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2011年4月アーカイブ

2011年4月28日 17:58 (瀬口 正晴)

カステラの話−6

小麦粉を枯らすということに対していろいろご関心をいただきました。

小麦粉を1年間余、室温に放置しておくということです。


タンパク質などはご存知のように変性をおこし、その立体構造は変化してゆきます。熱がかかるとその反応性は大きくなり(熱変性)、温度10℃アップすれば2−3倍の反応スピードアップ、逆に10℃ダウンすれば、1/2−1/3に反応スピードはダウンです。タンパク質にはいろいろな官能基があり、親水基、疎水基等があります。親水基は水と仲が良く、水気のあるところでは水分子の方に向いてます。しかし乾燥して水気がなくなると変性時構造の変化とともに表面から内部の方向に反転します。

疎水基は逆に水があれば水から逃げ、分子内に収まっています。しかし水がなく、乾燥状態になれば、表面に露出してきます。こうしてタンパク質の性質は長い間、水気のない疎水的な状況にあれば、タンパク質の立体構造変化にともなって、疎水基が表面に出てきて疎水性を示すように変化するのです。

こうして1年間も乾燥した中に小麦粉を置いておけば、これを小麦という植物体(生体という水分の多かった状態)から粉砕して細かくし表面が空気に露出されるような状態とすれば、当然このような親水基と疎水基の関係は、小麦粉内で生じてくるのです。



この小麦粉に水を加え水で小麦粉成分がどのような挙動を示すのかです。


枯れた小麦粉に水を加えても、水はなかなか小麦粉に馴染まない。それでも次第に小麦粉成分は水を嫌った挙動を示し、疎水基は疎水基どうしで引き合い、新たな挙動を水中で示すようになります。小麦粉のプライムスターチ区分(PS区分)はテーリングス区分(T区分)と引き合い、水中で激しく混合撹拌して、これらを遠心分離してみると、これまで新鮮な小麦粉ではきれいにPS区分, T区分が2層に分離したものが(互いに相互作用ない)、枯れた場合は、全くその分離が不十分となり、遠心分離しても2層に分かれなくなります。

更にPS区分のデンプン粒はその表面タンパク質が、前述のように疎水化して、デンプン粒が疎水的になり、油と馴染むようになります。さらにカステラバッターではカステラの卵気泡などの泡の表面に並ぶようになりました。卵の泡の表面も疎水的だから疎水性同士がひっぱり合うことが、気泡表面に並んで気泡を安定化し、オーブン中でも熱エネルギーで壊れようとするカステラの泡をデンプン粒が安定化するのです。


空気中には酸素があり、酸素に小麦粉は大きく晒される訳です。酸素は電子配列によって活性化(ラジカル)されていて、油断あればただちに相手と反応して前に進もうといたします。酸化です。

酸素分子には、3重項酸素 3O2, 1重項酸素 1O2, スーパーオキシアニオン 02-,
ヒドロキシラジカル ・OH,  過酸化水素 H2O2があります。

本来各元素は、電子、原子核からなってますよね。原子核の外の電子殻(K、L,M、N 等)に電子が存在してますね。各殻に軌道が存在し、1つの軌道に対し2個の電子が反対方向のベクトルを持って安定化してます。水素(1H)の場合、K殻に1s軌道に1個の電子、炭素(6C)の場合, K殻の1s軌道に2個、L殻の2s軌道に2個、L殻の2px 2py 2pzに2個、酸素(8O)の場合、K殻の1s軌道に2個、L殻の2s軌道に2個、L殻の2px 2py 2pzに4個となりますが、それぞれ、となりの原子と重なって、各軌道に電子2個づつ満たそうとします。

いろいろ無理があって、それぞれエネルギーを使って安定化しようとしています。ラジカルなどもそうですね。CはSP3混成軌道など作ってますね.

Oは3重項酸素として軌道を2カ所不安定化して、すきあらば他者との反応を伺ってますね。さらに一重項酸素、スーパーオキシドなどもっと不安定化したもので酸素分子ができ、これが更に他の物質などと反応して不安定化してゆきます。


小麦粉でも当然これらが反応を進め、小麦粉成分、タンパク質、脂質、炭水化物上で変化がおこり、これまでの挽きたての小麦粉中成分とは異なる様相を示してます。

油脂の酸化なども小麦粉を枯らすとその中で当然起ってますが、ここでは各区分の疎水化と卵泡安定性との関連が大きく関与しているとポイントを絞りました。

つづく

2011年4月20日 19:21 (瀬口 正晴)

カステラの話−5

小麦粉を枯らす、ねかすということは、実験室では室温で小麦粉をどこかに放置しておくとなります。温度や湿度がなるべく変化のないところに置くことになりますが、一年間放置となると日本の場合、四季があることからそのコントロールは難しいです。

暗所で、通風のよいところ、カビの生えぬところとなりましょうか。

鉄板トレー(25cm x 34cm x 3cm)中に1kgの小麦粉を高さ1cmほどになるように入れて、これを陽の当らぬような上述の部屋に数多く放置します。

この数多くのトレーを経時的に1個づつ取り出してはカステラベーキング、小麦粉の物性測定、酢酸分画法による小麦粉の分画等を行いました。

ほぼ1年間にわたってサンプルを実験してゆきますが、すぐに実験のできぬときは、冷凍庫に小麦粉サンプルは保存しました。


カステラベーキングは卵の起泡性を利用して行うものですから、ベーキング前にはバッターの比重を常に測定して、一定の比重範囲内に入るよういたします。

卵は常に新鮮なものを購入して使用しました。小麦粉はエージングを続けると次第に疎水的になり、その様子はミキソグラフという小麦粉測定装置にかけるとよくわかりました。

この方法は、小麦粉10gに水 5.0mlを加えて撹拌すると小麦粉は水を吸い糸状になり、これを回転しながら糸巻き状の数本のピンに絡ませて行きます。そのときの抵抗を測定するものです。


新鮮な小麦粉は、短時間内にクリーム状のバッターになり連続性を示し、ピンに巻き付いてゆき、きれいなプロフィールを示しました。


小麦粉が枯れるとともに小麦粉は水を吸わなくなり、ピンには巻き付きにくくなりました。これをプロフィールに示すことが出来ました。

枯れてくると、水を加えても小麦粉は吸水が困難になってくるということです。

この時の小麦粉は、酢酸分画を行って水溶性区分、グルテン区分(pH3.5)を除去した後、プライムスターチ(PS) 区分とテーリングス(T)区分は十分に撹拌後、遠心分離しても分離しなくなるという点がありました。

即ち、PSとT区分間に相互作用が生じてお互いに遠心分離で分離しなくなるということです。物理的な力(疎水化)が働いてます。


プライムスターチ粒(小麦デンプン大粒)は表面が疎水的に変化し、強い親油性を示すことが分かりました。小麦デンプン粒には大粒と小粒があり、大粒はPS 区分で、小粒はT区分にきます。

この小粒もやはり親油性を示しました。疎水性同士が互いに引き合い、PS,T区分の相互作用となったものです。


小麦水溶性区分、グルテン区分も疎水性になっているかどうかは証明データーがありません。

小麦粉はエージングで全体的に疎水的になっています。


続く

2011年4月13日 14:06 (瀬口 正晴)

カステラの話−4

ビスケットなどでも、小麦粉を枯らして作るとよいということを何かで読んだことがありました。

ある菓子職人は、自分の子供が体調を崩して食欲がなくなった時、子供にビスケットを食べさせたいと思った。しかし肝心の小麦粉が手許にない。しかし良く捜してみるとオーブンの上に古い小麦粉が隠れていた。この小麦粉で焼いてみたら、おいしくてできのよいビスケットが焼けたと言っていたというものです。


カステラでも同じでしょう。何かの経験で小麦粉を枯らすことが知られたのでしょう。新しい食の発見は常にそういうものです。

小麦粉を枯らす(エージング)ということについては、このようにそのプロダクトの出来不出来への影響が大きいことは昔から知られていました。


一般にわれわれの体では酸化することは空気中の酸素のなせる技で、老化につながるもので、好ましくはありません。


小麦粉の枯らしは、紙袋に入れてカビが生えない様にして、通風のいい暗所にそっと置いておくというものです。

何が一体小麦粉中で変化するのか。小麦粉は小麦を物理的に潰し、多くの組成の混合物です。したがって小麦よりは変化が早いはずです。

我々は便宜上これを水に溶ける水溶性区分、酢酸に溶けるグルテン区分、そしてそれらを除去したものを良く撹拌して遠心分離し、その2層にわかれた沈殿物を下層のプライムスターチ区分、上層のテーリングス区分に分画することが出来ます。

前者2つは10%づつ、後者2つは40%づつで、ほぼ100%を占めます。我々はこの内の後者2つのプライムスターチ(PS)、テーリングス(T)区分(両方で80%)の変化に注目してきました。

即ちPS, T区分はその回収率がエージング(枯らし時間)とともに変化することが観察されました。つまり新鮮なうちはPS区分 40%, T区分 40%だったものが、エージングとともに、PS区分が減り、その分T区分が増えるということです。最後はPS区分0%, T区分80%というようになります。

エージングでこのようにPS,T区分間に相互作用の起ることを観察しました。

この力は、PS区分であるデンプン粒表面の疎水化によるものなのか、このことを枯らすことも関連が大きく関心がありました。

続く

2011年4月 6日 14:37 (瀬口 正晴)

カステラの話−3

カステラは前述のように、強い卵白の起泡性を利用した食品(菓子)です。

この卵白のアワの性質は調理でよく使われるから、一般によく知られているところです。小麦粉に卵を入れてよくホイッピングしてつくるスポンジ、パウンド、あるいはハイレシオケーキなども同じことで、この卵白アルブミンのアワ(起泡性)を利用した食品です。


カステラの場合、ケーキなどと違って卵の量が比較的多いのが特徴でしょうか。ホットケーキなどは膨剤(ふくらし粉)を使って、そこからのガスを小麦タンパク質などでキャッチアップして膨化させます。

カステラの場合には、十分のホイッピングで起こした卵白の気泡のバッター中に小麦粉を加えて、更に撹拌してよく小麦粉と馴染ませたカステラバッターを作り、これをオーブンで焼くのです。


オーブンでは強力な熱エネルギーがかかるために、卵白だけだとそのアワは全て破壊され、ゴムの板状になってしまいます。

小麦粉をカステラバッターに加えるということは、この卵の気泡を小麦粉がオーブン中でも安定化し、カステラの組織をつくる点でしょう。

この時アワの疎水的表面に疎水的な小麦デンプン粒あるいは小麦粉が付着してこのアワを安定化し、カステラ組織形成に貢献するのでしょう。


オーブン中で加熱され、卵白膜中の水分は小麦粉、特にデンプン粒に吸収され、デンプン粒の糊化は進み、ゾルはゲルに変ります。

この時の卵による気泡の安定化がカステラ組織をつくり、あるいは最終的なカステラのふくらみ、食感に大きく貢献してくるのです。


製粉会社は新しい小麦を挽彩して、その小麦粉をすぐにカステラ職人のところへ持っていっても"この粉では駄目だ"と追い返されるそうです。"古い粉をもってこい"と言われ、なぜかわからないところです。カステラ職人はその小麦粉の善し悪しがすぐに分かるようです。


カステラ職人の求める良質の膨らみ、食感と言うものは、新しい小麦粉では得られない、古い、枯らした小麦粉でないと出来ないと言うのです。

その枯らした小麦粉の良さのメカニズムが永く不明でした。しかし長い小麦粉の歴史(パンの歴史は6千年以上)の中で経験的には知られていたのです。即ち小麦粉のねかし(エージング)です。小麦粉を挽いてすぐにカステラベーキングには用いないという点です。



製粉会社は新しい小麦粉を紙袋の中に入れ、これを風通しのよい場所で約1年間ねかし(エージング)、枯らしてからカステラ職人のところへもってゆきます。


この枯らした小麦粉が、カステラベーキングには必要なのだそうです。

それは何が原因なのかと言うことです。

つづく。

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