2012年1月 4日 20:12 (瀬口 正晴)
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パンの話26 (酢酸ガス処理小麦粉によるパン−8)
小麦粉の酢酸ガス処理によリ得られる製パン性改良のメカニズムは、ドウの伸張実験、ガス発生実験から二つのメカニズムが考えられました。
その一つは、イーストの発生するガス量への酢酸ガス処理による影響でした。すなわちイースト菌体への酢酸の影響でした。
いま一つは、酢酸ガスによる小麦粉ドウ物性への影響でした。すなわち小麦粉の酢酸ガス処理によって、それを使ったドウはよりやや柔らかくなり、少々伸張するようになるのでした。
その理由については以下のように考えました。
これまで小麦粉の酢酸分画法については何度かお話しいたしましたが,酢酸を使って、小麦粉を水溶性区分(10%)、グルテン区分(10%)、テーリングス区分(40%)、プライムスタ−チ区分(40%)に分画するのです。特に水溶性区分、グルテン区分を除いた後、テーリングス区分を分画するのに、pH3.5の状態の懸濁液を撹拌しながらアルカリを添加してpH5.0に戻します。その間、懸濁液はかなりの粘性変化を示す事が観察されました。
懸濁液のpHを3.5から5.0に戻すとその粘性は消えて、急激にしゃばしゃばの懸濁液に変化し、この現象は面白いなと以前から思っていました。
こうしてから遠心分離するとプライムスターチ区分(純白のドライな層)とテーリングス区分(黄褐色の粘度のある層)はよく分離するのです。プライムスターチとは、デンプン大粒(〜20μm)又はA粒の事ですが、このpHによる粘性変化とは関係ないでしょう。このpH3.5で粘性を高くしたのはテーリングス区分です。
こうして考えると、酢酸ガス処理でドウ物性の変化を生じた原因となったのは、テーリングス区分中の何かがその酸性化に伴って生じたためと推察されました。
テーリングス区分とは辞書で辞書を引くとわかるように、ゴミ箱のくずという意味です。ここには小麦粉中の水不溶性物質が集まり、それは水不溶多糖類、タンパク質であり、脂質です。そのうちpHで変化しやすいのはやはりタンパク質でしょう。
テーリングス区分のみを取り出し、その懸濁液のpHを変化してスターラーで撹拌するあいだ、pHの低下で見る見るうちに粘度があがってくる事が簡単に観察されます。果たしてこれがタンパク質かどうかの決め手は、この中にプロテアーゼを加えた実験です。この酸性下で働くプロテアーゼはペプシンでしょう。
ペプシンをテーリングス区分に添加して撹拌してゆくと、テーリングス中のタンパク質区分に働いて、急激にその性質を失ってゆく事が観察されました。すなわちペプシン添加で、pH を変えなくてもこれまでの粘性が消え、しゃばしゃばの懸濁液に変化したのです。
この事から、テーリングス区分中のタンパク質への酢酸の影響があって、良く吸水したドウの物性はやわらかくし、その結果粘性発生にいたり、ドウに物性の変化にいたり、製パン性改良に至ったものと推察されたのです。
つづく
その一つは、イーストの発生するガス量への酢酸ガス処理による影響でした。すなわちイースト菌体への酢酸の影響でした。
いま一つは、酢酸ガスによる小麦粉ドウ物性への影響でした。すなわち小麦粉の酢酸ガス処理によって、それを使ったドウはよりやや柔らかくなり、少々伸張するようになるのでした。
その理由については以下のように考えました。
これまで小麦粉の酢酸分画法については何度かお話しいたしましたが,酢酸を使って、小麦粉を水溶性区分(10%)、グルテン区分(10%)、テーリングス区分(40%)、プライムスタ−チ区分(40%)に分画するのです。特に水溶性区分、グルテン区分を除いた後、テーリングス区分を分画するのに、pH3.5の状態の懸濁液を撹拌しながらアルカリを添加してpH5.0に戻します。その間、懸濁液はかなりの粘性変化を示す事が観察されました。
懸濁液のpHを3.5から5.0に戻すとその粘性は消えて、急激にしゃばしゃばの懸濁液に変化し、この現象は面白いなと以前から思っていました。
こうしてから遠心分離するとプライムスターチ区分(純白のドライな層)とテーリングス区分(黄褐色の粘度のある層)はよく分離するのです。プライムスターチとは、デンプン大粒(〜20μm)又はA粒の事ですが、このpHによる粘性変化とは関係ないでしょう。このpH3.5で粘性を高くしたのはテーリングス区分です。
こうして考えると、酢酸ガス処理でドウ物性の変化を生じた原因となったのは、テーリングス区分中の何かがその酸性化に伴って生じたためと推察されました。
テーリングス区分とは辞書で辞書を引くとわかるように、ゴミ箱のくずという意味です。ここには小麦粉中の水不溶性物質が集まり、それは水不溶多糖類、タンパク質であり、脂質です。そのうちpHで変化しやすいのはやはりタンパク質でしょう。
テーリングス区分のみを取り出し、その懸濁液のpHを変化してスターラーで撹拌するあいだ、pHの低下で見る見るうちに粘度があがってくる事が簡単に観察されます。果たしてこれがタンパク質かどうかの決め手は、この中にプロテアーゼを加えた実験です。この酸性下で働くプロテアーゼはペプシンでしょう。
ペプシンをテーリングス区分に添加して撹拌してゆくと、テーリングス中のタンパク質区分に働いて、急激にその性質を失ってゆく事が観察されました。すなわちペプシン添加で、pH を変えなくてもこれまでの粘性が消え、しゃばしゃばの懸濁液に変化したのです。
この事から、テーリングス区分中のタンパク質への酢酸の影響があって、良く吸水したドウの物性はやわらかくし、その結果粘性発生にいたり、ドウに物性の変化にいたり、製パン性改良に至ったものと推察されたのです。
つづく
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