2012年3月 7日 09:29 (瀬口 正晴)
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パンの話31 (マイタケ/小麦粉によるパン−3)
マイタケのプロテアーゼの話をし、このマイタケプロテアーゼが小麦粉グルテンタンパク質を溶解するために、製パン性が悪化する事をお話ししました。小麦粉中にマイタケ粉末をブレンドして製パンを行なうと、パンドウは可溶化して粘性を失い、製パン性が得られなかったわけです。
このマイタケのプロテアーゼ活性は強烈で、なかなか簡単に熱処理しても失活せず、製パンに用いるほどの量を作るためには、マイタケの粉を水中に懸濁して約30分間加熱処理をしないと完全には失活せず、そうしないとドウが膨化しないのでした。約30分間も煮沸すれば失活して製パン性は獲得されるという事です。
このマイタケのプロテアーゼは興味深い酵素です。この酵素に学習院女子大学の阿部 誠先生が興味を持たれました。阿部 誠先生とは旧知の友人で、彼は大豆タンパク質科学の研究を長く続けておられました。阿部 誠先生はこのマイタケプロテアーゼの作用機作を調べ、グルテンタンパク質の分解するメカニズムを証明されました。
電気泳動(SDS-PAGE)、カラムクロマト、エドマン分解法等のテクニックを駆使して、このマイタケプロテアーゼの性質とこの酵素によるグルテニン分子構造の分解物について検討されました。
マイタケ抽出液中にはカラムクロマトグラフィーから4本のタンパク質のピークのあることがわかり、そのうち2本のピークがこのプロテアーゼでした。阿部さんは、まずこのマイタケプロテアーゼをカラムクロマトグラフィーで単一にまで精製しました。グルテンにそのうち1つの酵素を作用させた後、SDSーPAGE(電気泳動)にかけました。そのプロフィールから、この酵素は特異的に高分子量グリアジンを分解する事がわかりました。低分子量のものは壊し難い様でした。
更にその高分子量グリアジン分解物(フラグメント)を電気泳動的にPVDF膜上で8個分別し、その内の7個のフラグメントをN末端からアミノ酸配列を調べました。
その結果、7個のうち6個のN末端はリジン(K)とわかり、K-C-R-S-V(3個)、K-Q-P-G-Q(2個)、K-R-Y-Y-P(1個)、K-A-C-R-Q(1個)と言うようにペプチドのアミノ酸配列を決めました。高分子量グルテニンタンパク質構造のうちリジンの部位を持つ場所を特異的に切断する酵素 peptidyl-Lys metalloendopeptidaseである事を明らかにしました。
本酵素は高分子グルテニンタンパク質のN末端から54, 461, 603番目のリジンを持つ構造の部位(夫々A-K, G-K, A-K)を特異的に切断するプロテアーゼである事を明らかにしました。
この酵素はマイタケ中にかなりたくさん存在しており、その点でプロテアーゼの精製は楽であったと阿部さんの話でした。
マイタケの中には生理活性の強いものがいろいろ含まれているのでしょうか。この酵素などは加工食品上、不適当なものですが、グルテンの加工特性を変化させる事ができる事から、何か小麦粉製品の応用には利用できないだろうか。
更にこのプルテアーゼを除去した後も多糖類などは抗腫瘍性物質として製パンなどの加工製品に利用できるのではないかと思っています。面白い食品素材と考えられます。
つづく
このマイタケのプロテアーゼ活性は強烈で、なかなか簡単に熱処理しても失活せず、製パンに用いるほどの量を作るためには、マイタケの粉を水中に懸濁して約30分間加熱処理をしないと完全には失活せず、そうしないとドウが膨化しないのでした。約30分間も煮沸すれば失活して製パン性は獲得されるという事です。
このマイタケのプロテアーゼは興味深い酵素です。この酵素に学習院女子大学の阿部 誠先生が興味を持たれました。阿部 誠先生とは旧知の友人で、彼は大豆タンパク質科学の研究を長く続けておられました。阿部 誠先生はこのマイタケプロテアーゼの作用機作を調べ、グルテンタンパク質の分解するメカニズムを証明されました。
電気泳動(SDS-PAGE)、カラムクロマト、エドマン分解法等のテクニックを駆使して、このマイタケプロテアーゼの性質とこの酵素によるグルテニン分子構造の分解物について検討されました。
マイタケ抽出液中にはカラムクロマトグラフィーから4本のタンパク質のピークのあることがわかり、そのうち2本のピークがこのプロテアーゼでした。阿部さんは、まずこのマイタケプロテアーゼをカラムクロマトグラフィーで単一にまで精製しました。グルテンにそのうち1つの酵素を作用させた後、SDSーPAGE(電気泳動)にかけました。そのプロフィールから、この酵素は特異的に高分子量グリアジンを分解する事がわかりました。低分子量のものは壊し難い様でした。
更にその高分子量グリアジン分解物(フラグメント)を電気泳動的にPVDF膜上で8個分別し、その内の7個のフラグメントをN末端からアミノ酸配列を調べました。
その結果、7個のうち6個のN末端はリジン(K)とわかり、K-C-R-S-V(3個)、K-Q-P-G-Q(2個)、K-R-Y-Y-P(1個)、K-A-C-R-Q(1個)と言うようにペプチドのアミノ酸配列を決めました。高分子量グルテニンタンパク質構造のうちリジンの部位を持つ場所を特異的に切断する酵素 peptidyl-Lys metalloendopeptidaseである事を明らかにしました。
本酵素は高分子グルテニンタンパク質のN末端から54, 461, 603番目のリジンを持つ構造の部位(夫々A-K, G-K, A-K)を特異的に切断するプロテアーゼである事を明らかにしました。
この酵素はマイタケ中にかなりたくさん存在しており、その点でプロテアーゼの精製は楽であったと阿部さんの話でした。
マイタケの中には生理活性の強いものがいろいろ含まれているのでしょうか。この酵素などは加工食品上、不適当なものですが、グルテンの加工特性を変化させる事ができる事から、何か小麦粉製品の応用には利用できないだろうか。
更にこのプルテアーゼを除去した後も多糖類などは抗腫瘍性物質として製パンなどの加工製品に利用できるのではないかと思っています。面白い食品素材と考えられます。
つづく
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