された酢酸ガスが、その小麦粉のパンドウにイーストを混入したドウを加温する時に、どのような影響を与えるのであろうかを探りました。
ドウから発生するガス量はガス発生装置で、膨張するドウの容積変化は膨張測定装置を用いて測定しました。そこではパンドウ(イーストを含む)のかたまりをプラスチックの筒内に押し込み、さらにゴム栓で底部を封じます。これを一定温度の恒温槽内に立てて、ドウの膨張を望遠鏡のようなカセトメーターで測定できます。と同時にドウから生じる炭酸ガス量をそのガスが排水する排水量を測定する装置に附属して測定できます。
ドウは恒温槽中で伸張してゆきますが、あるところにくると、ドウ上面が破れそれとともにガスが漏れてしまい、ドウの伸張は止まってしまいました。
イーストの発生する炭酸ガスの方も、ある点でその発生は止まってしまう事がわかりました。しかしドウ伸張の止まるところ、ガス発生の中止するところは、小麦粉の酢酸ガス処理レベルの違いで相違のあることがわかりました。つまりある点まではドウの伸張はつづき、酢酸ガス処理によりそのドウの伸張はより長くなり、炭酸ガスの発生中止するところも酢酸ガス処理レベルの違いによって異なる事がわかりました。
即ち、製パン性のよくなる酢酸ガス処理レベルでは、ドウの伸張性は大きくなり、炭酸ガス発生量も大きくなるのです。酢酸ガス処理量が最大製パン量を与える時にはドウにいい伸張性が出てくること、イーストのガス発生能も大きくなる事が見出されたのです。
こうして小麦粉への酢酸ガス処理は、2つのポイントで製パン性に貢献するようでした。
その1つは小麦ドウの伸展性に関与する事、1つはイーストのガス発生に関与するという事です。
まづ酢酸によるイースト炭酸ガス発生能の増加についてであります。
彼女は酢酸以外の有機酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸等がイーストのガス発生能へどのような影響を与えるかについての検討も進めました。
彼女の方法は極めてシンプルです。
シリンダー(注射筒)を用いて、その先端をゴム栓に突っ込んで封をし、一定量のイースト/砂糖/水懸濁液をそこに入れ空気の入らぬようにピストンをセットするのです。このまま一定温度の湯中に入れて加温します。湯中にあってイーストは、懸濁液中の砂糖をえさにして増加をはじめ、ガス発生を始めます。
生じたガス量によりシリンダー中の内圧は上昇し、ピストンを押し上げます。そのガス発生量をメモリから読み取ります。この懸濁液の中に有機酸を加え、発生ガス量を比較検討するわけです。
各有機酸を用いてこの実験を進めましたが、その結果、酢酸のガス発生の挙動に他とは違った異常性がありました。
酢酸の場合、低濃度の時、急激なガス発生があったのが、濃度増加に伴ってそのガス発生は急に中断してしまいました。
ところが他の有機酸の場合、低濃度での急激なガス発生は無く、このような酢酸で見られたガス発生停止と言った傾向は全くなかったのです。これらの酸は酸濃度の増加に伴って、僅かですが次第にガス発生量は増加してゆくのでした。
この事は何を意味しているのでしょうか。即ち酢酸は低濃度の場合にはイーストのガス発生能を大いに刺激し、多量のガス発生に及んだが、濃度が更に上昇すると炭酸ガス発生能は急激に停止したのです。
この傾向は他の酸には全く認められずに酢酸独特のイーストのガス発生能との関係でした。
その原因は水中における酢酸の低解離度のためと思われました。酢酸の水中における低解離度はよく知られているところです。
酢酸の場合には、解離度が低いために水中にあって殆どイオン化されないのでイーストの菌体中に分子がそのまま吸収されてゆくのです。菌体表面でのイオン結合などで邪魔されることは無く吸収されるのでしょう。
従ってそのまま菌体に入り、低濃度の場合には菌の生理メカニズムを刺激して、活性化し、炭酸ガスを多量に出す。それに対し、ある濃度以上になると酢酸はイーストの生理機能を止めてしまうのでしょう。そのために菌体は死滅してしまうのでしょう。
小麦粉の酢酸ガス処理で製パン性が改良されたのは、この低レベルの酢酸によるイーストへの影響が生じたものと思われました。
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