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2013年11月26日 15:02 (瀬口 正晴)

これからの当方の研究

セリアック病について

小麦粉を中心として麦類(小麦粉、大麦、ライ麦等)は世界の三大穀物(麦、米、トウモロコシ)の中で最も使用量が大きい穀物である。何千年という歴史を持つパンなどは小麦粉中のタンパク質であるグルテンの機能、伸展性、弾力性をうまく利用した加工食品で、人類に大きく貢献してきた。メンなどもグルテンの伸展性をうまく利用した加工食品である。

昔からパン食を中心とした人々の中に、パンを食べると体に異常障害(嘔吐、成長障害等)をきたし、死に到る病気が認められた。その原因はわからなかったが、近年研究がすすみ麦類のタンパク質(小麦粉はグルテン、大麦ではホルデイン等)のある種のアミノ酸配列が原因であることがわかってきた。そのアミノ酸配列は、例えばQQPGQG,QQPGQG, QQPGQG, QQPGQG等で、これがあると、この病気(Celiac Disease=CD)セリアック病になることがわかり、患者の血液の抗原抗体反応でそれがわかるというところにまできている。アメリカ、EU諸国では1%、メキシコで2-4%、サウジアラビア諸国では4-8%といわれている。

グルテンのもつ独特の粘弾性、粘り、粘着性は日本人の嗜好する加工食品材料に多い。これらはタンパク質以外のものである。ここに注目して日本人が食べている粘着性食品の物性を利用して、グルテンフリーのパンを作りたい。

我が国においては、1964年頃から食の洋風化が始まり現在食の自給率は40%となり大きな社会問題となっている。食の洋風化にともなって日本人の小麦粉の消費量が大きく増加している。日本人のCD調査は皆無と思われるがが、日本人にもCD患者は存在し将来増加するであろう。日本ではこれまではパン、メン食で体調が崩れた場合にはそこから米食で逃げることができたが、しかし米食なども苦手の人がこれから増えてくる可能性がある。肉、卵、牛乳、ハム、チーズ等にはやはり小麦粉パンのような膨化食品がほしくなる。しかしCD患者の場合にはこれが困難になる。そこで小麦パンに変わるパンがほしくなる。



CD患者はグルテンのある種のペプチド構造が原因と言われていて、これを摂取することで小腸粘膜上の柔毛が欠損し、そこからの栄養吸収が困難になり、成長障害、死にいたる。この小麦粉等麦類の持つグルテンタンパク質を摂取しなければこの病気をかわすことができる。小麦粉タンパク質からくる異常な病気である。

このため欧米ではこのCD患者のために小麦粉パン様の膨化食品の製造に多くの研究がなされるようになった。

AACCI (American Association of Cereal Chemistry International)年次大会、9/29-10/2, 2013, Albuquerque, New Mexico, U.S.A.ではポスター発表233演題中グルテンフリーの研究に関する演題は36題であり、昨年より多くなった。


CD研究については、学術雑誌に多くその報告が見られるようになった。特に今年の世界の穀物研究の中心であるAACCI (American Association of Cereal Chemistry International)年次大会、9/29-10/2, 2013, Albuquerque, New Mexico, U.S.A.でのセリアック病の発表については 233題中36題あり、世界中でこの分野への関心が増加している。Seguchiらは、本AACCI大会で"Development of gluten-free bread baked with banana flour"の発表をしている。SeguchiらはFood Sci. Technol. Res.,18, 543-548, 2012. に、Kawamura-KonishiらはJ. Cereal Sci. 58, 45-50, 2013. にグルテンフリー食品の研究結果を発表している。


これまで欧米のGluten-freeの研究では加工食品調製のためのその素材は、デンプン、米、雑穀、が用いられている。これら素材ではパンとしての膨化機能は必ずしも良好とは言えず、本来の小麦粉パンにくらべ単なる劣化したイミテーション食品であり、内部にグルテンが混じっていないことを強く押し出すものであった。


2010年の私のフィンランドにおける調査研究では、CD患者グループの食べているグルテンフリーパンなどはパン組織に連続性が無く、膨らみのないぼろぼろのパンで、おいしくない。CD患者グループはひっそりと仕方なく食べているような印象で、大変に気の毒であった。おいしい,安全なグルテンフリーパンが欲しいと感じられた。

日本は高温多湿のため,微生物による食品の腐敗、発酵がおこり、食品貯蔵面ではいろいろな工夫、利用がある。日本人は発酵による納豆のような糸を引く粘性食品など好む。粘性を持つ発酵食品に対しても西洋人などと違って嗜好性が高い。このため日本の加工食品には西洋人のものと異なり、粘性のある加工食品が多い。

グルテンのもつ独特の粘弾性、粘り、粘着性はこれらの日本人の嗜好する加工食品材料に多い。これらはタンパク質以外のものである。本研究ではここに注目して日本人が食べている粘着性食品の物性を利用して、グルテンフリーのパンを作ろうというものである。

すでに日本人がよく食べる山芋について注目して、これをグルテンフリーのパンに用いた(FSTR,18, 543-548, 2012)。ヤマイモの中でも特にジネンジョに強い粘りがあり、ジネンジョを利用して日本では古くから餡を包む上用まんじゅうがある。これまでジネンジョを用いてグルテンフリーパンの製造に成功した。これまで研究したパンは膨らみも、組織形成もよく小麦粉パンに似ていたが、この研究ではジネンジョ、小麦デンプン、砂糖、イーストを用いたために小麦デンプンからまだ多少グルテンの残存物があるのではないかと心配している。他デンプン利用のヤマイモパンの研究が今後必須と考える。


小麦粉パンに匹敵するほど膨化したパンはヤマイモを用いてできたが、次のステップとして食品としての価値を与えるためには味付け等の味覚の研究に入ってゆく。

ヤマイモ以外の粘性を有する食品素材として、バナナを用いた研究もすすめた。これを今回のAACC International Annual Meeting , September 29-October 2, 2013 Albuquerque, New Mexico, U.S.A.)135-P. " Development of gluten-free bread baked with banana flour." in Program book で発表した。


ジネンジョによるグルテンフリーパンは、ジネンジョ10gの小麦デンプン30gをブレンドして、砂糖8.86g,イースト10g, 水30mLを加えて40℃20分間発酵して210℃オーブンで10分焼いてパンを調製するものである。グルテンは抜くから心配ないが、小麦デンプンを用いるために底から微量のグルテンの混入の可能性がある。さらにデンプンの種類をかえて製パンをする必要があり、さらにこの研究に取りかかる。小麦デンプン以外に米デンプン、トウモロコシデンプン、ポテトスターチ等が考えられ、これらを用いて、ジネンジョによる完全グルテンフリーパンを調製する。さらに多量パンの製造研究に入る。

ジネンジョパンの研究から、ジネンジョの粘りはマンナン多糖類であるが、その粘りのメカニズムは不明である。今回の試験の中でジネンジョを水に対して透析により高分子量成分と低分子量成分に分画し、それぞれでパンは膨化しなく、合一することで本来のパンの粘度を得ることができた。高分子量区分と低分子量区分(アミノ酸、ペプチド、糖類等)との間の混合がジネンジョの粘度をえるのには大切であることがわかった。しかしまだそのメカニズムには不明な点が多い。本研究で明らかにしたい。


さらにバナナを用いたグルテンフリーパンの調製をすすめた。バナナは輸入直後のグリーンのものと、その後エージングして黄色になったものではパンはうまく膨化しなかったが、さらに放置して黒色化して粘度のでたものでは小麦粉パン同様の膨化を得ることができた。アルコールでバナナ表面を洗浄すれば黒変してもカビ等の汚染から守ることもできた。黒変することはバナナ組織中のデンプンは糖化され、細胞も破壊されクリーム状の組織に変化することができ、是を用いると小麦粉パンに相当するグルテンフリーパンのできることがわかった。この場合、バナナ中の細胞の酵素的活性が大切で、この黒色したバナナの組織をオートクレーブ処理すると膨化することのできないパンとなることもわかった。



これまでこのようにジネンジョを用いたグルテンフリーパンの調製ができ、さらにバナナをエージングした際のパンの粘りを用いてグルテンフリーパンの調製ができ、膨化パンの基本はできた。是をさらに食味、甘味等の加工食品として完成する必要があり、本研究ではさらに調理的な研究を進め、患者に好まれるようなグルテンフリーパンの研究をすすめる。多量パンの製造研究に入る。


さらに日本の食品素材として粘りのある、海藻ガゴメコンブ、キノコ類のナメコ、野菜類のオクラ等を用いてやはり同様のグルテンフリーパンの開発に入る。

いずれもこれらを凍結乾燥して10-30gにデンプン(各デンプンで調べる)30g、砂糖8.86g、イースト10gのブレンドしたものを40℃で10分間発酵させて、よく膨化させて、220℃のオーブンで10分間ベーキングを行う基本形で研究してゆく。そして膨化が得られたら、嗜好性、その膨化のメカニズムを調べ、加工調理の研究に入る。


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