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2011年7月アーカイブ

2011年7月28日 19:57 (瀬口 正晴)

パンの話−8(冷凍ドウのはなし−5)

前述の森元さんは、更にこの時のこと(一度冷凍したパンドウを解凍して焼いた時、その膨らみ等が大きく劣化するが、その解凍したドウを再度イースト、砂糖を加えて撹拌、醗酵すると製パン性が元に戻るということ)を、確認するために以下のような実験を行ないました。

即ち、彼女は冷凍、解凍によっても小麦粉成分には大きな変化の無いことを証明するために、この解凍したパンドウの粘弾性の変化を以下のように調べました。

ガラス容器の中にパンドウを入れて、これをガラス容器ごとアスピレーター(減圧装置)で減圧にしたのです。パンドウはさらにプラスチックの筒の中に入っています。筒はガラス容器中に立っていて外部からパンドウを観察できます。

減圧にすればパンドウ中の気体が膨張して、引きのばされて筒の中を上に上にと伸びてゆきました。パンドウの気室の膜が伸びてゆくわけです。これを外部から写真にとり、その伸張(mm)スピードを測定したのです。

コントロールドウの伸びに比べて、冷凍、解凍したドウはその伸びが悪く、コントロールドウの約6−7割ぐらいの伸びでした。


冷凍、解凍したドウにイースト、砂糖を加えて、撹拌、醗酵させ、製パン性の回復するパンドウを作りました。そのパンドウは、このやりかたでコントロールとほぼ同一の伸びを示しました。


このことは、やはり小麦粉成分の冷凍、解凍による変化は少なく、まさに水の遊離によってドウの粘弾性低下が生じ、しかし一度冷凍、解凍しても再度そこに以前のような水の存在があれば、同一の粘弾性を示すのだということが示されたのです。

彼女は、真空状態でドウを引っぱり、ドウの粘弾性を調べたわけで、製パン時のようにイーストガスによる内部からドウを押す圧力ではなく、ドウを外部からひっぱってこの粘弾性を調べたわけです。



更にドウから冷凍、解凍で染み出た水のことが気になりました。

みなさんはお麩の作り方は知ってますか?

グルテンに多少のデンプンと小麦粉を加え、水で良く捏ねてそのまま高温度オーブンの中でお麩は調製されます。その膨化のメカニズムは、ドウの中にたっぷり含まれた水を強引に強熱で蒸発させドウを膨化させるのです。そして熱で固めたのがお麩ですね。

冷凍ドウでパンベーキングするとパン表面に梨肌が生じ、これもトラブルです。

パンの表面には梨肌をもっと大きくしたおでき状の組織もたくさん出来ます。これらは解凍時、ドウ表面部に生じる水がお麩同調、オーブンの高温下で蒸発し、表面の薄い皮を押しあげけて膨らむのでしょう。ドウから冷凍、解凍時、遊離した水が蒸発してドウを膨らませ、それがお麩状になって梨肌となるものと考えました。


森元さんは、解凍パンドウでお麩を作りながら、冷凍、解凍時に本当にドウ中に水が遊離することの証明をしようというのです。


次に。

2011年7月22日 13:28 (瀬口 正晴)

パンの話−7(冷凍ドウのはなし−4)

冷凍によってイーストが破壊されるとか、グルテンタンパク質やデンプン粒等の小麦粉成分が化学的な変化をおこして製パン性が低下するというのではないというデーターが得られました。


パンドウを−20℃で冷凍してさらに解凍すると、パンの膨らみや高さ等の製パン性が低下するのは、イーストの破壊や小麦粉成分の化学的な変化によるものではないでしょう。


例えば冷凍でデンプンのグルコシド結合や多糖類等の結合が破壊されたり、グルテンタンパク質のペプチド結合等が破壊されたのではないでしょう。

テストに使用中のイーストの命も、この程度のフリーズでは死なないのでしょう。

ならば、すでに醗酵も終え、そのまま焼けば満足のゆく製パンの可能なパンドウを、その直前に冷凍するとなぜ駄目になってしまうのかという疑問です。


担当の森元さんの考えたアイデアは次のようなものでした。

パンドウ中のデンプンやグルテン等小麦粉成分にうまく馴染んだ水は、冷凍することによって氷結晶となります。その際水分子は自分の関与していたものから外れ、ひたすら水分子だけが集合して氷結晶になるのです。そしてタンパク質、デンプン等の馴染んでいた相手と一度水分子が離れると、解凍時にはこの引き離された水は元の状態にもどらないのだろうと。


彼女は、それならば解凍したパンドウをもう一度、染み出た水も除去しないで、一緒に撹拌操作してはどうか、そしてもう一度新たなイーストの力を使って、ガスをイーストドウ中にため、そのときにイーストの餌として砂糖も添加して膨化したパンドウを作り、これで製パン試験してはどうかと考えました。


こうして製パン試験を行ないました。

結果は思った通り、パンは良く膨らみ、満足のゆく製パン性を得ることができました。

このことは小麦粉成分には全く冷凍によるダメージはなく、単に水の遊離の問題だけであったということです。

彼女はこの時、イーストのみ入れ、砂糖を入れなかった場合もやりましたが、イーストが餌なしのためか膨れませんでした。

こうしてパンドウの冷凍の場合の、製パン性劣化のメカニズムが明らかになりました。


パンが膨れるために必要なドウ中の気室の壁から水分が抜け、本来の粘弾性が失われたのがこの原因でした。


冷凍によってもいかに水を小麦粉成分から簡単に外れないようにするのかが冷凍ドウの場合には問題となるようです。


次に。

2011年7月12日 18:38 (瀬口 正晴)

パンの話−6(冷凍ドウのはなし−3)

パンドウを−20℃に凍結し解凍後、製パンを行なうと、製パン性(パン高、比容積)は著しく低下いたします。このときパンドウから、それまで保持していたパンドウ中の一部の水を冷凍、解凍により遊離することが認められ、ドウを遠心分離すると上清液に集めることが出来ました。

冷凍解凍による製パン性の低下と、この遊離水量との間には大きな相関性のあることが分かりました。

森元さんは多くの種類の小麦粉をあつめ、これらを用いて同様の研究を進めました。製パンの分野では、ある1種の小麦粉だけではなく、他の多くの小麦粉でも同様の結果の得られることが大切なのです。何れの小麦粉でもその傾向は同じであることを確認しました。

ドウ中の水は、冷凍中にドウ成分(デンプン、タンパク質,多糖類等)から外れて、水だけ集まって氷結晶になる訳です。その際にタンパク質の変性、分解、でんぷんや多糖類等の変化、分解、相互作用など何か大きな物理的変化は生じるのでしょうか。あるいは氷結晶がパンドウ組織を物理的に破壊するのでしょうか?


染み出る水のことは置いておいて、森元さんは次のように実験を進めました。

イーストの冷凍解凍の影響はどうだろうかと。

イーストのみを凍結解凍させ、冷凍などしないパンドウにこれを入れて製パン試験しました。全く影響なく、コントロール同様の良い製パン性を与えました。

小麦粉ドウの冷凍解凍の影響はどうでしょうか。
小麦粉に水を加え小麦粉ドウを作り、その冷凍解凍を行ないました。そこに未冷凍のイースト添加して製パン試験を行ないました。コントロール同様の良い製パン性を与えました。

イースト醗酵後、冷凍解凍のパンドウへの影響はどうでしょうか。未冷凍の場合、きちんとした製パン性を与えるパンドウを、一度冷凍解凍すると、前述のように製パン性(パン高,比容積)は低下しました。イーストで発酵後、冷凍、解凍すると、もう駄目だということでした。

次に。

2011年7月 7日 09:48 (瀬口 正晴)

パンの話−5(冷凍ドウのはなし−2)

パンドウを調製して、そのままベーキングすれば良好な膨らみを示すパンが可能でしたが、このパンドウを冷凍機(−20℃)の中に入れてフリーズし、必要な時に取り出して解凍後、製パンを行なうと製パン性は極めて劣化し、パン高、比容積は著しく低下します。

この冷凍によるパン劣化のメカニズムは不明で、何故に冷凍、解凍で製パン性が低下するのか誰も知らずに長く放置されてきました。

製パン業界ではこれを防ぐために、乳化剤を入れたり、吸水性多糖類を入れたり、あらゆる考えられることを駆使してやっています。一度冷凍して、必要なときに取り出しパンが焼けるのは、労働時間の継続性のなくなることから、大きなメリットです。

しかし何故に冷凍するとパンは駄目になるのでしょうか。

いろいろメカニズムが考えられました。冷凍中イーストからしみ出てくるものが駄目にするのだとか、グルテン膜の破壊、デンプンの構造変化が原因などなどということです。その関連の成書をみると詳しく述べられていますが、なかなか決定打の無いのが現状と思います。

我々はこの大きな問題解決のため、ひとのやってないような新たな切り口を探そうと考えてゆきました。まずパンを徹底的に焼いてみようということです。

冷凍による製パン性(パン高、比容積)の劣化とはどんなものかというと、

ドウを作ってすぐ冷凍すると、1日目でパンの膨らみはほぼ未冷凍に比べて60-70%となり、これを2日、3日と延長してもそれ以上は大きく変化せずそのまま小さい一定値で保持されます。

ドウの解凍時の変化を観察しました。コントロール(未冷凍)に比べてドウに何か違いはみられないだろうかということです。学生らにも観察させると、パンドウ表面のかがやきが違うと言いました。冷凍解凍でドウ表面が湿っぽくなるとの感想でした。

表面に水分が浮いてきているのです。それならばこの表面の水分を何とかして定量してみたいと思いました。

いろいろやってみました。

結局パンドウを遠沈管につめて、遠心分離を行ないました。すると上清部に粘性のある液体が集まりました。円沈管を一定温度下, 45度の角度にセットして30分間放置しました。

ポタリ、ポタリと水滴に成ってその粘性溶液は滴下するわけです。

この実験を進め、冷凍による製パン性の劣化と、その解凍ドウからしみでる液量との間に大きな相関があり、しみ出る量が多いほどパンの膨らみは駄目になってゆくという結果でした。冷凍ドウによる製パン性の低下はこの遊離した液体量上昇のためと思いました。

いままできちんとパンドウにキャッチされていた水が、冷凍解凍でどのように外れて遠心分離で絞り出されてくるのかは不明です。

ドウ中の水は冷凍後、ドウから分離して一度氷結晶になると、解凍後は、もう以前のようにパンドウ中に存在しえないのでしょうか。

次に。

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