2011年5月アーカイブ
2011年5月25日 17:17 ( )カステラの話−9
小麦粉を枯らしてカステラ製造に用いると、小麦粉の性質が疎水化を帯びて気泡安定性が増加して、カステラバッターの卵の泡が安定化すること、そしてそれが原因でカステラの容積が増加することを述べてきました。
小麦粉を枯らすことは、製パンの歴史が6千年もあるとすれば、当然知られてきたことで、また何となく利用されてきた小麦粉の扱い方でしょう。
しかしもっと短時間のうちに同じ効果が出ないものであろうか。あるいは全く別の方法で(試薬を使って)同効果を引きずり出すことはできないだろうかということも思い浮んだことと思われます。
そのスタートは目的は異なっていたが、クロリネーションによる小麦粉の漂白であったことが、結果的には疎水化であり、ホットケーキの改良効果に結びついてきたのでしょう。
しかしハロゲンなどを使わずにもっと安全な方法をということで、出てきたのが乾熱処理でした。
ホットケーキのときにお話ししましたが、この乾熱処理も当然昔から誰かが考えて利用してきたのでしょうが、枯らすことからみられる小麦粉の疎水化にポイントを置いて、クロリネーションの効率と加熱処理の効果の一致性を考えてみることは大変に意外性があって面白いことでした。
カステラにもこの乾熱処理小麦粉を用いようと言う訳です。小麦粉を120℃2時間ほど鉄板の上において、HEAT DRYINGする処理方法です。
室温でほぼ1年から、温度を10℃ずつあげてその反応時間を短く考えていった訳です。
30℃,40℃、50℃ーーーー120℃です。10℃温度あげれば反応時間は2倍になるとして、処理時間は出てきます。それをやっていった訳です。
例えば30℃で12ヶ月ならば、40℃(10℃アップ)では6ヶ月です。50℃ではさらに10℃アップで、3ヶ月であろうという塩梅です。
こうしてたくさんの小麦粉を乾熱してサンプルを調製して、カステラベーキングすると、室温時の効果(枯らし時間が長いほどカステラはよく膨らむ)と同じ効果の得られることがわかりました。
小麦粉を枯らすことは、製パンの歴史が6千年もあるとすれば、当然知られてきたことで、また何となく利用されてきた小麦粉の扱い方でしょう。
しかしもっと短時間のうちに同じ効果が出ないものであろうか。あるいは全く別の方法で(試薬を使って)同効果を引きずり出すことはできないだろうかということも思い浮んだことと思われます。
そのスタートは目的は異なっていたが、クロリネーションによる小麦粉の漂白であったことが、結果的には疎水化であり、ホットケーキの改良効果に結びついてきたのでしょう。
しかしハロゲンなどを使わずにもっと安全な方法をということで、出てきたのが乾熱処理でした。
ホットケーキのときにお話ししましたが、この乾熱処理も当然昔から誰かが考えて利用してきたのでしょうが、枯らすことからみられる小麦粉の疎水化にポイントを置いて、クロリネーションの効率と加熱処理の効果の一致性を考えてみることは大変に意外性があって面白いことでした。
カステラにもこの乾熱処理小麦粉を用いようと言う訳です。小麦粉を120℃2時間ほど鉄板の上において、HEAT DRYINGする処理方法です。
室温でほぼ1年から、温度を10℃ずつあげてその反応時間を短く考えていった訳です。
30℃,40℃、50℃ーーーー120℃です。10℃温度あげれば反応時間は2倍になるとして、処理時間は出てきます。それをやっていった訳です。
例えば30℃で12ヶ月ならば、40℃(10℃アップ)では6ヶ月です。50℃ではさらに10℃アップで、3ヶ月であろうという塩梅です。
こうしてたくさんの小麦粉を乾熱してサンプルを調製して、カステラベーキングすると、室温時の効果(枯らし時間が長いほどカステラはよく膨らむ)と同じ効果の得られることがわかりました。
学会報告
学会報告
5月8日から11日まで、オランダ アムステルダム市で "Colloids and Materials 2011"
という学会が開催されました。今年の始めにこの会の紹介があり、面白そうなので、会への登録やらオーラル、ポスター発表の申し込みを行い、結局ポスター発表と言うことにきまりました。
発表タイトルは
"Oil Binding Ability of Wheat Starch Granules in Aged or Dry-heated Wheat Flour and The Role of This Hydrophobicity in Cake Baking with The Flour "
といたしました。
発表者は、
(1) M. Seguchi, (2) M. Ozawa, and C. Nakamura
(1) Kobe Women's University and (2) Kobe Women's Junior College
の3名で行いました。
Introduction:
It is interesting to know whether hydrophobic wheat prime starch granules (PS) (around 20μm of diameter) is occurred or not in aged or dry-heated wheat flour, and improvements of cake baking with these wheat flours are obtain or not.
Methods:
Aging or dry-heating of wheat flour were performed on iron plate at room temperature or 60-120℃ for various hrs. Pancake and kasutera cake (Japanese cake) were baked according to Ozawa (1) and Nakamura (2). Wheat flour was fractionated to water solubles, gluten, prime starch and tailings fractions by an acetic acid (pH 3.5) fractionation technique (1). Oil binding ability of PS was observed in oil / water (1).
Results and Discussion:
We obtained hydrophobic PS in aged or dry-heated wheat flour. The PS showed a remarkable oil binding ability owing to hydrophobicity of starch granule surface proteins by exposure of buried hydrophobic site in the proteins. Improvements of pan cake springiness and increase of kasutera cake volume were also observed by these wheat flours. These improvements of cakes may be due to hydrophobicity of prime starch granule surface protein by aging or dry-heating of wheat flour.
(1) M. Ozawa, M. Seguchi. Cereal Chem. 85, 626-628, 2008.
(2) C. Nakamura, Y. Koshikawa, M. Seguchi. Food Science and Technology Research, 14, 431-436, 2008.
上述がその申請文でした。
小 麦粉の室温でのエージング(枯らし、ねかし)処理と、120℃から室温までの各温度下での処理後、その小麦粉を使って行ったパンケーキ、カステラベーキン グ結果と、小麦粉の物性の変化、小麦粉中で生じる相互作用結果、及び小麦粉プライムスターチ(PS)区分の親油性(疎水性)増加等の実験結果との関係につ いて、多くの細かなデーターを元にして発表しました。
最終的には、小麦デンプン粒という20μほどの粒子が室温放置や、乾熱処理でその粒 表面の性質が親水性から疎水性に変るということがその中心原因ではないか、というものでした。それがこれらの起泡性食品の膨化、組織弾力性に関与してくる のであると結論しました。デンプン粒の、まさしくコロイド科学であり、会では多くの関心を集めました。
この分野の研究者は、先端 無機化学分野の人が多く、当方のような有機的な、しかも食品関連とは少々場違いといったようにも感じられました。しかし食品は正にコロイドであり、今回の 学会に参加して、無機化学のコロイド化学と食品のコロイド化学の接点があるように強く感じられ、興味深かったのです。
無機化学のコロイド化学分野は大きく進歩していると思われ.これを食品のコロイド化学分野が大いに利用しないといけないと思われました。何も壁はありません。
5月8日から11日まで、オランダ アムステルダム市で "Colloids and Materials 2011"
という学会が開催されました。今年の始めにこの会の紹介があり、面白そうなので、会への登録やらオーラル、ポスター発表の申し込みを行い、結局ポスター発表と言うことにきまりました。
発表タイトルは
"Oil Binding Ability of Wheat Starch Granules in Aged or Dry-heated Wheat Flour and The Role of This Hydrophobicity in Cake Baking with The Flour "
といたしました。
発表者は、
(1) M. Seguchi, (2) M. Ozawa, and C. Nakamura
(1) Kobe Women's University and (2) Kobe Women's Junior College
の3名で行いました。
Introduction:
It is interesting to know whether hydrophobic wheat prime starch granules (PS) (around 20μm of diameter) is occurred or not in aged or dry-heated wheat flour, and improvements of cake baking with these wheat flours are obtain or not.
Methods:
Aging or dry-heating of wheat flour were performed on iron plate at room temperature or 60-120℃ for various hrs. Pancake and kasutera cake (Japanese cake) were baked according to Ozawa (1) and Nakamura (2). Wheat flour was fractionated to water solubles, gluten, prime starch and tailings fractions by an acetic acid (pH 3.5) fractionation technique (1). Oil binding ability of PS was observed in oil / water (1).
Results and Discussion:
We obtained hydrophobic PS in aged or dry-heated wheat flour. The PS showed a remarkable oil binding ability owing to hydrophobicity of starch granule surface proteins by exposure of buried hydrophobic site in the proteins. Improvements of pan cake springiness and increase of kasutera cake volume were also observed by these wheat flours. These improvements of cakes may be due to hydrophobicity of prime starch granule surface protein by aging or dry-heating of wheat flour.
(1) M. Ozawa, M. Seguchi. Cereal Chem. 85, 626-628, 2008.
(2) C. Nakamura, Y. Koshikawa, M. Seguchi. Food Science and Technology Research, 14, 431-436, 2008.
上述がその申請文でした。
小 麦粉の室温でのエージング(枯らし、ねかし)処理と、120℃から室温までの各温度下での処理後、その小麦粉を使って行ったパンケーキ、カステラベーキン グ結果と、小麦粉の物性の変化、小麦粉中で生じる相互作用結果、及び小麦粉プライムスターチ(PS)区分の親油性(疎水性)増加等の実験結果との関係につ いて、多くの細かなデーターを元にして発表しました。
最終的には、小麦デンプン粒という20μほどの粒子が室温放置や、乾熱処理でその粒 表面の性質が親水性から疎水性に変るということがその中心原因ではないか、というものでした。それがこれらの起泡性食品の膨化、組織弾力性に関与してくる のであると結論しました。デンプン粒の、まさしくコロイド科学であり、会では多くの関心を集めました。
この分野の研究者は、先端 無機化学分野の人が多く、当方のような有機的な、しかも食品関連とは少々場違いといったようにも感じられました。しかし食品は正にコロイドであり、今回の 学会に参加して、無機化学のコロイド化学と食品のコロイド化学の接点があるように強く感じられ、興味深かったのです。
無機化学のコロイド化学分野は大きく進歩していると思われ.これを食品のコロイド化学分野が大いに利用しないといけないと思われました。何も壁はありません。
カステラの話−8
小麦粉を枯らしてカステラベーキングを行うと、カステラの膨らみの増加、食感の違い等の生じることがわかりました。この性質の利用は、食品工業分野では興味深いことではないでしょうか。
このように小麦粉を枯らすと、小麦粉自体の中では何が生じているのか興味深いところです。
我々の研究室では小麦粉の性質を調べる時、常法として小麦粉の酢酸分画法を行います。小麦粉とは小麦という植物体を物理的に破壊したもので、それらのミックス体です。これをきれいに分離しようと言うのが酢酸分画法です。小麦粉の水に溶ける成分を集めた水溶性区分(1)、水溶性区分を除きpH3.5溶液にとけるものを集めたグルテン区分(2)、水にもpH3.5溶液にも溶けない2成分、PS(Prime starch) 区分(3), T (Talings) 区分(4)です。この4区分が全てで、小麦粉成分はこのどこかに入っているという具合です。(1), (2), (3),(4)の合計の回収率もほぼ100%で再現性はよく、この酢酸分画法は小麦粉の性質を調べるのによい方法です。
この方法で枯らした小麦粉の各分画区分を経時的に調べてゆくと、枯らす時間が増加するに伴って、特に4区分内のPS区分とT区分のインターアクション(相互作用)が高まって、これまで容易に遠心分離でPS,T区分の分離の起ったものが、次第に分離しなくなりました。
枯らすことで、PS,T区分間に何らかの性質が生じてお互いに強く吸着するようになり、遠心分離でも離れなくなったのです。この力はこれまで認められてきた疎水的な力によるもので、PS区分中の小麦デンプン大粒とT区分間の疎水化の力でしょう。
PSとT区分間の結合は、挽きたての小麦粉中では大して認められなかった疎水化の力が、経時的に大きくなり、最後にはこの遠心分離の力(3,000rpm, 20min)では分離しなくなったのです。
経時的にずっと追ってゆくと、PSとT区分の分離しなくなる程度とカステラの容積増加との間には大きな相関性(r=0.99 )がありました。小麦粉を枯らしてカステラの容積に変化の起ることは、このPS区分とT区分間に生じた相互作用との間に大きな関係のあることが示されたのです。
疎水化によってPS区分とT区分が分離しなくなること、即ち小麦粉中に疎水化がはっせいしたことと、カステラの泡の安定化することとの間に、相関のあることがわかったのです。
このように小麦粉を枯らすと、小麦粉自体の中では何が生じているのか興味深いところです。
我々の研究室では小麦粉の性質を調べる時、常法として小麦粉の酢酸分画法を行います。小麦粉とは小麦という植物体を物理的に破壊したもので、それらのミックス体です。これをきれいに分離しようと言うのが酢酸分画法です。小麦粉の水に溶ける成分を集めた水溶性区分(1)、水溶性区分を除きpH3.5溶液にとけるものを集めたグルテン区分(2)、水にもpH3.5溶液にも溶けない2成分、PS(Prime starch) 区分(3), T (Talings) 区分(4)です。この4区分が全てで、小麦粉成分はこのどこかに入っているという具合です。(1), (2), (3),(4)の合計の回収率もほぼ100%で再現性はよく、この酢酸分画法は小麦粉の性質を調べるのによい方法です。
この方法で枯らした小麦粉の各分画区分を経時的に調べてゆくと、枯らす時間が増加するに伴って、特に4区分内のPS区分とT区分のインターアクション(相互作用)が高まって、これまで容易に遠心分離でPS,T区分の分離の起ったものが、次第に分離しなくなりました。
枯らすことで、PS,T区分間に何らかの性質が生じてお互いに強く吸着するようになり、遠心分離でも離れなくなったのです。この力はこれまで認められてきた疎水的な力によるもので、PS区分中の小麦デンプン大粒とT区分間の疎水化の力でしょう。
PSとT区分間の結合は、挽きたての小麦粉中では大して認められなかった疎水化の力が、経時的に大きくなり、最後にはこの遠心分離の力(3,000rpm, 20min)では分離しなくなったのです。
経時的にずっと追ってゆくと、PSとT区分の分離しなくなる程度とカステラの容積増加との間には大きな相関性(r=0.99 )がありました。小麦粉を枯らしてカステラの容積に変化の起ることは、このPS区分とT区分間に生じた相互作用との間に大きな関係のあることが示されたのです。
疎水化によってPS区分とT区分が分離しなくなること、即ち小麦粉中に疎水化がはっせいしたことと、カステラの泡の安定化することとの間に、相関のあることがわかったのです。
カステラの話−7
1年間ばかり小麦粉を枯らして(エージングして)、いよいよその粉を使ってカステラをベーキングするのです。
ベーキング前に、バッター中の卵による泡の安定性を測定しました。まずベーキングと同じカステラバッターを調製して、それをメスシリンダーに入れて容積を測定しました。
やはり小麦粉を枯らすに伴って、次第にメスシリンダー中のカステラバッターの容積は増加してゆきました。このことはカステラバッター中の気泡量の増えていることを示しています。小麦粉を枯らすことで、泡が安定化したのです。小麦粉の疎水化が原因でしょう。
小麦粉の疎水化は、小麦粉を水でぬれ易いか、ぬれ難いかで判断しました。これにはミキソグラフを使いました(FSTR 13, 351-355, 2007)。やはり枯らすと小麦粉はぬれ難くなります。
こうしてカステラバッターにエージング小麦粉添加で、泡により安定性を与えることが出来ました。
しかし高温のオーブン中でもなおこの疎水化でカステラバッターが安定化するかどうかは別問題です。
オーブン中でカステラを上部 230 ℃、下部 200 ℃のオーブン中でベーキングを行いました。
オーブン中では泡は熱で壊れるでしょう。しかし残った泡がカステラの組織ですね。
その結果、枯らした小麦粉ほどカステラの容積は大きくなりました。
枯らしの効果は十分に認められたのです。
加水量は小麦粉の固形量に対し常に一定ですから、水量の関係ではなく、あくまでも小麦粉の枯らしによる変化、疎水化です。
食べたあとの食感はというと、枯らす以前のものは、口腔内でねっとりとしたねとつき感は大きかったのですが、枯らすことで次第にそのねとつき感は低下しました。逆に弾力性が生じて口腔内でのドライな感じが得られました。
好みは人それぞれですが、学生に食べさせたりすると、若い人はドライなのが好き、そうでない人はねっとりが好きという塩梅でした。
その辺が小麦粉を枯らすことでコントロールできるということです。
ベーキング前に、バッター中の卵による泡の安定性を測定しました。まずベーキングと同じカステラバッターを調製して、それをメスシリンダーに入れて容積を測定しました。
やはり小麦粉を枯らすに伴って、次第にメスシリンダー中のカステラバッターの容積は増加してゆきました。このことはカステラバッター中の気泡量の増えていることを示しています。小麦粉を枯らすことで、泡が安定化したのです。小麦粉の疎水化が原因でしょう。
小麦粉の疎水化は、小麦粉を水でぬれ易いか、ぬれ難いかで判断しました。これにはミキソグラフを使いました(FSTR 13, 351-355, 2007)。やはり枯らすと小麦粉はぬれ難くなります。
こうしてカステラバッターにエージング小麦粉添加で、泡により安定性を与えることが出来ました。
しかし高温のオーブン中でもなおこの疎水化でカステラバッターが安定化するかどうかは別問題です。
オーブン中でカステラを上部 230 ℃、下部 200 ℃のオーブン中でベーキングを行いました。
オーブン中では泡は熱で壊れるでしょう。しかし残った泡がカステラの組織ですね。
その結果、枯らした小麦粉ほどカステラの容積は大きくなりました。
枯らしの効果は十分に認められたのです。
加水量は小麦粉の固形量に対し常に一定ですから、水量の関係ではなく、あくまでも小麦粉の枯らしによる変化、疎水化です。
食べたあとの食感はというと、枯らす以前のものは、口腔内でねっとりとしたねとつき感は大きかったのですが、枯らすことで次第にそのねとつき感は低下しました。逆に弾力性が生じて口腔内でのドライな感じが得られました。
好みは人それぞれですが、学生に食べさせたりすると、若い人はドライなのが好き、そうでない人はねっとりが好きという塩梅でした。
その辺が小麦粉を枯らすことでコントロールできるということです。