グルテン不耐性、セリアック病、及び小麦アレルギーについて
グルテンとは
一般の小麦粉には、14%水分含量ベースで約7-15%のタンパク質が含まれている。小麦中の殆どのタンパク質は"貯蔵タンパク質"で、発芽と種子の生長に用いられる。"グルテン"と考えられるタンパク質は小麦種子の全組織タンパク質の約80%である。グルテンは多くの異なったタイプのタンパク質に分画されるものからなっているが、タンパク質の溶解性の異なる性質で分離、分画されるものである。小麦中の一般的タンパク質区分は、水溶性タンパク質(albumins)、塩可溶タンパク質(globulins)、70%アルコール可溶タンパク質(prolamins),希酸、希アルカリ可溶タンパク質(glutelins)である。このタンパク質のクラス分けで、prolaminsとglutelinsは小麦タンパク質の中で大きな成分で、小麦粉中の全タンパク質中の各33と16%である。これら2つのタンパク質区分が混合されたとき、これらのタンパク質を食品加工技術の分野では"グルテン"と知られている。
食品技術者にとって"グルテン"とは、グルテニン(glutelin)とグリアジン(prolamin)の2つの組み合わせである。グルテンの特性とは、この2つのタイプのタンパク質の機能の組み合わせによるものである。グルテニンは小麦粉ドウに弾力性と力強さを与え、引っ張ったときにそれに抵抗し元の形に戻す力がある。一方、グリアジンは抵抗なく簡単にのびる性質である。これらの2つのタンパク質がむすびついてドウに粘弾性(viscoelasticity)の特徴を与え、それがガスをトラップし、ガスが逃げることを押さえるのである。ドウ中のアワは拡大し,ドウに十分な多孔性を与え、焼いたとき望ましいテクスチュアの軽い食品を作る。
対照的に医学的観点からは、グルテンを小麦、ライ麦、大麦のプロラミン、あるいはグリアジンとしている。プロラミンはアミノ酸組成の点でユニークで、そこにはこれらの類の大部分のタンパク質のうちで最もプロリン、グルタミン含量が高い。これらの穀物中貯蔵タンパク質は全てプロラミンであり、それら穀物は全て同一の植物の科(family)であり、同一の進化の過程を踏んで来た。大麦(Hordeum
vulgare)とライ麦(Secale cereale)は小麦とはずっと離れた関係だが、未だにセリアック反応があり、それはそのプロラミン中の特異的なペプチドの配列の存在のためである。プロラミンはその源の故、それぞれの名前がついている(大麦ではhordeins, ライ麦ではsecalins, オートムギではavenins)。
セリアック病
セリアック病は、全米人口の0.7%に強い影響を与えていると言われており、ヨーロッパで見られるものとほぼ同じパーセントである。非ヒスパニック系白人人口のセリアック病の発生は全人口(%)よりも高い(1%)。これらのセリアック病をもつ人の大部分は、未だ診察未確認である。簡単に言うと、セリアック病は小麦、ライ麦、あるいは大麦の貯蔵タンパク質の消費により引き起こされる永遠の病気である。セリアック病は小腸の内表面への損傷を引き起こし、栄養素の吸収能を大きく低下させる。小腸は殆ど全ての栄養素(炭水化物、アミノ酸、ビタミン、ミネラル)の吸収する点であり、胃腸消化管の最も重要な部分であると考えられている。時間とともに、損傷が起こると栄養不良がおこる。セリアック病の知られている唯一の治療法は、小麦、ライ麦、大麦の完全摂取拒否である。1日グルテンを20-50mgとっただけで、障害を受けた小腸を持つセリアック患者の完全回復はとまる。
セリアック病は自己免疫疾患であり、これまでのアレルギー病とはちがう。自己免疫疾患病は異物から体を守る以上に、体の免疫システムで自身の組織を攻撃する。セリアック病の発生は小麦、ライ麦、大麦のタンパク質に基づくもののみならず、以下3つのファクター(遺伝的体質、反応性エピトープス(抗原決定基)、腸管透過性)のコンビネーションの結果で引き起こされるものである。
ファクター1;遺伝的体質
セリアック病にかかっている人の免疫システムは一般に過剰反応しやすい。この遺伝的体質では、組織適合性HLAs(ヒト白血球抗原)として知られているタンパク質の生産が行なわれる。HLADQ2とHLADQ8は95%のセリアック病患者によって生産される。西側社会の35-40%の人はこの組織タイプを持っていると計算されている。最近の研究から約2%のヒトが実際にはセリアック病にかかっているという。HLADQ2あるいはHLADQ8の遺伝子を持つてなくては、セリアック病にかかることはほぼ無理であるが、組織タイプは一般的で、環境要因がまた必要である。さらにセリアック病は強い女性体質嗜好がある。セリアック患者の子供では5-10%が病気にかかる。セリアック患者の双子の兄弟は80%が病気にかかるが、一方双子でない兄弟はかかるのが10%である。
ファクター2;反応性抗原決定基
セリアック自己免疫疾患反応は。タンパク質自体が引き金的になるのではなく、ペプチドと呼ばれるタンパク質の小さなかけらで構成されて特別なアミノ酸配列が必要で、それによって引き起こされる。この反応性ペプチドはエピトープスと呼ばれる。100以上の異なったグルテンタンパク質中に50種以上のエピトープがこれまで同定されている。それは人間の全ての胃、膵臓、小腸の酵素による分解に対して高度の抵抗性があり、体中の内蔵を通じて小さくなったものは消化管を通じて体内に入ってゆき、そこで順次複雑な流れの反応が起こる。ヒト酵素による破壊に対する抵抗性は、小麦タンパク質自体の機能に結びついている。
ある種のペプチドは、体の酵素反応で変化し、その結果より強い免疫反応をおこす。組織トランスグルタミナーゼは、全ての細胞中に見られる酵素だが、タンパク質を他のものへ結合させるのに関係のあるもので、組織の成長と修正に非常に大切なことをやっている。トランスグルタミナーゼはグリアジンペプチドをもっと反応性のあるエピトープにかえ、セリアック病に感受性あるものにとって、潜在的に悪影響を及ぼす可能性がある。
ファクター3;腸管透過性
セリアック病の第3のファクターは高度の腸管透過性である。セリアック病、1型糖尿病、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)は全て腸管透過性が高まることによる特徴と信じられている。ペプチドの腸管透過性が高まることで、より簡単にセリアック病の患者の免疫システムが過剰反応するようになる。
セリアック病の症状
セリアック病には特徴的なサインあるいは症状は全くない。殆どのこの病気のヒトは、一般的症状、例えば腹痛、膨満、たえまない下痢、異常な悪臭臭気の大便,油性粘性の大便という特徴がある。セリアック病は又、それ自体はっきりしない症状も出てくるが、その中には怒りっぽくなるとか、神経衰弱、貧血、胃不調、関節病、筋肉痙攣、皮膚発疹、口の痛み、歯、骨異常(例えば骨粗鬆症)等がある。セリアック病の症状にはまた、他の病気の偽物の様な症状もあるが、例えば過敏性腸症候群、胃潰瘍、クローン病、寄生虫にかかる、及び貧血症とかである。これらの病気の多くは栄養素の吸収阻害に似た徴候である。興味深いのは、時にセリアック病の人々は全く胃腸障害の症状を示さないことだ。
セリアック病の診断
セリアック病の発症はどんな年齢でも起こる。その診断は、しばしば病気の影響を受けた生命の最後にみられる;しかしながら症状の現れない人々は、親類がその病気で診断を受けたかどうかを探してみるべきである。健康と食事の状態をよく見た後で、ふつう診断の第1段階は、血清抗体試験を行なう。このテストでは、彼、彼女の食事に各人がまだグルテンが摂取されているかどうかが必要である。このためセリアック病と疑われる人は、グルテンを摂取している間に、医学的検査をせねばならない。いろいろな抗体試験が使われる。もっとも一般的な試験は抗--組織グルタミナーゼに対するもので、さらにイミュノグロブリンAとGへの抗体に対するものである。もしプラスの血清試験あればセリアック病であれば、生検試験も多く行なわれるだろう。生検試験(BIOPSY)は小腸の損傷の程度を確認できる。生検試験の方法で、上部消化管内視鏡と呼ばれるものだが、内視鏡を用いて小腸の内層から小さな組織を集めるのに使う。その方法は苦痛はなく、僅か30分程度で終了する。遺伝的な血清学的試験とのコンビネーションは、生検をする必要を無くす;しかしながら生検は標準試験と考えられている。もし診断が疑問ならば、HLADQタイプは、遺伝的体質があるかどうかを決めるのに用いられるであろう。
今日までは、この種の試験は普通の保険によってカバーされない。
セリアック病による栄養素欠乏の問題と関連の病気
セリアック病の人は、栄養面で2つの重要なことと関係している:それは、腸の損傷による栄養素吸収阻害と、グルテンを含む穀物でつくる食品と類似のグルテンフリー食品を比べた時、グルテンフリー食品の方の栄養分不足のことである。小腸の損傷は、厳正なグルテンフリー食品をとることで解決されるが、グルテンフリー食品の利用にはしばしば栄養素を欠くことがある。この食品の栄養面のプロフィールは、グルテンフリー食品生産者が考えられねばならない。栄養素補充の理解は、グルテンフリー食品の重要な一面である。マーケット上の多くのグルテンフリー食品は、病気からくる栄養欠乏の軽減化には残念ながらなっていない。その殆どはデンプンベースのものであり、セリアック病患者にとって必要な全粒からくる微量栄養素濃度や繊維を含むものではない。十分な栄養素を含むグルテンフリー食品はわずかしかない。
繊維
繊維は、セリアック病を持つ人にとって特に関心のあるものである。多くのグルテンフリー食品の粒やその全粒を粉にしたものは、繊維を強化した小麦粉よりもその量は多いが、殆どのものは全粒小麦粉の繊維含量に比べレベルが低い。胃腸の健康にとって繊維は重要な役割をしているが、多くのグルテンフリー食品は繊維欠乏である。平均的なグルテンフリー食品から、一日当たり繊維6gの供給があると報告された。これは推薦される量、女性1日25g、男性1日38gに比べて低い。より繊維を加えたグルテンフリー食品がマーケットに出始めているが、セリアック病患者の食事にはなお不足である。マーケットにあるグルテンフリー食品の多くは、肥満を起こす。それは油脂からの過剰カロリーによるものである。多くのグルテンフリーパンは、同じ小麦パンよりもより高カロリーである。幾つかの報告から、大人と子供両方のグルテンフリー食品の摂取者から、高いBMI(body mass index=肥満を示す)の結果がでている。
B. Vitamins
葉酸塩欠乏は、診断未確定セリアック病患者にとって問題である。葉酸塩、また葉酸はビタミンの一種で、小麦粉から供給されている。豊富な小麦粉は、北アメリカ人の食事中、最も重要な葉酸塩源の一つであるが、セリアック病患者にとって利用できない源である。重要なのは、セリアック病患者で出産適齢期の女性は、胎児の成長に必要な十分な葉酸塩の取り込みを確保することである。葉酸欠乏は、神経管欠を引き起こし、妊娠中の他の合併症をも引き起こす原因である。
鉄欠乏貧血
鉄欠乏はセリアック病患者によるもっとも一般的な症状の一つだ。鉄の吸収不十分は、厳格なグルテンフリー食品に変えた後、続いて生じる。小腸の絨毛の形態に完全な回復が必要で、鉄欠乏のサインのでる前に体中の鉄の補充が必要である。鉄リッチのグルテンフリー全粒(キノア、ソバ、テフ、アマランスのような)の組み込みが大きな助けになる。
乳糖不耐症
乳糖不耐症のヒトはラクターゼを作ることができない。その酵素はラクトースを分解する。ラクトースはミルク中にある糖の二糖類で、グルコースとガラクトースからなり、小腸を覆う細胞内皮で生産される。セリアック病はしばしばラクターゼの生産を低下させる。小腸のラクトース分解不能は、糖の発酵を胃腸のより低い部位でおこし、その結果、ガス発生、苦痛、膨満をひきおこす。厳格なグルテンフリー食品の摂取をすれば、絨毛の形態、機能の回復につれて、この重要な点を軽減させ、セリアック病患者がいつも乳糖不対症者とは限らないということになる。
骨疽鬆症と骨質減少
カルシウムに対する吸収不十分さは普通にセリアック病患者でみられ、それがしばしば正常者より低い骨質減少あるいは骨疽鬆症を引き起こす。グルテンフリー食品に変えた後ですら、これらの病気は小腸のダメージとは裏腹に経時的に続く。ビタミンD、マグネシウムもカルシウム吸収に重要な役割を演じ、これらの微量栄養素の欠損が骨量減少、骨疽鬆症をセリアック病患者におこす。テフ、キノアは、全粒小麦よりカルシウム含量が高く、これらはいずれもグルテンフリー穀物である。キノア、ソバ、トウモロコシ、テフ、アマランスは、全てグルテンフリー全粒穀物で、マグネシウムも小麦粉に比べ高い。
セリアック病と他の病気との関連
他の自己免疫疾患
これまでの研究から、セリアック病が1型糖尿病、自己免疫性甲状腺炎のような他の自己免疫疾患病と関連のあることがわかってきた。タイプ1型糖尿病患者のセリアック病への広がりは、正常のヒトの10-30倍であり、事実グルテンフリー食品がタイプ1型糖尿病のヒトの病気改善に効果のあることを示した。MS(多発性硬化症)はセリアック病にリンクしている。ある研究者はテストしたMS患者の11.1%がセリアック病気であることを見出し、セリアック病の患者は全て女性であった。さらに研究は、第1度近親者に高度にセリアック病患者のいる(32%)ことを示した。自己免疫性甲状線炎のヒトのセリアック病頻度は、コントロールの非自己免疫人口の0.4%に比べて4.3%であった。
自閉症
自閉症と診断された子供の両親は、子供を助けるため、次第に食事をグルテンフリー食品にかえ、決定的な病気の症状をゆるめようとした。今日まで、グルテンと自閉症との間の関係に、食事による治療が決定的によかったという証明はない。しかしながら神経的病気、その進み方の遅延は、栄養的欠乏と関係があろう。そして医学のコミュニテイのあるものは次のように進めている。即ち、栄養的欠陥や吸収不十分さは、神経発生阻害の問題とも関連のある要因と考えている。
ヘルペス状皮膚炎
ヘルペス状皮膚炎は、かゆく、水ぶくれする皮膚病であるが、これもまたセリアック病の系統のものである。ほぼ10%のセリアック病患者はこの病気を持っている。発疹は普通、胴、頭の皮、尻におこる。ヘルペス状皮膚炎は、セリアック病と同じように小腸の内皮に変化を起こす可能性がある。しかしながらそれは顕著な消化器症状ではない。この病気は医学的に疱疹を処置することに加えて、グルテンフリー食事で処置される。
小麦アレルギー
小麦アレルギーは、セリアック病患者自身の体組織を攻撃する自己免疫反応よりはむしろ、その原因の特異性が低く、アレルギー反応の結果、異物タンパク質を攻撃する抗体の生産が行なわれる。食品不耐性と比べると、アレルギー反応は多くの組織に影響できるが、食品不耐性は殆ど消化系部位に限定されている。
他の食物アレルギーとして、アナフィラキシーのような非常にひどい,反応の素早いものがあり、アレルゲンの少量のものの取り込みから始まる。アナフィラキシーは、呼吸困難、血圧低下を引き起こす。軽い徴候としては、腫れ、かゆみ、口元、舌、唇、のどのかゆみがある。アレルギー反応は又、吐く、腹部の痙攣、下痢を示す。
グルテン不耐性
グルテン不耐性はセリアック病よりもっと一般的な病気である。ある研究では、グルテン感受性、または不耐性はセリアック病より6倍多いという(23)。グルテン不耐性はひどい病気で、グルテンは健康にマイナスの働きをする。それは、アレルギー反応または絨毛の萎縮またはアレルギー反応をもたらす自己免疫応答をもたらさない胃腸の苦痛として定義される。それは多くの健康上の問題を引き起こし、多くの問題に対し、食品アレルギーあるいはセリアック病と似たものと受け止められている。グリアジン抗体はセリアック病でなくグルテン不耐性の証明に使われるだろう。しかしながら今までグルテン不耐性用の試験方法はなかった。そこで、その診断には基準のない方法で行なわれていたに違いない。グルテン不耐性の病気は、それ自身一般にいろいろな程度で現われ、一般にはグルテンフリー食事で治療されている。グルテン不耐性の原因には次のことが含まれる。
・
グルテンの完全な消化に必要な酵素類(プロテアーゼ、あるいはエンドペプチダーゼ)のないこと、
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過敏性腸症候群や再発ストレスまたは心理的要因。
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