グルテンフリー食品用の各種素材(2)
「グルテンフリー食品用の各種素材(1)」につづいて述べる。
非穀物成分
イヌリン
イヌリンは、フラクトースのポリマーで可溶性プレバイオテックスファイバーとして機能する。イヌリンはグルテンフリーパンの容積,テクスチュア、シェルフライフを改良し、グルテンフリーケーキの品質と栄養面を改良し、さらにグルテンフリーパスタには低レベルで用いると制限付きで成功する。イヌリンは、マルトデキストリンのようにすべて栄養的価値がある。例えばそれは消化器にとって必要な栄養素(macronutrient)である繊維が、プレバイオテックスとして消化器内で価値あるバクテリアの成長を促進する。プレバイオテックスの規則的利用は、体の金属吸収の増加を示し、それはセリアック病を持つ人の栄養として、もう1つ別の重要な意味をもつ。
イモ類
イモはエネルギーと栄養の貯蔵構造体であり、植物自体の生存に必要なものである。タピオカ、ジャガイモは一般的な例である。これらのイモのデンプンは普通、グルテンフリー食品によく用いられる。デンプンは、生のジャガイモ、あるいはタピオカのイモをつぶし、フィルターにかけるか遠心分離して、繊維、タンパク質を除き、次に乾燥して得られる。とれたデンプンは光輝く白い粉である。ジャガイモとタピオカデンプン粒は他のデンプンより低温で膨潤し、結晶性を失う(即ち糊化する)。この性質はイモデンプンがグルテンフリー粉の構成成分として都合のよいものである。これらのデンプンはベーキング前は低粘度であるが、オーブン中において小麦を基本とする食品よりも早く粘度が生じ、これは有用な性質である。一般のジャガイモデンプンは、タピオカデンプンより粘度が高く、粘弾性の高いゲルをつくる。ジャガイモ粉は、砕いた全ジャガイモをドラム乾燥し、その後粉状サイズまでくだいて調理したものである。ジャガイモ粉のデンプンはまだ未糊化であり、ベーキングしたものの中のジャガイモデンプンの様な機能はまだない。粉はただちに粘度を示し、高レベルではグルテンフリー食品に悪い影響を与えるが、ベーカリー食品にフレーバーとしっとり感を与えるので用いられる。ジャガイモ粉は標準的なこまかな粒子で得られる。
マメ
マメとは植物の大きな部門を指すが、植物の再生構造(実と種子)を指している。マメ、レンズまめ、ルピナス、エンドーマメ、ピーナッツは全てグルテンフリーであるが、幾つかはアレルゲンである。ピーナッツ、大豆、ルピナスの仕込み利用時には、注意深く考える必要がある。栄養的にはレンズマメ粉は、高タンパク質、繊維、金属含量である。大豆、ピーナッツは、ほとんどの豆と異となりより高含量の油脂含量を示す:各々18-48%。これらの物の多くはベーカリー食品にマメの悪臭を与える。このため他のグルテンーフリー粉とブレンドするとき、利用レベルも制限される。
大豆粉はグルテンフリーベーカリー食品のテクスチュア改良にいい効果を与え、特にグルテンーフリーパンの場合、大豆粉は低脂肪,低糖含量のため消費者に大きな期待を持たせるチャレンジである。全脂質と酵素活性大豆粉が、テクスチュア改良に効果を示し、グルテンフリーパンのクラムを柔らかくしてシェルフライフを伸張し、ずっと通して水分含量の増加に寄与した。これに比べ、これらの長所は酵素不活性化した脱脂大豆粉では示されない。
非穀物タンパク質
タンパク質はグルテンフリーベーカリー食品やスナック中で多くの機能をもつ。しばしばグルテンーフリー穀物以外のタンパク質も仕込み中に添加される。これらのタンパク質は、グルテンの示す粘弾性ガス保持品質を与えるものではないが、栄養的強化、乳化力、クラムの柔らかさ、フレーバー、シェルフライフ伸長を与える目的で添加されるものである。マメタンパク質に加え、さらに以前のセクションで述べたように、いろいろな非穀物タンパク質、その中には牛乳、卵も含まれるがグルテン-フリー仕込み中に見られる。一般的なタンパク質ではないが、グルテンフリー食品に用いられ、あるいはテストされるようなものにカノーラ(canola, 西洋アブラナ)やカロブ(carob、イナゴマメ)、いも等のタンパク質がある。最近市販のタンパク質でジャガイモから分離されたユニークなアワ形成、ゲル形成能を持つタンパク質が菜食主義者のグルテンフリー仕込みに用いられている。
セリアック的に安全で、粘弾性と糸状の塊を持つタンパク質の同定は、研究者、グルテンーフリー食品仕込み作成者にとり、つかみ所のないものとされて来た。最近の進歩はグルテンフリー食品の仕込みに粘弾性のある特徴を与えることができた。その進歩とは、コロイドタンパク質粒子がデンプンと混合された時、タンパク質に連続ネットワークが形成された点である。
酵素
小麦粉ベースのベーキング食品には多くの酵素の利用記録があるが、グルテンーフリーベーカリー食品にはその利用の歴史は比較的新しい。これまでのベーカリーでは、デンプン、タンパク質への焦点に酵素の第一の関心があった。グルテンーフリー食品の進歩の中では、他の活性、たとえばハイドロコロイドの機能に関心がある。酵素の効果は、グルテンフリー粉の組成、加工期間、加工条件に影響する。
グルテンーフリーベーカリー食品において酵素利用が向けられる焦点のほとんどは、グルテンーフリーパンのテクスチュア改良とシェルフライフ改良であり、目標の小麦パンがあるだけに最も難しい点がある。グルテンーフリー食品の仕込みに酵素を用いる時、仕込み作成者はその酵素を取り出した源がグルテンフリーであるかどうか酵素供給者に確かめることが極めて大切だ。ある酵素供給者は、小麦あるいはグルテンを含む穀物、例えば大麦のようなものから取り出している。
α-アミラーゼ
α-アミラーゼは普通、ベーカリー食品の保存性を良くするために用いられ、そこではベーキングされたデンプンはデキストリンに変化する。それはデンプンの分解物である。これらのデンプンのフラグメントは、デンプン-タンパク質と相互作用と関係し、パンの堅さを変化させる。α-アミラーゼはカビ源からもバクテリア源からも得られ、それらは最終食品に変化を与える。カビアミラーゼはベーキング中の不活性化し、一方バクテリアのアミラーゼは熱に耐性があり、残った活性は保存性をあげる。バクテリアのマルトース化アミラーゼ(Maltogenic amylase)は特に関心がもたれ、それは本酵素がデンプンの老化、あるいはβ化の時に関係する糖を生産している間もデンプン構造の多くを維持し、その結果、グルテンーフリーベーカリー食品の乾いた柔らかいクラム構造を与えることができるからである。
Cyclodextrin Glycosyltransferase (サイクロデキストリン グルコシルトランスフェラーゼ)
この酵素をグルテンーフリーパンに使う目的は、この酵素のもつ幾つかの特徴に基づくためである。この酵素の最も興味深い点は、デンプンを加水分解しデキストリンをつくること、そしてできた直線状デキストリンをサイクロデキストリンと呼ばれるリング状構造にすることである。この酵素でできるサイクロデキストリンはドーナッツ構造をとり、疎水性がその構造の内側を、親水性が外側をむく。この構造は、脂質やタンパク質と複合体を作り乳化性を示す。この酵素によりグルテンーフリーパンの容積、形、テクスチュアの改良がすすむと報告された。サイクロデキストリンは脂質と結合し、疎水性タンパク質と相互作用してより安定な膜形成能をもつ。改良された膜形成能はバッターやドウのガス保持能をよくすると言われている。
Sugar oxidases (シュガーオキシダーゼ)
シュガーオキシダーゼは、伝統的なベーカリー食品中のグルテンネットワークを強化するのに用いられるが、グルテンーフリー食品ではガス保持能の改良に用いられる。シュガーオキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼあるいはヘキソースオキシダーゼ等は、酸素の存在下、糖を酸化してハイドロゲンパーオキサイドをつくりラクトン型に変える。できたハイドロゲンパーオキサイドはベーキング過程で安定なSS結合をつくり、架橋タンパク質を作る。ある研究では、米粉ベースのパンがハイドロゲンパーオキサイド形成によるポテンシャルな効果を示し、グルコースオキシダーゼ添加でパンの比容積、テクスチュアが改良し、ハイドロコロイドを低下するとシェルフライフの増加、ガス保持性の改良がみられた。もう一つのわかりやすい研究では、グルコースオキシダーゼによりとうもろこし、ソールガムベースのパンの比容積を増加し、一方ソバ、テフベースのパンでは容積の増加を示さなかった。この研究ではパンにハイドロコロイドが添加されなかったので、酵素の純粋な効果が観察された。
Laccase (ラッカーゼ)
シュガーオキシダーゼ同様、ラッカーゼも架橋タンパク質による大きなネットワークでグルテンーフリードウやバッター中にガス保持構造を作る力があった。
Transglutaminase (トランスグルタミナーゼ)
トランスグルタミナーゼは、タンパク質中に見出されるアミノ酸、L-lysineとL−glutamine間の架橋を作る酵素である。これらの架橋を作ることでレオロジーや機能が修正されより大きなタンパク質のネットワークを作る。グルテンーフリー食品への応用では、この酵素はガスホールデング性を改良するような構造を作る力があり、改良されたグルテン-フリー食品の最終的テクスチュアには興味深いものがある。
ある研究では、トランスグルタミナーゼの影響を6種の異なったグルテンーフリー穀物(玄米、ソバ、コーン、オート、ソールガム、テフ)を使った製パン試験で評価した。そこでは米粉、そば粉パンで改良されたパンベーキング特性、例えば全体の見てくれの効果が示された。これらの改良は、オート、ソールガム、テフ粉パンでは認められなかった。トランスグルタミナーゼで米タンパク質の機能の改良されたことが、ハイドロコロイドを用いたグルテンーフリーパンで報告された。この研究はトランスグルタミナーゼを含んだ米パン中の米タンパク質が重合化し、そのときハイドロキシプロピルメチルセルロースとも関係してパンの比容積の増加とクラムのソフト化に貢献した。
Gums/Hydrocolloids (ガム / ハイドロコロイド)
グルテンーフリーブレンドの構成は、グルテンーフリー粉、デンプン、タンパク質成分からなり、効果的なガス保持能をもつ粘弾性を欠いた構成である。このためハイドロコロイドと呼ばれる水溶性ポリマーが、水系バッターあるいはドウのガス保持能を改良するために使われる。最近使われるハイドロコロイドは、小麦粉に比べて非小麦粉パンを作るのに必要なこの機能はずっと小さいのであるが、仕込み製作者は他にいいものがないために、ハイドロコロイドシステムを最も良いものとして使っている。ハイドロコロイドは、又グルテンーフリーべーキングの品質に必要な2つの大切な機能を与える;水分保持能とデンプン老化の抑制である。
ハイドロコロイドは本質的には長鎖の糖からなり、多糖類と呼ばれる構造に入る。この定義から、デンプンを含む多くの材料はハイドロコロイドである。殆どの多糖ベースのハイドロコロイドには消化抵抗性があり、胃腸中では糸のような性質で、デンプンとは違い、グルコース糖にメーキャツプされてから消化される。ハイドロコロイドは又アミノ酸の鎖からなり、消化されるときはゼラチンの場合の様にである。ガムとハイドロコロイドはいろいろな源からくるが、その中には植物抽出物(ペクチン)、植物残渣あるいは抽出物(アラビアガム、アカシアガム)、海藻(寒天カラギーナン、アルギン酸),微生物発酵物(キサンタン、ゲラン)、動物起源(ゼラチン)がある。ハイドロコロイドは濃厚な水懸濁液だが、しかし全てのハイドロコロイドがゲルというわけではない。ゲル構造はグルテンのもつ特徴と分ける;それらは粘弾性である。一般に言われるようにゲルはハイドロコロイド粒子のネットワークであり、液体媒体中で非常に薄いスポンジ状に伸張する。本質的にはゲルはゼリー状個体だが、それは高濃度液体を含む個体よりも液体に近い。ゲルは典型的には熱可逆的であり、高温では可溶で、ベーカリー食品中では不安定さを導く。この理由のため、例えばメチルセルロース、ハイドロオキシプロピルメチルセルロースのようなハイドロコロイドが盛んに研究されるのは、加熱時に異常なゲル形成の性質を示すためである。
ハイドロコロイド同士を組み合わせると、同様のレベルで別々に使われる時以上に強い粘度増加、あるいはより強いゲル化が示される事がある。この効果のことを"シネルギー"、とか"シナージスト効果"と言っている。
グルテンーフリーベーカリー製品で使われる一般的なハイドロコロイドの評価を以下のべる。例は決して多くない。性質曖昧で高価なハイドロコロイドはあるが、その多くは加工が必要で、簡単に一般的なベーカリー製品と纏めることはできない。これまでグルテンーフリーベーカリー食品の合成粉で使われた材料例を以下述べる。
Xanthan(キサンタン)
恐らくグルテンーフリーベーキングで最も広く用いられているハイドロコロイドとは、キサンタンガムであろう。バクテリア、Xanthomonas campestrisの発酵で生産されるもので、キャベツの葉で初めて同定された。その価格の安さ、匂いのないこと、低温での溶解性、広範囲の温度下、pH域での安定性、長期間保存しても安定である等、多くの長所がある。キサンタンは、ローストビンガム、グアガムとシナージェスチックの関係にあり、そのことは食品中のハイドロコロイド量の低下を可能とする。もう一つ加えられる長所は、冷凍・解凍サイクルの間、キサンタンは水のコントロールを可能としてくれることであり、それは多くのグルテンーフリー食品が冷凍販売システムで市販されているため食品中の水のことを考慮せねばならぬからである。キサンタンは、粒子のいろいろちがう形態で利用されているが、それが水和のスピードに影響を与えるためだ。さらにレオロージーの性質を変えたキサンタンガムが利用されている。
種子からの(Gum)ガム
グアガムとローストビンガムも一般にグルテンーフリー食品仕込みに使われる。タラガムはグルガムの値段があがる事から関心がひかれたものであり、タラの水和の性質がグアとローストビンガムの水和の中間的な性質であることに関心がひかれてきた。グア、タラ、ローストビンガムはガラクトマンナンとして知られるハイドロコロイドである。名前が示すようにガラクトマンナンは2つの糖:ガラクトースとマンノースのポリマーである。ガム間の糖の比率の違いがガムの性質のはっきりした違いになっている。グアはマンノース-ガラクトース比が約2:1で、タラ、あるいはローストビンガムより高度の分枝構造を持っている。そこでグアガムは冷水に溶け、ぬるっとした粘性を示す。ローストビンガムのマンノースーガラクトース比は約4:1で、分枝構造は小さい。このガムは完全に水和するのに加熱が必要で、加工食品はサクサクする食感を示す。タラガムの比率は3:1で、多少グアとローカストビンガムの間の性質を示す。これらガラクトマンとキサンタンとの利用が一般的なのはシナーギスト効果が生じるためだ。
Cellulose-Derived Hydrocolloids (セルロース誘導ハイドロコロイド)
セルロース誘導ハイドロコロイドには、カルボキシルメチルセルロース、ハイドロキシプロピルセルロース(HPC)、ハイドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、微結晶セルロ−スがある。これらのハイドロコロイドは、元々天然の材料セルロースにもとづいてはいるが、修飾され元の物とはちがう。HPC, HPMC, MCはグルテンーフリーベーキングに有用な変わった性質がある:加熱でゲル化するが、冷却すると可溶化する。グルテンーフリーベーカリー食品の研究から、この性質の有用である事がはっきりした。
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