2012年12月 3日 20:15 (
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平成24年度応用糖質学会中国四国支部シンポジウムでの講演について
昨年(2011) 、アメリカ、カリフォルニア洲パームスプリング市でのSRT(Starch Round Table)、AACCI (America Association of Cereal Chemistry International) 大会時にご一緒した林原(株)の渡邊 光氏から、今年福山市(福山大学宮地茂記念館)で行なわれる応用糖質学会中国四国支部シンポジウム(11/16-17)での講演を依頼されました。
1時間の長時間の講演のため内容を少々盛りだくさんにするということで、いろいろ作戦を練りました。これまで進めてきた冷凍ドウによる製パン性劣化、そのメカニズム、最近の劣化回復のための多糖類添加の研究を講演しました。これは研究生の森元さんが行なってきた仕事です。
冷凍ドウによる製パンは、1960年頃にアメリカの企業から始まり、目下世界中で広く使われているやり方です。まず全て成分の入ったパンドウを作り、その冷凍ドウを各家庭に配り、自宅で焼いてフレッシュなものをたべてもらおうというのが目的です。
しかしこの冷凍ドウによる製パン性には問題がありました。それはパンの膨らみが低下するという最大の欠点です。森元さんは、2003年ごろから冷凍ドウによる製パン性劣化の改良研究をはじめ、少しずつ前進してきました。はじめ研究の糸口になるものはないかと追求しました。
いろいろトライアルするうちに、冷凍ドウは解凍するとそのドウ表面がぬれることに気付きました。解凍ドウ表面は未冷凍ドウに比べ、水がにじみ出てくるのです。それがどうも製パン性劣化と関係がありそうだと彼女は推測し、そこに研究のポイントを絞りました。
ドウを冷凍解凍すると製パン性は低下し、パン高、比容積は落ちます。その時同時にドウ表面に水分が滲んでくるのです。このにじんで来る液量を測れないだろうか?ドウを遠心分離して、遠沈管を45度の角度に傾け、コールドルームで30分間放置して上清液を測定しました。
冷凍解凍ドウの製パン結果とこの上清液(mL)との間には高い相関がありました。小麦粉の種類を変えても同様の結果が得られました。このため彼女は上清液の染み出てくることが製パン性劣化の原因と大きく関係のあることを確認しました。
冷凍解凍したドウから水が離れてしまうと、解凍後には水はもとの場所には戻らなくなりますが、それが原因なのでしょうか。
そこでベーキング方法の中に冷凍ステップを差し込んでその効果を調べました。
まず第一に、イーストのみを水に懸濁し冷凍解凍処理を行いました。しかしこのイーストは製パン性劣化には関与しませんでした。次にイーストを入れないミックス(小麦粉、水、砂糖、塩)も冷凍解凍し、そこにイースト入れて製パン試験をしましたが劣化しませんでした。次にこのミックスにイーストをいれて冷凍解凍処理しても劣化しませんでした。このことからイーストの入ったミックスは冷凍解凍処理してもパンは劣化しませんでした。
ドウの製パン行程(第1次醗酵、撹拌、2次醗酵等)を終え、オーブンに入れる直前のドウを冷凍解凍処理すると製パン性は劣化しました。
この製パン性劣化を起こす解凍ドウに、砂糖、あるいは砂糖+イーストを入れ、同一製パン行程(第1次醗酵、撹拌、2次醗酵)を再度行ない、ベーキングすると、砂糖を入れたものは製パン性劣化しましたが、砂糖+イーストを入れたものは劣化が消えました。よく膨らみました。
冷凍前に供給した砂糖はイーストにより消費され、イーストも死滅したりで残存のイーストは期待できません。そこで新たに入れた砂糖、イーストから生じる炭酸ガスは十分に製パンに使われました。
しかしこの製パン回復条件に必要な製パン行程(第1次醗酵、撹拌、2次醗酵)のうち第1次醗酵、撹拌のプロセスを除くと製パン性劣化が起りました。
これは冷凍解凍で分離した水を再びドウ中でレミックス(再撹拌)することで、水を元の場所に戻すことが必要ということです。水が元のドウの状態に回復すれば、そしてそれが新しいガスで膨張すれば、製パン性劣化は消えるということです。
このレミックスで製パン性の戻ったドウを筒の中に入れ、筒の上部から減圧でひっぱった時にドウは伸張して、未冷凍のドウと同様の伸張を示しました。解凍ドウそのままは伸張しません。
このように氷結晶を作ることでドウから水が分離し、ドウは伸張性を失ってパンが膨れなくなったと考えました。
この冷凍による水の移動をどう防ぐかが次の大きな研究テーマとなります。
ドウ中の水の保持性の問題です。このとき三栄源(株)から出している雑誌(食品•食品添加物研究誌、FFIジャーナル)に面白い冷凍食品の記事がありました。森元さんと相談しそこで使われているものを冷凍ドウにテストしようということになりました。そのサンプルをいただいて早速試験しましたがうまくゆきませんでした。
三栄源エフ•エフ•アイの長谷川氏に「こんな時に面白いサンプルはないでしょうか?」と厚かましく質問しました。13種類の多糖類サンプルを送っていただきました。これらをドウに5%ほど片っ端から入れ、冷凍解凍の製パン試験を行ないました。その中、キサンタンガムという多糖類が特に特徴的で、パンは良く膨れました。他のものは余り大きな効果はありませんでした。このキサンタンガムは微生物多糖類で、胞子の構成成分です。冷凍しても、乾燥しても、微生物を守るようになっているのでしょう。
この物質は、セルロースのような多糖類にマンノースがいくつかぶら下がっていて、そのマンノースがさらに修飾されているといった、極めてユニークで面白い物質です。
純度の高い試薬キサンタンガムを購入し、5%ドウに入れると冷凍解凍ドウでよく膨化したパンが出来ました。解凍後、ドウから水も分離しません。成書によるとキサンタンガムはダブルへリックス構造をしていて、そのヘリックスの間に水分が抱え込まれ、分離しなくなると記載されております。冷凍によって水が簡単には分離しないのです。
これらの話をスライド37枚で話しました。
1時間の長時間の講演のため内容を少々盛りだくさんにするということで、いろいろ作戦を練りました。これまで進めてきた冷凍ドウによる製パン性劣化、そのメカニズム、最近の劣化回復のための多糖類添加の研究を講演しました。これは研究生の森元さんが行なってきた仕事です。
冷凍ドウによる製パンは、1960年頃にアメリカの企業から始まり、目下世界中で広く使われているやり方です。まず全て成分の入ったパンドウを作り、その冷凍ドウを各家庭に配り、自宅で焼いてフレッシュなものをたべてもらおうというのが目的です。
しかしこの冷凍ドウによる製パン性には問題がありました。それはパンの膨らみが低下するという最大の欠点です。森元さんは、2003年ごろから冷凍ドウによる製パン性劣化の改良研究をはじめ、少しずつ前進してきました。はじめ研究の糸口になるものはないかと追求しました。
いろいろトライアルするうちに、冷凍ドウは解凍するとそのドウ表面がぬれることに気付きました。解凍ドウ表面は未冷凍ドウに比べ、水がにじみ出てくるのです。それがどうも製パン性劣化と関係がありそうだと彼女は推測し、そこに研究のポイントを絞りました。
ドウを冷凍解凍すると製パン性は低下し、パン高、比容積は落ちます。その時同時にドウ表面に水分が滲んでくるのです。このにじんで来る液量を測れないだろうか?ドウを遠心分離して、遠沈管を45度の角度に傾け、コールドルームで30分間放置して上清液を測定しました。
冷凍解凍ドウの製パン結果とこの上清液(mL)との間には高い相関がありました。小麦粉の種類を変えても同様の結果が得られました。このため彼女は上清液の染み出てくることが製パン性劣化の原因と大きく関係のあることを確認しました。
冷凍解凍したドウから水が離れてしまうと、解凍後には水はもとの場所には戻らなくなりますが、それが原因なのでしょうか。
そこでベーキング方法の中に冷凍ステップを差し込んでその効果を調べました。
まず第一に、イーストのみを水に懸濁し冷凍解凍処理を行いました。しかしこのイーストは製パン性劣化には関与しませんでした。次にイーストを入れないミックス(小麦粉、水、砂糖、塩)も冷凍解凍し、そこにイースト入れて製パン試験をしましたが劣化しませんでした。次にこのミックスにイーストをいれて冷凍解凍処理しても劣化しませんでした。このことからイーストの入ったミックスは冷凍解凍処理してもパンは劣化しませんでした。
ドウの製パン行程(第1次醗酵、撹拌、2次醗酵等)を終え、オーブンに入れる直前のドウを冷凍解凍処理すると製パン性は劣化しました。
この製パン性劣化を起こす解凍ドウに、砂糖、あるいは砂糖+イーストを入れ、同一製パン行程(第1次醗酵、撹拌、2次醗酵)を再度行ない、ベーキングすると、砂糖を入れたものは製パン性劣化しましたが、砂糖+イーストを入れたものは劣化が消えました。よく膨らみました。
冷凍前に供給した砂糖はイーストにより消費され、イーストも死滅したりで残存のイーストは期待できません。そこで新たに入れた砂糖、イーストから生じる炭酸ガスは十分に製パンに使われました。
しかしこの製パン回復条件に必要な製パン行程(第1次醗酵、撹拌、2次醗酵)のうち第1次醗酵、撹拌のプロセスを除くと製パン性劣化が起りました。
これは冷凍解凍で分離した水を再びドウ中でレミックス(再撹拌)することで、水を元の場所に戻すことが必要ということです。水が元のドウの状態に回復すれば、そしてそれが新しいガスで膨張すれば、製パン性劣化は消えるということです。
このレミックスで製パン性の戻ったドウを筒の中に入れ、筒の上部から減圧でひっぱった時にドウは伸張して、未冷凍のドウと同様の伸張を示しました。解凍ドウそのままは伸張しません。
このように氷結晶を作ることでドウから水が分離し、ドウは伸張性を失ってパンが膨れなくなったと考えました。
この冷凍による水の移動をどう防ぐかが次の大きな研究テーマとなります。
ドウ中の水の保持性の問題です。このとき三栄源(株)から出している雑誌(食品•食品添加物研究誌、FFIジャーナル)に面白い冷凍食品の記事がありました。森元さんと相談しそこで使われているものを冷凍ドウにテストしようということになりました。そのサンプルをいただいて早速試験しましたがうまくゆきませんでした。
三栄源エフ•エフ•アイの長谷川氏に「こんな時に面白いサンプルはないでしょうか?」と厚かましく質問しました。13種類の多糖類サンプルを送っていただきました。これらをドウに5%ほど片っ端から入れ、冷凍解凍の製パン試験を行ないました。その中、キサンタンガムという多糖類が特に特徴的で、パンは良く膨れました。他のものは余り大きな効果はありませんでした。このキサンタンガムは微生物多糖類で、胞子の構成成分です。冷凍しても、乾燥しても、微生物を守るようになっているのでしょう。
この物質は、セルロースのような多糖類にマンノースがいくつかぶら下がっていて、そのマンノースがさらに修飾されているといった、極めてユニークで面白い物質です。
純度の高い試薬キサンタンガムを購入し、5%ドウに入れると冷凍解凍ドウでよく膨化したパンが出来ました。解凍後、ドウから水も分離しません。成書によるとキサンタンガムはダブルへリックス構造をしていて、そのヘリックスの間に水分が抱え込まれ、分離しなくなると記載されております。冷凍によって水が簡単には分離しないのです。
これらの話をスライド37枚で話しました。
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