2012年1月27日 10:05 (
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パンの話28 (酢酸ガス処理小麦粉によるパン−10)
あるレベルの小麦粉酢酸ガス処理で、製パン性(パン高、比容積)の上昇する事が知られました。この変化の理由としてpH低下によるドウ物性の変化があげられました。特に、小麦粉テーリングス区分中のタンパク質がpHの変化で大きく吸水率を変え、粘性変化に貢献する事を見い出しました。
すなわち、テーリングス区分の水懸濁液にpHメーターの電極をつっこんで、撹拌子で撹拌しながら中性からpH3.5の酸性側へもってゆくと、水懸濁の粘性が急激に変化し、今までシャバシャバだったものが急に粘性を示し、撹拌子の回転がおそくなるという事でした。
この変化はプロテアーゼの一つ、ペプシンで処理すると消え、つまりその原因がテーリングス中のタンパク質のためであることが明らかになりました。テーリングス区分とは、小麦粉中の水不溶性物質の集まったのゴミ捨て場で、水不溶性のあらゆるタンパク質等もこの中に混入しています。しかし量的には僅かで、どんなものか同定は難いのです。グルテンタンパク質の可能性も大きいのです。
テーリングス区分を得るためには、小麦粉からまず水溶性区分を除いて、さらにその残さの懸濁液のpHを3.5に持ってゆき可溶性グルテンタンパク質区分を除きます。グルテン区分はほぼ小麦粉中の10%です。しかしグルテンタンパク質の内の全てがここに集まっているかどうかは不明です。
グルテンタンパク質そのものがまだその定義やら、性質やら、何やかんのと難しい不明の区分です。
グリアジン、グルテニンタンパク質が小麦粉の中で不溶化しており、水を加えて練ってやるとそれらが互いに絡み合って、あのグルテンと称する独特のモチ状の物質にかわり、パンやケーキ、めんなどの組織形成に大切な役割を果たしているわけです。グリアジン、グルテニンの複合体がグルテンタンパク質を形成するのです。
分子量はグリアジン(アルコール可溶区分)よりグルテニン(アルコール不溶区分)の方が大きくて、グリアジンは水素結合でまとまり、グルテニンはSS結合を作って巨大にまとまる性質がありますね。グリアジンは納豆の糸状のかたまり、グルテニンはゴム状の弾力性のあるかたまりで、グルテンとなるとそれらが混じり合ってパンドウ独特のねばりの性質となります。
この貯蔵タンパク質であるグルテンタンパク質が、しかしながら極めて多岐にわたるサブユニット(分子の集まり)からなってます。この貯蔵タンパク質は長い長い歴史の中でいろいろな各々の違った形の貯蔵タンパク質のサブユニットとなってたまってきた結果と思っています。
今、テーリングス中にあるグルテンタンパク質を見た場合、一応pH3.5でグルテンタンパク質がすべて溶ける場合にはこの中にはグルテンタンパク質はないはずです。
そこで中村先生は以下のように研究案を立てました。本格的に全グルテンタンパク質を集めてみようと。そしてそこからpH3.5の可溶グルテンを分離して更にそれに溶けないグ区分中のグルテンタンパク質と同一ではないだろうかという考えです。全グルテンタンパク質を小麦粉から集めるにはどうするかです。
一般にグルテンタンパク質を集める方法はニーデング法です。まず小麦粉に水を含ませ、手で団子状のかたまりとし、そのかたまりを水中で指で捏ねてゆくのです。その内にこのかたまりの中から水に溶ける成分ははずれて、デンプン粒のようなものもはずれて水中にさらさらと抜けてゆきます。これを20−30分も続けてると、水は白濁した懸濁液となり、手の中には黄色の柔らかいかたまりが残ります。
これ以上何も出てこないです。これが全グルテンタンパク質です。
次に中村先生はこのグルテンを凍結乾燥後、パウダーとし、このパウダーをpH3.5の酢酸溶液中で可溶化しようとしたのです。
しかしながら、実際にはこうして水中でもみながら取り出したグルテンタンパク質は、pH3.5酢酸溶液には可溶化しないのです。多分その原因は水中において撹拌する中でグルテンタンパク質は酸化されて大きなネットワークをつくり、巨大分子化して不溶化したのでしょう。
こうなるとテーリングス区分中のグルテンタンパク質と同じものを取り出す事は難しい。
pH3.5溶液中のこの不溶化したグルテンタンパク質を何とか可溶化したいものだと、超音波処理(sonication, 20KHz)を加えました(数十秒間)。
この場合、グルテン区分はうまく可溶化する事ができ、pH3.5可溶と不溶区分がそれぞれ80-90%,10-20%と分画ができました。しかし超音波処理は物理的力でオリジナルのグルテン分子を破壊し、小麦粉中にあったグルテンとは違っているかもしれません。
中村先生は、このニーデングで得たグルテンタンパク質を還元処理して可溶化ができないかどうか考えました。このタンパク質の還元処理とは還元剤で行なうわけですが、ここでは2−メルカプトエタノールというアルコールの一種で処理するのが一般的です。
すなわち溶けないグルテンタンパク質を1%2−メルカプトエタノール還元液中で一定時間撹拌しました。グルテンタンパク質の懸濁液は2−メルカプトエタノール溶液に可溶化したのです。
これを遠心分離して可溶区分と不溶区分に分離すると、前者が80-90%、後者が10-20%でした。その結果、果たしてこの不溶区分とテーリングス区分中のグルテンタンパク質と思われるものが同じかどうか、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で検討中です。
テーリングス区分中のタンパク質は、クマシーブリリアントブルー(CBB)というタンパク質染料でブルーに染められ、そのタンパク質を集め、このグルテンタンパク質と比較しようというのです。
その方法は、HPLC法、あるいは電気泳動法です。グルテンタンパク質の新しい機能の発見に結びつくでしょう。
すなわち、テーリングス区分の水懸濁液にpHメーターの電極をつっこんで、撹拌子で撹拌しながら中性からpH3.5の酸性側へもってゆくと、水懸濁の粘性が急激に変化し、今までシャバシャバだったものが急に粘性を示し、撹拌子の回転がおそくなるという事でした。
この変化はプロテアーゼの一つ、ペプシンで処理すると消え、つまりその原因がテーリングス中のタンパク質のためであることが明らかになりました。テーリングス区分とは、小麦粉中の水不溶性物質の集まったのゴミ捨て場で、水不溶性のあらゆるタンパク質等もこの中に混入しています。しかし量的には僅かで、どんなものか同定は難いのです。グルテンタンパク質の可能性も大きいのです。
テーリングス区分を得るためには、小麦粉からまず水溶性区分を除いて、さらにその残さの懸濁液のpHを3.5に持ってゆき可溶性グルテンタンパク質区分を除きます。グルテン区分はほぼ小麦粉中の10%です。しかしグルテンタンパク質の内の全てがここに集まっているかどうかは不明です。
グルテンタンパク質そのものがまだその定義やら、性質やら、何やかんのと難しい不明の区分です。
グリアジン、グルテニンタンパク質が小麦粉の中で不溶化しており、水を加えて練ってやるとそれらが互いに絡み合って、あのグルテンと称する独特のモチ状の物質にかわり、パンやケーキ、めんなどの組織形成に大切な役割を果たしているわけです。グリアジン、グルテニンの複合体がグルテンタンパク質を形成するのです。
分子量はグリアジン(アルコール可溶区分)よりグルテニン(アルコール不溶区分)の方が大きくて、グリアジンは水素結合でまとまり、グルテニンはSS結合を作って巨大にまとまる性質がありますね。グリアジンは納豆の糸状のかたまり、グルテニンはゴム状の弾力性のあるかたまりで、グルテンとなるとそれらが混じり合ってパンドウ独特のねばりの性質となります。
この貯蔵タンパク質であるグルテンタンパク質が、しかしながら極めて多岐にわたるサブユニット(分子の集まり)からなってます。この貯蔵タンパク質は長い長い歴史の中でいろいろな各々の違った形の貯蔵タンパク質のサブユニットとなってたまってきた結果と思っています。
今、テーリングス中にあるグルテンタンパク質を見た場合、一応pH3.5でグルテンタンパク質がすべて溶ける場合にはこの中にはグルテンタンパク質はないはずです。
そこで中村先生は以下のように研究案を立てました。本格的に全グルテンタンパク質を集めてみようと。そしてそこからpH3.5の可溶グルテンを分離して更にそれに溶けないグ区分中のグルテンタンパク質と同一ではないだろうかという考えです。全グルテンタンパク質を小麦粉から集めるにはどうするかです。
一般にグルテンタンパク質を集める方法はニーデング法です。まず小麦粉に水を含ませ、手で団子状のかたまりとし、そのかたまりを水中で指で捏ねてゆくのです。その内にこのかたまりの中から水に溶ける成分ははずれて、デンプン粒のようなものもはずれて水中にさらさらと抜けてゆきます。これを20−30分も続けてると、水は白濁した懸濁液となり、手の中には黄色の柔らかいかたまりが残ります。
これ以上何も出てこないです。これが全グルテンタンパク質です。
次に中村先生はこのグルテンを凍結乾燥後、パウダーとし、このパウダーをpH3.5の酢酸溶液中で可溶化しようとしたのです。
しかしながら、実際にはこうして水中でもみながら取り出したグルテンタンパク質は、pH3.5酢酸溶液には可溶化しないのです。多分その原因は水中において撹拌する中でグルテンタンパク質は酸化されて大きなネットワークをつくり、巨大分子化して不溶化したのでしょう。
こうなるとテーリングス区分中のグルテンタンパク質と同じものを取り出す事は難しい。
pH3.5溶液中のこの不溶化したグルテンタンパク質を何とか可溶化したいものだと、超音波処理(sonication, 20KHz)を加えました(数十秒間)。
この場合、グルテン区分はうまく可溶化する事ができ、pH3.5可溶と不溶区分がそれぞれ80-90%,10-20%と分画ができました。しかし超音波処理は物理的力でオリジナルのグルテン分子を破壊し、小麦粉中にあったグルテンとは違っているかもしれません。
中村先生は、このニーデングで得たグルテンタンパク質を還元処理して可溶化ができないかどうか考えました。このタンパク質の還元処理とは還元剤で行なうわけですが、ここでは2−メルカプトエタノールというアルコールの一種で処理するのが一般的です。
すなわち溶けないグルテンタンパク質を1%2−メルカプトエタノール還元液中で一定時間撹拌しました。グルテンタンパク質の懸濁液は2−メルカプトエタノール溶液に可溶化したのです。
これを遠心分離して可溶区分と不溶区分に分離すると、前者が80-90%、後者が10-20%でした。その結果、果たしてこの不溶区分とテーリングス区分中のグルテンタンパク質と思われるものが同じかどうか、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で検討中です。
テーリングス区分中のタンパク質は、クマシーブリリアントブルー(CBB)というタンパク質染料でブルーに染められ、そのタンパク質を集め、このグルテンタンパク質と比較しようというのです。
その方法は、HPLC法、あるいは電気泳動法です。グルテンタンパク質の新しい機能の発見に結びつくでしょう。
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