2011年2月アーカイブ
2011年2月21日 15:23 ( )ホットケーキの話−15
これまで、乾熱処理小麦粉を用いてホットケーキベーキングを行うことの可能性について述べてきました。これはクロリネーションに代替えする方法です。
小麦粉の乾熱処理が、ホットケーキの組織弾力性改良に効果のあることと、小麦粉中の強い疎水化の発現(PS区分とT区分の相互作用)との関連について、その証明が必要になります。
本学園、神戸女子短期大学助手の小澤美貴さんがこの研究に興味をもち、大きな仕事をしました。
彼女は小麦粉の乾熱処理を、120℃ 最大8時間から, 60℃ 最大540時間 (22.5日間)まで細かく処理条件を変えて、次々と乾熱処理小麦粉サンプル(トータルで54サンプル)を調製しました。
そのサンプルを用いて、ホットケーキの組織弾力性を調べてゆきました。やはり高温度にすれば短時間で、温度が下がれば長時間かけると同様の組織弾力性の得られることを詳細に調べました (FSTR. 2006 12:167-172)。
同時に小麦粉サンプルを片っ端から酢酸分画してWS区分、 G区分、 PT 区分,T区分を集めてゆくと、やはりホットケーキの弾力性が次第に強くなるに伴って、PS区分、T区分間の相互作用は強くなり,分離しにくくなりました。この相互作用の大きさとホットケーキの組織弾力性の大きさとは、大きな相関がありました。
更に小澤さんは多量の小麦粉を酢酸分画し、それらを用いて合成粉を調製し、そのうち1区分(例えばPS区分とか)のみ乾熱処理したもので入れ替えた合成粉によるホットケーキベーキング実験を進めました。
合成粉によるベーキングテストの結果、PS区分、T区分の乾熱処理による組織弾力性獲得が認められ、クロリネーション同様の効果が証明されたのです(Cereal Chem. 2008 85:626-628)。PS、T区分の両方を入れ替えた時が最も大きな弾力性が得られました。
小麦粉中7−8割を占めるPS 区分、T区分の相互作用は、ホットケーキ組織中にあってもしっかりした組織形成に貢献するするため、少々の加圧でもつぶれることがなかったのでしょう。
つづく。
小麦粉の乾熱処理が、ホットケーキの組織弾力性改良に効果のあることと、小麦粉中の強い疎水化の発現(PS区分とT区分の相互作用)との関連について、その証明が必要になります。
本学園、神戸女子短期大学助手の小澤美貴さんがこの研究に興味をもち、大きな仕事をしました。
彼女は小麦粉の乾熱処理を、120℃ 最大8時間から, 60℃ 最大540時間 (22.5日間)まで細かく処理条件を変えて、次々と乾熱処理小麦粉サンプル(トータルで54サンプル)を調製しました。
そのサンプルを用いて、ホットケーキの組織弾力性を調べてゆきました。やはり高温度にすれば短時間で、温度が下がれば長時間かけると同様の組織弾力性の得られることを詳細に調べました (FSTR. 2006 12:167-172)。
同時に小麦粉サンプルを片っ端から酢酸分画してWS区分、 G区分、 PT 区分,T区分を集めてゆくと、やはりホットケーキの弾力性が次第に強くなるに伴って、PS区分、T区分間の相互作用は強くなり,分離しにくくなりました。この相互作用の大きさとホットケーキの組織弾力性の大きさとは、大きな相関がありました。
更に小澤さんは多量の小麦粉を酢酸分画し、それらを用いて合成粉を調製し、そのうち1区分(例えばPS区分とか)のみ乾熱処理したもので入れ替えた合成粉によるホットケーキベーキング実験を進めました。
合成粉によるベーキングテストの結果、PS区分、T区分の乾熱処理による組織弾力性獲得が認められ、クロリネーション同様の効果が証明されたのです(Cereal Chem. 2008 85:626-628)。PS、T区分の両方を入れ替えた時が最も大きな弾力性が得られました。
小麦粉中7−8割を占めるPS 区分、T区分の相互作用は、ホットケーキ組織中にあってもしっかりした組織形成に貢献するするため、少々の加圧でもつぶれることがなかったのでしょう。
つづく。
ホットケーキの話−14
小麦粉、あるいはそこから分離した小麦プライムスターチ(PS)区分(小麦デンプン大粒区分)を120℃2時間ほど乾熱処理すると, クロリネーションに匹敵するほどの疎水化(親油化)を示すことがわかりました(Cereal Chem 61(3):248-250, 1984)。その乾熱温度を下げると処理時間をあげれば同一の効果があげられるし、乾熱温度をあげればもっと短時間で同一効果が得られました。
しかし温度はどんどんあげると、170-180℃ほどでデンプン粒は水中に入れるとあっというまに溶けてしまいました。
疎水性の生じた乾熱デンプン粒を、各種溶媒で洗浄、酵素処理等を行ったところ、クロリネーション同様,プロテアーゼ処理で疎水性が消えたことから、この疎水化はクロリネーション同様デンプン粒表面タンパク質のなせる技と思われました。その辺は前述した通りです。
この乾熱処理した小麦粉で焼いたホットケーキの組織弾力性はどうだろうか。
疎水化の得られた乾熱処理条件で処理した小麦粉では、組織弾力性の強いホットケーキが得られました(J. Food Sci. 55(3):784-78, 1990)。
小麦粉を酢酸分画して、乾熱処理による小麦粉中の成分間変化について調べました。
以前お話ししたように、W.F.Sollarsの報告する酢酸分画法は、激しい撹拌力のワーリングブレンダーで撹拌抽出する方法(ワーリングブレンダー法)でした。
この方法では、クロリネーションや乾熱処理によって小麦粉中に生じる弱い疎水性による相互作用(この弱い相互変化がホットケーキ組織弾力性と大きく関係あります)を壊してしまい、全くクロリネーションや乾熱処理による相互関係の変化が認められません。従って小生はワーリングブレンンダー法ではなく、もっとマイルドな方法、即ち乳鉢と乳棒を用いる方法で、なるべく泡をたてないような静かな撹拌(ホモゲナイズ)を行い、均一な懸濁液をえる方法を工夫しました。この懸濁液の状態は、ホットケーキがオーブン中で焼ける正にそのバッターの状態です。その状態での分画は重要です。
はじめは手を使って、乳鉢、乳棒で長時間、同じエネルギーを注入してホモゲネーションしましたが大変で、これを電動自動乳鉢器を用いて一定時間、均一に混合撹拌し、遠心分離で分画する方法に変えました。
この方法は極めて効果的な方法でした(Cereal Chem. 75(1):37-42, 1998)。
この方法を用いて乾熱処理小麦粉の分画実験を行うと、乾熱処理時間が長くなるに伴って、小麦粉中ではPS区分、T区分との相互作用が生じて、次第にその力は大きくなり、遠心分離しても容易に分離しにくくなりことが判明しました。ワーリングブレンダー法ではこの相互作用は認められませんでした(Cereal Chem. 75(1):37-42, 1998)。
明らかにPS, T区分間の疎水結合でこのような相互作用が生じていたのです。
以後つづく。
しかし温度はどんどんあげると、170-180℃ほどでデンプン粒は水中に入れるとあっというまに溶けてしまいました。
疎水性の生じた乾熱デンプン粒を、各種溶媒で洗浄、酵素処理等を行ったところ、クロリネーション同様,プロテアーゼ処理で疎水性が消えたことから、この疎水化はクロリネーション同様デンプン粒表面タンパク質のなせる技と思われました。その辺は前述した通りです。
この乾熱処理した小麦粉で焼いたホットケーキの組織弾力性はどうだろうか。
疎水化の得られた乾熱処理条件で処理した小麦粉では、組織弾力性の強いホットケーキが得られました(J. Food Sci. 55(3):784-78, 1990)。
小麦粉を酢酸分画して、乾熱処理による小麦粉中の成分間変化について調べました。
以前お話ししたように、W.F.Sollarsの報告する酢酸分画法は、激しい撹拌力のワーリングブレンダーで撹拌抽出する方法(ワーリングブレンダー法)でした。
この方法では、クロリネーションや乾熱処理によって小麦粉中に生じる弱い疎水性による相互作用(この弱い相互変化がホットケーキ組織弾力性と大きく関係あります)を壊してしまい、全くクロリネーションや乾熱処理による相互関係の変化が認められません。従って小生はワーリングブレンンダー法ではなく、もっとマイルドな方法、即ち乳鉢と乳棒を用いる方法で、なるべく泡をたてないような静かな撹拌(ホモゲナイズ)を行い、均一な懸濁液をえる方法を工夫しました。この懸濁液の状態は、ホットケーキがオーブン中で焼ける正にそのバッターの状態です。その状態での分画は重要です。
はじめは手を使って、乳鉢、乳棒で長時間、同じエネルギーを注入してホモゲネーションしましたが大変で、これを電動自動乳鉢器を用いて一定時間、均一に混合撹拌し、遠心分離で分画する方法に変えました。
この方法は極めて効果的な方法でした(Cereal Chem. 75(1):37-42, 1998)。
この方法を用いて乾熱処理小麦粉の分画実験を行うと、乾熱処理時間が長くなるに伴って、小麦粉中ではPS区分、T区分との相互作用が生じて、次第にその力は大きくなり、遠心分離しても容易に分離しにくくなりことが判明しました。ワーリングブレンダー法ではこの相互作用は認められませんでした(Cereal Chem. 75(1):37-42, 1998)。
明らかにPS, T区分間の疎水結合でこのような相互作用が生じていたのです。
以後つづく。
ホットケーキの話−13
小麦粉クロリネーションの代替え方法として小麦粉乾熱処理の可能性について検討を加えました。
クロリネーション小麦粉の場合、ホットケーキ改良効果が現れる原因としてPS区分(デンプン大粒区分)の疎水化(親油化)がありましたが、この疎水化が小麦粉の乾熱処理でもあらわれれば、乾熱処理によるホットケーキの改良効果(組織弾力性獲得)はあり得るということでした。
そして120℃、2時間乾熱処理した小麦粉から得られたPS区分のプライムスターチ粒表面の疎水化は表れたのでした。
そのデンプン粒は強い親油性を示したのです(Cereal Chem. 1984, 61(3):248-250. 澱粉科学 1991, 38(3): 271-279. )。その原因は?
クロリネーションの場合は、粒表面タンパク質にクロール元素が入り、疎水化を示したのです。乾熱処理ではクロール元素がそのようなことをすることはありえないです。
しかし小麦粉の乾熱処理で、現象的にはクロリネーションと同一の疎水化(親油化)が生じました。
乾熱処理でどうして疎水化したのであろうか。
小麦粉から酢酸分画法でデンプン大粒(PS区分)を取り出し乾燥後、そのデンプン大粒を直接乾熱処理を施しました。この時、疎水性にばらつきが生じました。ある時は親油性が強くでる、ある時にはそれが弱いのです。
いろいろと検討後、乾熱処理をスタートする時のデンプン粒中の水分含量が大きく関与していることが分かりました。
従って乾熱処理する時には、少々デンプン粒を湿らせた状態からスタートすることにしています。勿論その程度の湿りけでは糊化などはしません。
次に乾熱処理したデンプン粒の疎水化(親油化)の原因です。クロリネーションの時と同様に、親油性のでたデンプン大粒にプロテアーゼ処理を施しますと、デンプン大粒の親油性は消失しました。
このことからクロリネーション同様、乾熱処理でもその疎水化にはデンプン粒表面タンパク質の関与していることが推察されました。
乾熱時に少々湿らせた方が親油性がでやすいというのも、納得できます。デンプン粒表面タンパク質分子は、少々湿らせた方が、乾熱処理でより分子が動きやすくなり、今まで表面近くにあったタンパク質分子の親水基は120℃の乾熱処理で分子内に潜り込み、逆に分子内部に埋もれていた疎水基は分子表面に出やすくなったものと思われました。
小麦粉クロリネーションでは、デンプン粒表面タンパク質がクロール元素で化学修飾され疎水化したのに対し、乾熱処理ではデンプン粒表面のタンパク質が熱により分子運動が生じ、埋もれてた疎水基が表面に露出したために疎水性が起ったものと思われました。
現象的には同様の疎水性(親油性)ではありますが、食品衛生的に見れば乾熱処理の方が安全でしょう。
乾熱処理と言っても限りない処理条件があります。全てのその条件でホットケーキベーキングを行うことは出来ません。この乾熱処理による疎水化の程度を測定することでホットケーキの改良効果の程度(温度、時間)を予測することが出来ます。
乾熱処理によるホットケーキベーキングの話は次です。
クロリネーション小麦粉の場合、ホットケーキ改良効果が現れる原因としてPS区分(デンプン大粒区分)の疎水化(親油化)がありましたが、この疎水化が小麦粉の乾熱処理でもあらわれれば、乾熱処理によるホットケーキの改良効果(組織弾力性獲得)はあり得るということでした。
そして120℃、2時間乾熱処理した小麦粉から得られたPS区分のプライムスターチ粒表面の疎水化は表れたのでした。
そのデンプン粒は強い親油性を示したのです(Cereal Chem. 1984, 61(3):248-250. 澱粉科学 1991, 38(3): 271-279. )。その原因は?
クロリネーションの場合は、粒表面タンパク質にクロール元素が入り、疎水化を示したのです。乾熱処理ではクロール元素がそのようなことをすることはありえないです。
しかし小麦粉の乾熱処理で、現象的にはクロリネーションと同一の疎水化(親油化)が生じました。
乾熱処理でどうして疎水化したのであろうか。
小麦粉から酢酸分画法でデンプン大粒(PS区分)を取り出し乾燥後、そのデンプン大粒を直接乾熱処理を施しました。この時、疎水性にばらつきが生じました。ある時は親油性が強くでる、ある時にはそれが弱いのです。
いろいろと検討後、乾熱処理をスタートする時のデンプン粒中の水分含量が大きく関与していることが分かりました。
従って乾熱処理する時には、少々デンプン粒を湿らせた状態からスタートすることにしています。勿論その程度の湿りけでは糊化などはしません。
次に乾熱処理したデンプン粒の疎水化(親油化)の原因です。クロリネーションの時と同様に、親油性のでたデンプン大粒にプロテアーゼ処理を施しますと、デンプン大粒の親油性は消失しました。
このことからクロリネーション同様、乾熱処理でもその疎水化にはデンプン粒表面タンパク質の関与していることが推察されました。
乾熱時に少々湿らせた方が親油性がでやすいというのも、納得できます。デンプン粒表面タンパク質分子は、少々湿らせた方が、乾熱処理でより分子が動きやすくなり、今まで表面近くにあったタンパク質分子の親水基は120℃の乾熱処理で分子内に潜り込み、逆に分子内部に埋もれていた疎水基は分子表面に出やすくなったものと思われました。
小麦粉クロリネーションでは、デンプン粒表面タンパク質がクロール元素で化学修飾され疎水化したのに対し、乾熱処理ではデンプン粒表面のタンパク質が熱により分子運動が生じ、埋もれてた疎水基が表面に露出したために疎水性が起ったものと思われました。
現象的には同様の疎水性(親油性)ではありますが、食品衛生的に見れば乾熱処理の方が安全でしょう。
乾熱処理と言っても限りない処理条件があります。全てのその条件でホットケーキベーキングを行うことは出来ません。この乾熱処理による疎水化の程度を測定することでホットケーキの改良効果の程度(温度、時間)を予測することが出来ます。
乾熱処理によるホットケーキベーキングの話は次です。
ホットケーキの話−12
小麦粉クロリネーションのかわり、食の衛生上安全な、しかもおいしいホットケーキを得るための別の小麦粉処理方法はないだろうかと次に考えました。
ハロゲン元素がこのような形で体に入ることは心配だからです。
イギリスの古い論文(J. Food Technol. 5:363.1970) で、小麦粉クロリネーションのかわり、熱処理の論文がありました。大変に興味がありました。しかし論文を読むと、単にロースターで小麦粉に熱をかけ、ケーキの容積変化を見ているだけの論文でした。
当方のホットケーキの場合、これまでお話ししたように、容積変化よりケーキ組織の弾力性が問題でした。観点が異なります。
クロリネーションで生じたデンプン粒表面の疎水化がホットケーキ組織弾力性に大いに関係するのです。この論文ではこの観点から全く調べられていません。この論文は、果たして当方に何かメリットがあるだろうかどうだろうかと思いました。
当方の結論は、クロリネーション小麦粉を用いたホットケーキ組織には弾力性が生じ、その原因が小麦粉のPS (プライムスターチ)区分の疎水化(親油化)に結びつく、というものでした。
小麦粉のPS区分とは小麦デンプン大粒のことです。
その粒表面タンパク質のクロリネーションによる疎水化が、ホットケーキバッター中の気泡の安定化を引き起こすこと、さらにPS区分(40%)とT(テーリングス=小麦デンプン小粒、ふすま、水不溶性タンパク質、多糖類等のゴミ集合体のようなところ)区分(40%)の間で凝集のおこること、がホットケーキ組織弾力性強化の原因と述べてきました。
同じことがこの熱処理小麦粉でも得られるものなのかどうか、全く情報はありません。クロリネーションのような小麦粉の化学処理とは違い、この熱処理は物理的処理です。多分違うだろうというのが私の予想でした。
もし小麦粉の熱処理でホットケーキ組織弾力性が得られるならば、その際にはその小麦粉中のPS区分に疎水性が表れないと話が合いません。
もし表れないとなると、これまでの研究結果はすべてチョンボになります。
ホットケーキベーキング試験の前に、まず小麦粉を乾熱処理(電気乾燥機中で乾熱処理する)して、PS区分に疎水化(親油化)が生じるかどうかのチェックが必要です。
鉄板トレー上に小麦粉厚さ1cmほどにセットし、120℃を中心にいろいろな温度で一定時間乾熱処理しました。そこから小麦粉を酢酸分画してPS区分(デンプン大粒区分です)を得ました。
そしてこれまで通り疎水性を調べるため、親油性試験を行いました。
試験管中にデンプン大粒を入れ、水を入れ、液状油を入れ、激しく撹拌したのです。
すると何とクロリネーション同様に強い親油性を示したのです。
これには驚きました。
さらに未処理小麦粉から得たPS区分を、直接に加熱処理(120℃、2時間)しました。やはり同様に強く親油性を示しました。もちろん未処理のデンプン粒には油は全く結合しません。
更につづく。
ハロゲン元素がこのような形で体に入ることは心配だからです。
イギリスの古い論文(J. Food Technol. 5:363.1970) で、小麦粉クロリネーションのかわり、熱処理の論文がありました。大変に興味がありました。しかし論文を読むと、単にロースターで小麦粉に熱をかけ、ケーキの容積変化を見ているだけの論文でした。
当方のホットケーキの場合、これまでお話ししたように、容積変化よりケーキ組織の弾力性が問題でした。観点が異なります。
クロリネーションで生じたデンプン粒表面の疎水化がホットケーキ組織弾力性に大いに関係するのです。この論文ではこの観点から全く調べられていません。この論文は、果たして当方に何かメリットがあるだろうかどうだろうかと思いました。
当方の結論は、クロリネーション小麦粉を用いたホットケーキ組織には弾力性が生じ、その原因が小麦粉のPS (プライムスターチ)区分の疎水化(親油化)に結びつく、というものでした。
小麦粉のPS区分とは小麦デンプン大粒のことです。
その粒表面タンパク質のクロリネーションによる疎水化が、ホットケーキバッター中の気泡の安定化を引き起こすこと、さらにPS区分(40%)とT(テーリングス=小麦デンプン小粒、ふすま、水不溶性タンパク質、多糖類等のゴミ集合体のようなところ)区分(40%)の間で凝集のおこること、がホットケーキ組織弾力性強化の原因と述べてきました。
同じことがこの熱処理小麦粉でも得られるものなのかどうか、全く情報はありません。クロリネーションのような小麦粉の化学処理とは違い、この熱処理は物理的処理です。多分違うだろうというのが私の予想でした。
もし小麦粉の熱処理でホットケーキ組織弾力性が得られるならば、その際にはその小麦粉中のPS区分に疎水性が表れないと話が合いません。
もし表れないとなると、これまでの研究結果はすべてチョンボになります。
ホットケーキベーキング試験の前に、まず小麦粉を乾熱処理(電気乾燥機中で乾熱処理する)して、PS区分に疎水化(親油化)が生じるかどうかのチェックが必要です。
鉄板トレー上に小麦粉厚さ1cmほどにセットし、120℃を中心にいろいろな温度で一定時間乾熱処理しました。そこから小麦粉を酢酸分画してPS区分(デンプン大粒区分です)を得ました。
そしてこれまで通り疎水性を調べるため、親油性試験を行いました。
試験管中にデンプン大粒を入れ、水を入れ、液状油を入れ、激しく撹拌したのです。
すると何とクロリネーション同様に強い親油性を示したのです。
これには驚きました。
さらに未処理小麦粉から得たPS区分を、直接に加熱処理(120℃、2時間)しました。やはり同様に強く親油性を示しました。もちろん未処理のデンプン粒には油は全く結合しません。
更につづく。