2010年12月アーカイブ
2010年12月28日 12:59 ( )ホットケーキの話−7
クロリネーションによる、小麦粉のプライムスターチ(PS)区分の話がまだでしたね。
小麦粉のクロリネーションで、ホットケーキの弾力性の改良効果の生じる事は、お話ししました。
その原因が、小麦粉酢酸処理分画、再構成粉のベーキング実験から、小麦粉PS区分に起る何らかの変化によるものであることを明らかにしてきました。
そしてそのPS区分に起る何らかの変化とは、小麦デンプン粒表面(PS区分の構成成分)の微量タンパク質がクロリネーションで疎水化に変化する事を示し、その原因でホットケーキ組織弾力性に改良効果のでる事をお話してきました。
小麦デンプン粒表面に存在する微量タンパク質を構成するアミノ酸のうち、リジン、フェニルアラニン等が、クロリネーションで疎水化する事も明らかにしてきました。
クロリネーションして疎水化したデンプン粒表面タンパク質、と泡との関係、あるいはバッター(ケーキ用粉に水などの液体を入れ混合したもの)中のPS区分とT区分との相互関係のクロリネーションによる変化などについてもお話しいたしました。
次に、デンプン粒表面にタンパク質が本当に存在するのかどうかが大きなポイントになります。当時の国内外のデンプンのテキストにはデンプン粒表面の記載はなく、我々にとってその役割なども全く不明でした。デンプン粒はアミロース、アミロペクチンの鎖からなり、表面は坊主の頭みたいにつるっとしているようにイメージされていました。
我々は、研究している以上、学会に発表する義務がありますね。
学会ではクロリネーションの仕事を発表するときに、やはりデンプン粒表面タンパク質の事が大いにひっかかります。学会では専門家からどのような批判を浴びるかでした。それは気になりますが、しかし厚かましくそれを発表してゆかねばなりません。
大分前でしたが、農芸化学会大会では、発表直前に小生の発表の座長の方が小生のところにやってきて、要旨を見たのでしょう、「デンプン粒の表面にはタンパク質はないよ。そんな事は言わない方がいいよ。」と言われ、愕然とした記憶があります。
その後も、デンプン粒表面のタンパク質の事が気になりそちらの研究に歩を進めました。
小麦粉とは、多糖類(デンプン粒等)、タンパク質(グルテン等)、脂質、その他小麦を構成している数多くの成分の集合体です。単一のように見えますが、単一ではありません。そこからデンプン粒を酢酸分画法で取り出すのですから、粒表面にはタンパク質が洗浄不十分で、付着しているかもしれません。そこで、注意深く洗浄して、デンプン粒を取り出しました。
粒表面にタンパク質があるならば、タンパク質染料(タンパク質を染める染料のこと)で粒を染めてみてはどうかと思いました。タンパク質染料には、青、黒、赤、黄色等いろいろあり、元は何れも羊毛などのタンパク質繊維の染色から生まれてきた合成色素です。
これらを用いて、片っ端からデンプン粒を染めてゆきました。色素溶液中によくデンプン粒を馴染ませて、よく色素を吸着させた後、これを水で十分に洗浄し、洗った洗液に色がつかぬほどに徹底的に洗浄しました。しかしデンプン粒に吸着した色素は外れません。
その後、染色したデンプン粒を取り出しシャーレ(硝子皿)中に入れ、室温で乾燥すると、未染色のデンプン粒が純白なのに比べ、染色したものは、それぞれの色に着色してます。デンプン粒表面タンパク質の存在が確認された訳ですが、だけどさらに色素のコンタミ(汚れ)かとも見られます。
デンプン粒表面に色素が付いているのかどうか、をしっかり確認する為には、顕微鏡観察するしかありません。顕微鏡観察してデンプン粒1個の表面を見ると、しかしながらその色はうすく、大丈夫かなと思うぐらいで、きれいなカラー写真はとれなかったのです。
そこでもっと強烈にタンパク質を染色したい。それをするものはないだろうかと捜しました。
丁度その頃、アメリカの研究者Udenfriendのタンパク質微量定量法の事を思い出しました。彼は蛍光染料を確か使っていたはずだと。その色素はフルオロスキャミンです。非常に微量のタンパク質の確認の時に都合が良いのです。
この蛍光色素を小麦デンプン粒表面に付着させ、もしタンパク質があるならば、フルオロスキャミンと反応して初めて、パッと蛍光を出します。そのままでは単なる純白なデンプン粒であり、これでは蛍光を発しているかどうかは分かりません。高価な蛍光顕微鏡が必要なのです。
当時、大学時代の同期生、宮本君はロッシェの研究所(鎌倉)にいました。彼のところならこの装置もあろうと、よく事情を言って頼んだところ、快く引き受けてくれました。サンプルを送りました。
しばらくして、彼から多くの写真が届きました。驚いた。未染色のコントロールはボーとして蛍光はありません。しかし染色したものは、全てきれいに蛍光を発しグリーンに光っているではないですか(Cereal Chem 63: 518-520, 1986 )。
この写真を持ってその年のAACC(American Association of Cereal Chemists)の国際会議にゆき、ポスター発表しました。たしかテネシイ州ナッシュビル市でした。
この時、小生のポスターの前には多くの先方の大学院生やら研究者らが集まりました。
彼らが何を言ってるのか、あまりはっきりわかりません。当の本人(小生の事)を差し置いて、彼らは小生の前で互いにデスカッションし始めたのです。後で聞いたのですが, 大学に戻ってからもそのデスカッションは続いたとの事でした。実は、デンプン粒表面タンパク質に大きな関心があったのです。その後、彼らとは手紙で交遊がありましたが、みんな素晴らしい人でした。
肌で感じるには、アメリカは回転が早い事です。当時院生だった連中は、早く教授になり、死亡する、リタイヤする、あるいはどこかにいなくなるという印象でした。そのスピードが早いのです。
その時、さらに印象的だったのは、ある温厚な老人が小生の所に来て、この写真(デンプン粒の蛍光顕微鏡写真)のスライドを作って送ってくれとの事でした。知らないのに失敬な人だと思いましが、帰国後直ちにスライドにして郵送しました。
その彼とは、Kansas州立大学のSeib教授でした。以後いろいろ可愛がってくれました。彼と知り合えたチャンスでした。
さらに翌年には、アメリカでの小さな学会、SRT (Starch Round Table)(この会については9月13日の本ブログに書きましたのでお読みください)にPurdue大のBeMiller教授が小生を呼んでくれました。その会では、特にデンプン粒表面タンパク質をテーマにした会のようでした。小生はクロリネーションによる小麦デンプン粒表面タンパク質の疎水化とパンケーキ弾力性の関係の講演をしました。驚いてました。
英国Reed大学、Schofield教授も講演されました。彼はそのころ、数ある小麦デンプン粒表面タンパク質のうち、あるタンパク質と小麦粒の硬さの関係を調べていました。そして、そのタンパク質にfriabilinと名前をつけていました。すばらし仕事でした。現在、彼の仕事は多くの人によりどんどん前進しています。
アメリカの学会は、進歩も早いし、面白いし、公平でいい学会だなと思いました。
さらにデンプンの話を続けます。
小麦粉のクロリネーションで、ホットケーキの弾力性の改良効果の生じる事は、お話ししました。
その原因が、小麦粉酢酸処理分画、再構成粉のベーキング実験から、小麦粉PS区分に起る何らかの変化によるものであることを明らかにしてきました。
そしてそのPS区分に起る何らかの変化とは、小麦デンプン粒表面(PS区分の構成成分)の微量タンパク質がクロリネーションで疎水化に変化する事を示し、その原因でホットケーキ組織弾力性に改良効果のでる事をお話してきました。
小麦デンプン粒表面に存在する微量タンパク質を構成するアミノ酸のうち、リジン、フェニルアラニン等が、クロリネーションで疎水化する事も明らかにしてきました。
クロリネーションして疎水化したデンプン粒表面タンパク質、と泡との関係、あるいはバッター(ケーキ用粉に水などの液体を入れ混合したもの)中のPS区分とT区分との相互関係のクロリネーションによる変化などについてもお話しいたしました。
次に、デンプン粒表面にタンパク質が本当に存在するのかどうかが大きなポイントになります。当時の国内外のデンプンのテキストにはデンプン粒表面の記載はなく、我々にとってその役割なども全く不明でした。デンプン粒はアミロース、アミロペクチンの鎖からなり、表面は坊主の頭みたいにつるっとしているようにイメージされていました。
我々は、研究している以上、学会に発表する義務がありますね。
学会ではクロリネーションの仕事を発表するときに、やはりデンプン粒表面タンパク質の事が大いにひっかかります。学会では専門家からどのような批判を浴びるかでした。それは気になりますが、しかし厚かましくそれを発表してゆかねばなりません。
大分前でしたが、農芸化学会大会では、発表直前に小生の発表の座長の方が小生のところにやってきて、要旨を見たのでしょう、「デンプン粒の表面にはタンパク質はないよ。そんな事は言わない方がいいよ。」と言われ、愕然とした記憶があります。
その後も、デンプン粒表面のタンパク質の事が気になりそちらの研究に歩を進めました。
小麦粉とは、多糖類(デンプン粒等)、タンパク質(グルテン等)、脂質、その他小麦を構成している数多くの成分の集合体です。単一のように見えますが、単一ではありません。そこからデンプン粒を酢酸分画法で取り出すのですから、粒表面にはタンパク質が洗浄不十分で、付着しているかもしれません。そこで、注意深く洗浄して、デンプン粒を取り出しました。
粒表面にタンパク質があるならば、タンパク質染料(タンパク質を染める染料のこと)で粒を染めてみてはどうかと思いました。タンパク質染料には、青、黒、赤、黄色等いろいろあり、元は何れも羊毛などのタンパク質繊維の染色から生まれてきた合成色素です。
これらを用いて、片っ端からデンプン粒を染めてゆきました。色素溶液中によくデンプン粒を馴染ませて、よく色素を吸着させた後、これを水で十分に洗浄し、洗った洗液に色がつかぬほどに徹底的に洗浄しました。しかしデンプン粒に吸着した色素は外れません。
その後、染色したデンプン粒を取り出しシャーレ(硝子皿)中に入れ、室温で乾燥すると、未染色のデンプン粒が純白なのに比べ、染色したものは、それぞれの色に着色してます。デンプン粒表面タンパク質の存在が確認された訳ですが、だけどさらに色素のコンタミ(汚れ)かとも見られます。
デンプン粒表面に色素が付いているのかどうか、をしっかり確認する為には、顕微鏡観察するしかありません。顕微鏡観察してデンプン粒1個の表面を見ると、しかしながらその色はうすく、大丈夫かなと思うぐらいで、きれいなカラー写真はとれなかったのです。
そこでもっと強烈にタンパク質を染色したい。それをするものはないだろうかと捜しました。
丁度その頃、アメリカの研究者Udenfriendのタンパク質微量定量法の事を思い出しました。彼は蛍光染料を確か使っていたはずだと。その色素はフルオロスキャミンです。非常に微量のタンパク質の確認の時に都合が良いのです。
この蛍光色素を小麦デンプン粒表面に付着させ、もしタンパク質があるならば、フルオロスキャミンと反応して初めて、パッと蛍光を出します。そのままでは単なる純白なデンプン粒であり、これでは蛍光を発しているかどうかは分かりません。高価な蛍光顕微鏡が必要なのです。
当時、大学時代の同期生、宮本君はロッシェの研究所(鎌倉)にいました。彼のところならこの装置もあろうと、よく事情を言って頼んだところ、快く引き受けてくれました。サンプルを送りました。
しばらくして、彼から多くの写真が届きました。驚いた。未染色のコントロールはボーとして蛍光はありません。しかし染色したものは、全てきれいに蛍光を発しグリーンに光っているではないですか(Cereal Chem 63: 518-520, 1986 )。
この写真を持ってその年のAACC(American Association of Cereal Chemists)の国際会議にゆき、ポスター発表しました。たしかテネシイ州ナッシュビル市でした。
この時、小生のポスターの前には多くの先方の大学院生やら研究者らが集まりました。
彼らが何を言ってるのか、あまりはっきりわかりません。当の本人(小生の事)を差し置いて、彼らは小生の前で互いにデスカッションし始めたのです。後で聞いたのですが, 大学に戻ってからもそのデスカッションは続いたとの事でした。実は、デンプン粒表面タンパク質に大きな関心があったのです。その後、彼らとは手紙で交遊がありましたが、みんな素晴らしい人でした。
肌で感じるには、アメリカは回転が早い事です。当時院生だった連中は、早く教授になり、死亡する、リタイヤする、あるいはどこかにいなくなるという印象でした。そのスピードが早いのです。
その時、さらに印象的だったのは、ある温厚な老人が小生の所に来て、この写真(デンプン粒の蛍光顕微鏡写真)のスライドを作って送ってくれとの事でした。知らないのに失敬な人だと思いましが、帰国後直ちにスライドにして郵送しました。
その彼とは、Kansas州立大学のSeib教授でした。以後いろいろ可愛がってくれました。彼と知り合えたチャンスでした。
さらに翌年には、アメリカでの小さな学会、SRT (Starch Round Table)(この会については9月13日の本ブログに書きましたのでお読みください)にPurdue大のBeMiller教授が小生を呼んでくれました。その会では、特にデンプン粒表面タンパク質をテーマにした会のようでした。小生はクロリネーションによる小麦デンプン粒表面タンパク質の疎水化とパンケーキ弾力性の関係の講演をしました。驚いてました。
英国Reed大学、Schofield教授も講演されました。彼はそのころ、数ある小麦デンプン粒表面タンパク質のうち、あるタンパク質と小麦粒の硬さの関係を調べていました。そして、そのタンパク質にfriabilinと名前をつけていました。すばらし仕事でした。現在、彼の仕事は多くの人によりどんどん前進しています。
アメリカの学会は、進歩も早いし、面白いし、公平でいい学会だなと思いました。
さらにデンプンの話を続けます。
ホットケーキの話−6
ホットケーキを焼く時に、まず小麦粉、副原料へ水を加え、そしてミキサー中で撹拌という事になりますが、この撹拌中に水を嫌う(疎水的)小麦粉は強制的に水と馴染ませられて、バッターを形成して次のステップにむかいます。
この撹拌の操作は、小麦粉中の各成分間に色々な関係を作らせてゆくと思われます。特にクロリネーションによって、小麦粉酢酸分画4区分(水溶性(W) 区分、グルテン(G) 区分, プライムスターチ(PS) 区分、テーリングス(T) 区分)間は、その未処理のものに比べ大きな変化が起こされているはずです。
小生の研究では、クロリネーション小麦粉中の変化をみることでクロリネーションによるホットケーキ改良効果の原因の切り口を見出してきました。小麦粉を酢酸分画法によって、W, G, PS, T区分にわけて、特にPS区分の疎水化がホットケーキの弾力性改良に大きく結び付く事を見てきたわけです。
クロリネーションによって小麦粉中に起っている変化がバッター調製時にどのような変化として出てくるのか?クロリネーションによるPS区分の疎水化がどのようにバッターに影響しているのかが興味あるところでした。
Sollarsの酢酸分画法(Cereal Chem 35,85-99, 1958)を用いて、分画実験をやってきましたが、かなり強く小麦粉をクロリネーションするとPS,T区分の分離しなくなる事が観察されました(聖母女学院短期大学「研究紀要」12, 63-70, 1983)。
Sollarsの分画法には、ワーリングブレンダーを用いた 極めて激しい撹拌方法が用いられていました。これは小麦粉/水懸濁液を強くモーターで撹拌し、泡のかなりたつやり方です。この方法で強引に小麦粉を分画してしまうと、小麦粉各成分間に生じている弱い相互関係の力は見えなくなってしまいます。それでも強くクロリネーションするとPS,T区分が遠心分離しても離れなくなったという事です。
従って、この方法ではわずかのクロリネーションで生じた疎水化による小麦粉成分間の弱い相互作用は見えにくくなっているはずです。そこでワーリングブレンダーのような激しい撹拌ではなく、バッター中に生じる弱い相互作用を壊さないで、酢酸分画できる方法はないかとさがしました。
いろいろ検討した結果、自動乳鉢を使ってうまくゆきました(Cereal Chem 75, 37-42,1998)。
この自動乳鉢を用いた方法とは、乳鉢中の小麦粉/水懸濁液を電気的にゆっくりした回転で一定時間乳棒で撹拌する方法です。
これでやると、泡もたてずに手で乳鉢中のものを潰すように、撹拌する事が出来ました。こうしてWS, G, PS, T区分を均一に再現性よく分画することができました。これはホットケーキバッター調製時の撹拌と同じ状態で小麦粉成分間の相互作用を見る事が出来ました。
クロリネーションで小麦粉PS区分の疎水化の力が大きくなり、T区分との相互作用が強くなり、遠心分離操作しても分離しなくなったのです。この力はホットケーキベーキング時にもバッター中に生じ、ベーキング後もホットケーキの組織弾力性に大きな働きをしているものと推察されました。
この撹拌の操作は、小麦粉中の各成分間に色々な関係を作らせてゆくと思われます。特にクロリネーションによって、小麦粉酢酸分画4区分(水溶性(W) 区分、グルテン(G) 区分, プライムスターチ(PS) 区分、テーリングス(T) 区分)間は、その未処理のものに比べ大きな変化が起こされているはずです。
小生の研究では、クロリネーション小麦粉中の変化をみることでクロリネーションによるホットケーキ改良効果の原因の切り口を見出してきました。小麦粉を酢酸分画法によって、W, G, PS, T区分にわけて、特にPS区分の疎水化がホットケーキの弾力性改良に大きく結び付く事を見てきたわけです。
クロリネーションによって小麦粉中に起っている変化がバッター調製時にどのような変化として出てくるのか?クロリネーションによるPS区分の疎水化がどのようにバッターに影響しているのかが興味あるところでした。
Sollarsの酢酸分画法(Cereal Chem 35,85-99, 1958)を用いて、分画実験をやってきましたが、かなり強く小麦粉をクロリネーションするとPS,T区分の分離しなくなる事が観察されました(聖母女学院短期大学「研究紀要」12, 63-70, 1983)。
Sollarsの分画法には、ワーリングブレンダーを用いた 極めて激しい撹拌方法が用いられていました。これは小麦粉/水懸濁液を強くモーターで撹拌し、泡のかなりたつやり方です。この方法で強引に小麦粉を分画してしまうと、小麦粉各成分間に生じている弱い相互関係の力は見えなくなってしまいます。それでも強くクロリネーションするとPS,T区分が遠心分離しても離れなくなったという事です。
従って、この方法ではわずかのクロリネーションで生じた疎水化による小麦粉成分間の弱い相互作用は見えにくくなっているはずです。そこでワーリングブレンダーのような激しい撹拌ではなく、バッター中に生じる弱い相互作用を壊さないで、酢酸分画できる方法はないかとさがしました。
いろいろ検討した結果、自動乳鉢を使ってうまくゆきました(Cereal Chem 75, 37-42,1998)。
この自動乳鉢を用いた方法とは、乳鉢中の小麦粉/水懸濁液を電気的にゆっくりした回転で一定時間乳棒で撹拌する方法です。
これでやると、泡もたてずに手で乳鉢中のものを潰すように、撹拌する事が出来ました。こうしてWS, G, PS, T区分を均一に再現性よく分画することができました。これはホットケーキバッター調製時の撹拌と同じ状態で小麦粉成分間の相互作用を見る事が出来ました。
クロリネーションで小麦粉PS区分の疎水化の力が大きくなり、T区分との相互作用が強くなり、遠心分離操作しても分離しなくなったのです。この力はホットケーキベーキング時にもバッター中に生じ、ベーキング後もホットケーキの組織弾力性に大きな働きをしているものと推察されました。
ホットケーキの話−5
デンプン粒表面のタンパク質がクロリネーションで疎水的になり、親油性も示すという事がはっきりいたしました。そしてデンプン粒表面をプロテアーゼ処理すると、その性質の消えることも確認されました。
小麦デンプン粒表面にタンパク質が存在しているという事については、当時のデンプン関連専門書にはそれはないという記述でしたが、それがそうではないのではないだろうか、ということ、そして小麦デンプン粒表面タンパク質が疎水化でなぜホットケーキの組織弾力性と結びついてくるかという点が問題になります。
前者はそのうちお話するとして、後者のホットケーキ組織弾力性との結びつきについて少々実験しました。小麦デンプン粒の疎水化が、どのような影響をホットケーキに与えているかが問題です。
本来、泡は疎水性です。ここで泡表面が疎水性ならば疎水的なもの同士が仲が良く、お互いに引っぱり合う事は前述の疎水化したクロリネーションデンプン粒同士が磁石で引き合うように結合する挙動のあった事は前述しましたね。こう考えるとこの泡の表面と疎水的デンプン粒の関係に興味あります。なぜならホットケーキは泡で出来た膨化食品だからです。
何か泡とクロリネーションした疎水化小麦デンプン粒との間をうまく測定出来ないかと考えてました。図書館である本をペラペラとめくっていたら、鉱石の採石技術法にクズの鉱石中から金属鉱石を集める方法があり、そこに起泡剤を用いている方法がありました。クズの鉱石水懸濁液中に泡を人為的に起て、その泡に金属鉱石を吸着する方法です。クズの金属鉱石が疎水的なのですね。
この方法が利用できるのではないかと思いました。この利用には起泡剤としてイソアミルアルコールが使われていましたので当方もこれを用いました。
数本の試験管の中に水を入れ、そこにクロリネーションレベルを変えた疎水性小麦デンプン粒をそれぞれ入れ、起泡剤としてイソアミルアルコールを入れました。これをシェーカーにセットして、30分間ほど激しく上下撹拌しました。時間が来たらストップです。泡は激しく起ちますが数秒のうちに消えてゆきます。しかしよく見るとクロリネーションレベルが上昇するほど泡は安定化して消えにくいのです。しかしその差はわずかでした。
起泡剤としてイソアミルアルコールが泡を作り、泡安定剤としてクロリネーションデンプン粒が働いている様でした。そこできちんとデーターを取りたい、つまり泡の高さを正確に測りたくなります。そしてその高さが経時的に消えてゆくところを記録したいと思いました。
前述のように30分間激しく撹拌します。ストップと同時にカメラで1秒おきに写真をとりました。現像後、写真から泡の高さの変化を記録しました(Cereal Chem 64, 281-282, 1987 )。うまくゆきました。
これでやると、泡の高さはクロリネーションで明らかに高くなり、しかも安定化しておりました。クロリネーションレベルの下降に伴って、経時的に泡は消えやすくなっているのでした。
顕微鏡写真からイソアミルアルコールの泡にはクロリネーションデンプン粒は表面に多くへばりついておりました。この事はクロリネーションによって生じたデンプン粒表面の疎水化がイソアミルアルコールの疎水的泡表面に結合して泡を安定化しているのです。
このモデルから、多分ホットケーキのバッター中でも泡はクロリネーション小麦粉中のデンプン粒(PS区分)で安定化され、ホットケーキの弾力性強化に至ったものと推察しました。
さらに続けます。
小麦デンプン粒表面にタンパク質が存在しているという事については、当時のデンプン関連専門書にはそれはないという記述でしたが、それがそうではないのではないだろうか、ということ、そして小麦デンプン粒表面タンパク質が疎水化でなぜホットケーキの組織弾力性と結びついてくるかという点が問題になります。
前者はそのうちお話するとして、後者のホットケーキ組織弾力性との結びつきについて少々実験しました。小麦デンプン粒の疎水化が、どのような影響をホットケーキに与えているかが問題です。
本来、泡は疎水性です。ここで泡表面が疎水性ならば疎水的なもの同士が仲が良く、お互いに引っぱり合う事は前述の疎水化したクロリネーションデンプン粒同士が磁石で引き合うように結合する挙動のあった事は前述しましたね。こう考えるとこの泡の表面と疎水的デンプン粒の関係に興味あります。なぜならホットケーキは泡で出来た膨化食品だからです。
何か泡とクロリネーションした疎水化小麦デンプン粒との間をうまく測定出来ないかと考えてました。図書館である本をペラペラとめくっていたら、鉱石の採石技術法にクズの鉱石中から金属鉱石を集める方法があり、そこに起泡剤を用いている方法がありました。クズの鉱石水懸濁液中に泡を人為的に起て、その泡に金属鉱石を吸着する方法です。クズの金属鉱石が疎水的なのですね。
この方法が利用できるのではないかと思いました。この利用には起泡剤としてイソアミルアルコールが使われていましたので当方もこれを用いました。
数本の試験管の中に水を入れ、そこにクロリネーションレベルを変えた疎水性小麦デンプン粒をそれぞれ入れ、起泡剤としてイソアミルアルコールを入れました。これをシェーカーにセットして、30分間ほど激しく上下撹拌しました。時間が来たらストップです。泡は激しく起ちますが数秒のうちに消えてゆきます。しかしよく見るとクロリネーションレベルが上昇するほど泡は安定化して消えにくいのです。しかしその差はわずかでした。
起泡剤としてイソアミルアルコールが泡を作り、泡安定剤としてクロリネーションデンプン粒が働いている様でした。そこできちんとデーターを取りたい、つまり泡の高さを正確に測りたくなります。そしてその高さが経時的に消えてゆくところを記録したいと思いました。
前述のように30分間激しく撹拌します。ストップと同時にカメラで1秒おきに写真をとりました。現像後、写真から泡の高さの変化を記録しました(Cereal Chem 64, 281-282, 1987 )。うまくゆきました。
これでやると、泡の高さはクロリネーションで明らかに高くなり、しかも安定化しておりました。クロリネーションレベルの下降に伴って、経時的に泡は消えやすくなっているのでした。
顕微鏡写真からイソアミルアルコールの泡にはクロリネーションデンプン粒は表面に多くへばりついておりました。この事はクロリネーションによって生じたデンプン粒表面の疎水化がイソアミルアルコールの疎水的泡表面に結合して泡を安定化しているのです。
このモデルから、多分ホットケーキのバッター中でも泡はクロリネーション小麦粉中のデンプン粒(PS区分)で安定化され、ホットケーキの弾力性強化に至ったものと推察しました。
さらに続けます。
ホットケーキの話−4
小麦粉にクロリネーション処理すると、ホットケーキに弾力性が生じ、その原因は小麦粉分画実験と再構成粉ベーキング実験からPS区分へのクロリネーションの効果と推察されました。その時改良効果のあったクロリネーションPS区分を使った再構成粉に、ショ糖脂肪酸エステルを入れると、その改良効果が消える事もはっきりしました。PS区分を占める小麦デンプン大粒は、水中で凝集する性質を示し、その性質はショ糖脂肪酸エステル添加で消失する事も確認されました。この辺は、はじめにお話しいたしました。
クロリネーションで、小麦粉中のPS区分に疎水化が生じ、これがホットケーキの弾力性改良に大きな効果のある事を示しました。そして前述のようでした。そこでこのPS区分に集中です。
次にこのクロリケーションによるPS区分、デンプン大粒区分の疎水化(親油化)がなぜ生じたのかの検討です。
もっと言えば、クロリネーションによってデンプン粒表面の変化、疎水化がなぜ生じたのかの検討です。
デンプン粒表面を、色々なもので洗浄したり酵素処理したりして検討しました。何で体を洗ったらこの疎水化が消えたかが分かれば、その原因の実体が分かるだろうというものです。
デンプン粒表面には、脂質か/タンパク質か/他の多糖類かが付着しているのか不明でした。教科書には、デンプン粒表面には何もないのだとのことでした。
PS区分はかなりきれいなもので、一般分析しても大したタンパク質含量、灰分含量はありませんでした。これをまずクロロホルム/メタノール/水といった極性の強い有機溶媒で洗浄したり、プロテアーゼやアミラーゼ等で処理してゆきました。デンプン粒表面を脂質抽出溶媒で洗ってもこの親油性は変化しませんでした。しかしプロテアーゼ、アミラーゼ等でそれぞれ処理するとこの親油性は消失したのです(Cereal Chem 61, 241-244, 1984)。
即ちデンプン粒表面にはあるタンパク質が存在し、それがクロリネーションで疎水化(親油化)したが、プロテアーゼで分解されて消失し、デンプン粒表面からこの性質が消えたのだと言うものです。アミラーゼでデンプン粒表面を軽く分解すると、親油性が消えたのは、このタンパク質の付着しているデンプン部が分解されたためと考えました。
クロリネーションによるデンプン粒の親油化は、他のデンプン粒でも進むのかどうかと誰かにいわれ、そのテストも行いました。大麦デンプン粒、ポテトデンプン粒、米デンプン粒、ライ麦デンプン粒、ーーーである。ほぼ手許に有るデンプン粒はほぼ全て行いましたたが、何れもクロリネーションで親油性を示しました。勿論コントロール(未処理)のものにはこのような親油性は認められませんでした(Cereal Chem 61, 244-247, 1984 )。そしてこれらのデンプン粒の親油性もほぼ全てプロテアーゼで消失しました。
デンプン粒表面にタンパク質が存在して、それがクロリネーションで化学修飾されてこのような性質を示したものと思われました。
デンプン粒表面にわずかにタンパク質があり、クロリネーションで親油化するならば、そのモデル実験をやってみようと考えました。ピペットを乳鉢で砕いてガラスパウダーにして(顕微鏡で見るとデンプン粒のサイズぐらいの欠片)、水に溶けやすい牛血清アルブミン(BSA)水溶液中に浸けてこれをぬらして、そのまま室温で乾燥して、シャーレ中に入れシールしました。そこに塩素ガスを入れてクロリネーションしたら、やはりそのガラスパウダーは親油性を示しました(Cereal Chem 62, 166-169, 1985)。これはデンプン粒のモデルです。
シャーレ中にBSA液を流し込み、そのまま乾かして、シャーレごとシールして塩素ガスをそこにふき込み、しばらく放置後、水をそこに入れました。BSAはきれいな薄膜になって不溶化し、水面に浮きました。勿論コントロールはそのまま水に溶けました。BSAは疎水化して、水に不溶化したのです。
デンプン粒表面から、クロリネーションしたタンパク質を抽出して、塩素化タンパク質を取り出し、その分析は、当時小生のいた貧乏研究室では難しかったのです。たまたま20種のアミノ酸キットがあったので、各アミノ酸を少量ずつシャーレにとり、これをクロリネーションしました。
結果はペーパークロマトグラフィー(PPC)で調べ、クロリネーションによりアミノ酸の誘導体を捜しました。
その結果、チロシン、リジン等から, 誘導体を見出しました。つまり、Rfの違うスポットがニンヒドリン噴霧で生じたのです(Cereal Chem 62, 166-169, 1985)。これはエキサイテイングでした。チロシンからは、モノヨードチロシン、ジヨードチロシンが市販されてましたので、それらを使って構造を推定しましたが、リジンはそのままです。
誘導体のRf 値の位置から、何れも疎水化を示しました。
研究はさらに前に進みます。
クロリネーションで、小麦粉中のPS区分に疎水化が生じ、これがホットケーキの弾力性改良に大きな効果のある事を示しました。そして前述のようでした。そこでこのPS区分に集中です。
次にこのクロリケーションによるPS区分、デンプン大粒区分の疎水化(親油化)がなぜ生じたのかの検討です。
もっと言えば、クロリネーションによってデンプン粒表面の変化、疎水化がなぜ生じたのかの検討です。
デンプン粒表面を、色々なもので洗浄したり酵素処理したりして検討しました。何で体を洗ったらこの疎水化が消えたかが分かれば、その原因の実体が分かるだろうというものです。
デンプン粒表面には、脂質か/タンパク質か/他の多糖類かが付着しているのか不明でした。教科書には、デンプン粒表面には何もないのだとのことでした。
PS区分はかなりきれいなもので、一般分析しても大したタンパク質含量、灰分含量はありませんでした。これをまずクロロホルム/メタノール/水といった極性の強い有機溶媒で洗浄したり、プロテアーゼやアミラーゼ等で処理してゆきました。デンプン粒表面を脂質抽出溶媒で洗ってもこの親油性は変化しませんでした。しかしプロテアーゼ、アミラーゼ等でそれぞれ処理するとこの親油性は消失したのです(Cereal Chem 61, 241-244, 1984)。
即ちデンプン粒表面にはあるタンパク質が存在し、それがクロリネーションで疎水化(親油化)したが、プロテアーゼで分解されて消失し、デンプン粒表面からこの性質が消えたのだと言うものです。アミラーゼでデンプン粒表面を軽く分解すると、親油性が消えたのは、このタンパク質の付着しているデンプン部が分解されたためと考えました。
クロリネーションによるデンプン粒の親油化は、他のデンプン粒でも進むのかどうかと誰かにいわれ、そのテストも行いました。大麦デンプン粒、ポテトデンプン粒、米デンプン粒、ライ麦デンプン粒、ーーーである。ほぼ手許に有るデンプン粒はほぼ全て行いましたたが、何れもクロリネーションで親油性を示しました。勿論コントロール(未処理)のものにはこのような親油性は認められませんでした(Cereal Chem 61, 244-247, 1984 )。そしてこれらのデンプン粒の親油性もほぼ全てプロテアーゼで消失しました。
デンプン粒表面にタンパク質が存在して、それがクロリネーションで化学修飾されてこのような性質を示したものと思われました。
デンプン粒表面にわずかにタンパク質があり、クロリネーションで親油化するならば、そのモデル実験をやってみようと考えました。ピペットを乳鉢で砕いてガラスパウダーにして(顕微鏡で見るとデンプン粒のサイズぐらいの欠片)、水に溶けやすい牛血清アルブミン(BSA)水溶液中に浸けてこれをぬらして、そのまま室温で乾燥して、シャーレ中に入れシールしました。そこに塩素ガスを入れてクロリネーションしたら、やはりそのガラスパウダーは親油性を示しました(Cereal Chem 62, 166-169, 1985)。これはデンプン粒のモデルです。
シャーレ中にBSA液を流し込み、そのまま乾かして、シャーレごとシールして塩素ガスをそこにふき込み、しばらく放置後、水をそこに入れました。BSAはきれいな薄膜になって不溶化し、水面に浮きました。勿論コントロールはそのまま水に溶けました。BSAは疎水化して、水に不溶化したのです。
デンプン粒表面から、クロリネーションしたタンパク質を抽出して、塩素化タンパク質を取り出し、その分析は、当時小生のいた貧乏研究室では難しかったのです。たまたま20種のアミノ酸キットがあったので、各アミノ酸を少量ずつシャーレにとり、これをクロリネーションしました。
結果はペーパークロマトグラフィー(PPC)で調べ、クロリネーションによりアミノ酸の誘導体を捜しました。
その結果、チロシン、リジン等から, 誘導体を見出しました。つまり、Rfの違うスポットがニンヒドリン噴霧で生じたのです(Cereal Chem 62, 166-169, 1985)。これはエキサイテイングでした。チロシンからは、モノヨードチロシン、ジヨードチロシンが市販されてましたので、それらを使って構造を推定しましたが、リジンはそのままです。
誘導体のRf 値の位置から、何れも疎水化を示しました。
研究はさらに前に進みます。