BeMIller先生の思い出
目下、以下の様な仕事に取り組んでいる。
その中に米国Purdue大学のBeMIller先生の事を書いたのでここに紹介する。
「前書き
この本は"Gluten -Free Cereal Products and Beverages", Elke K. Arendt とFabio Dal Belloにより編集された本を翻訳したものである。オリジナルの本は18章にわたりGluten-Free 食品・飲料の各々その分野を、各専門家によって細部まで書かれており、セリアック病の詳細、ラベリングに関すること,グルテンの検査方法の問題、小麦粉代替え食品材料の紹介、グルテンフリー加工食品製造方法、さらには新商品開発のノーハウ、商品化に至るまでこと細かな記述がされていて、これからこの分野の研究、起業を目指す人々の良いガイドブックになるものと思われ、これを翻訳紹介し作成した。
数々小麦粉の引き起こす病気のうち、特にセリアック病に重点を置き、その発生の歴史から今日に至るまで如何にこの小麦粉を主食とする多くの人々に困窮を与えてきたかを述べ、そしてその原因は麦類の貯蔵タンパク質(プロラミン)の毒ペプチド(エピトープ)による自己免疫疾患病であること見出し,このエピトープを分解するプロリルエンドペプチダーゼ(PEP)がないことがこの病気の原因であることを突き止めた。この病気の治療のためグルテン除去する必要性から、グルテンフリー食品・飲料の存在が唯一の方法であると述べられている。
この中には学会等でお会いし、お世話になってきた方々がおられ、特に9章著者のJames, N. BeMiller 先生には個人的に大変にお世話になったのでここに記載し記憶に留めたい。
本文中のpseudo plasticityのことである。何のこともなく我々の使っているボールペンのことが思い出される。
これまでは文章はペン、万年筆で書き、ペンの場合、常にインクボトルを座右におき、ペン先をインクボトルに突っ込んではこれを濡らして、文面を作ることをしてきたが、いつの間にか液体の入ったインクボトルの必要性がなくなり,いつまでもインクが切れる事なく書き続ける事の出来るボールペンが登場した。そのままキャップを外して放置しておいてもペン先が乾いて次に書けなくなることはない。便利なものに変わったもので、ペン、万年筆は不用の物に成り,何が原因でそうなるのか等も気にしなくなっている。
実はここには大きな発見、発明があり、この9章にのべるpseudoplasticity(擬塑性)の性質によるPseudoplastic flow(擬塑流動)がその原因である。書くと言う作業は、瞬間ずり流動化(ずり流動化)が生じていて,即ち筆記時にその力(ペン先にかかる力)により、インクの溶液/システムの粘度は低下し、ボールペン先のインクは液体に変わるのである。ペン先を紙から外すと力はかからず、その液体は高粘度に変わりペン先から染み出てこない。不思議な話で、インクは力がかかると液体になり、力が外れると瞬間的に非流動化に変わる。この9章で面白くBeMiller 先生は解説してくれている。
BeMiller先生との関わりは、1988年小生が小麦デンプン粒表面疎水化の研究をしている時であった。
1987年、小生ははじめて国際学会AACCのポスターセッション発表にアメリカナシュビル市を訪れ,おっかなびっくりで世界中の研究者の集まる本会で自らの研究成果をポスター発表した。
その会場では海外のたくさんの人から質問があり、多くの人と知り得る事が出来た。帰国後ホットしていたらBeMiller 先生からお手紙をいただいた。1988年のStarch Round Table (デンプン円卓会議) での講演の招待状であった。彼は著名なPurdue大学のWhisler Center for Carbohydrate Research の所長だった。BeMiller先生からの手紙に驚き,恩師の松本博先生にご相談し,あるいは農水省の貝沼圭二氏に意見を求めると,あの会は色々な質問があり,貴殿の考えは多くの人が疑問に思っているだろうからから、理論武装して行けなどとアドバイスいただいた。英会話も心配ながら一人敵地に乗り込む覚悟であった。会はアメリカサンデエゴのカテマラン・リゾートホテルであった。BeMiller先生にはそこではじめてお会いし御挨拶した。大柄なジェントルマンでニコニコして小柄の小生を抱き抱えるようにして会場の皆さんに紹介してくれ、30年以上前の記憶が印象深い。
それから毎年の様に開かれるアメリカの刺激的なAACC大会には参加したが、会場では必ずBeMiller 先生にお会いし「今回の発表は?」「--------の発表です。」と会話し励まされてきた。温厚な世界のビッグサイエンテストであった。この本の中にHydrocolloid を書いておられる。懐かしい。」
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