補聴器を使い始める。
今から数十年前、高校の同窓会の席で、ある年配の先輩が補聴器について語っていた言葉が、今も印象深く記憶に残っている。「補聴器は素晴らしい。今までよく聞き取れなかった家族の会話や孫の言葉が、はっきりと聞こえるようになり、会話も弾むようになった。もし不便を感じているなら、補聴器の使用をぜひ勧めたい。」
当時の私は、自分にはまだそのような不便はない、遠い世界の話だった。しかし、年月が流れ、今や私がその先輩と同じ立場になった。ふと、そのときの先輩の言葉が思い出され、「あれは先輩の体から出た本当の話だったのだ」と、今度小生が「今誰かお困りの人がいればご参考に」と、こうして筆を執っている次第である。ここで強調したいのは、補聴器は眼鏡と同様に、生活に欠かせない必需品であるということである。
私が難聴を感じ始めたのは、神戸女子大学教員時代のことでした。米国のある女性歌手の非常に高音域の歌声に魅了され、大学須磨学舎の研究室から宿舎までの徒歩帰りみち30分間、連日高音で、イヤホンで聴いていたことがあった。その頃から耳の高音部の耳細胞が破壊された感覚があった。また、同じ時期、50名クラスの講義ではマイクを使わずに大声で学生に話していたため、これも耳に負担をかけた要因だったと思う。当時、講義前にめいめいの学生の氏名を呼び、出席をとっていたが、その際の学生からの返答がよく聞き取れず、「先生は、うまく聞こえてない」と冗談めかして言われたこともあった。親父も年をとってから似たような難聴だったが、会社では「都合の悪いことは聞こえないから、難聴もそれほど悪いものではない」と言っていた記憶がある。ある友人も「自分が中心の大学の会議では、重要な話が聞き取れないというわけにはいかない。補聴器を使っている。なかなかいいよ。」と小生にも是非と勧めてくれていた。値段が高いのでびっくりした。「そのうち技術が進んで、もっと安価で良い補聴器が出てくるだろう。新聞広告に載っているような廉価な製品も、いずれ洗練されてくるだろう」と期待していた。
退職後、自宅にいることが多くなり、人との交流も次第に減ってきた。そのため、耳の衰えもあまり気にならなくなっていた。ところが、テレビや映画を見る際、字幕がないと日本語のストーリーですら分かりづらくなってきた。また、孫たちが遊びに来たとき、孫同士が「じいじの耳は聞こえてないみたいだね」と言ってくすくす笑い合っているのを見て、「これはいけないな」と感じるようになった。ある会議で議長からの質問が聞き取れず、内容がよく分からないまま答えてしまった。後でとても不安になった。しかし、こうした経験が重なり、「やはりそろそろ補聴器が必要かもしれない」と思うようになった。友人のアドバイスもあり、補聴器購入することにした。
そこで、近くの耳鼻咽喉科(病院名、グリーンハウス)を受診した。病院では聴力検査を受け、高音域と低音域の聞こえ具合を調べてもらった。低音域は両耳とも正常でしたが、高音域が聞き取りにくい状態だった。その検査結果を持って、補聴器専門店、トーシン補聴器センター・京都(京都二条)を訪ねた。店内は、高齢の男性や女性が来店していた。
個室に案内され、さまざまなテストを受けた。中には、音が聞こえたときにスイッチを押すものや、言葉を正確に聞き取れるかどうかを調べるものなど、非常に細かい検査も含まれていた。レシーバーを使ったテストも行われ、内容は丁寧かつ納得のいくものだった。それらの結果ををベースにして各個人に合う補聴器を作るのである。耳の中にスポッと入れるのが良さそうということから型取りをした。何やら柔軟なものを耳に入れ型取りをし、その中に中心部の機器が埋め込間れていた。違和感があり、数回削るなどして、耳に合わせた。音の高低をセットしてくれ、あとはスマートフォンスで自分で高低、感度等左右で調整できるようになっていた。やはり高波長側を調整してくれ、補聴器を耳に入れた途端に聞こえるようになったのには驚いた。ストレッチ体操に通っているのが、インストラクターの先生の言葉が聞き取りにくかったのが、すべて聞き取ることができたのには驚いた。
脳の方がだいぶんいい加減な音に慣れているので、この補聴器をセットして3ヶ月から6ヶ月は聴き続けろということだろう。初め金属音なども入ってきたが知らないうちに気にならなくなり、元のまともな音に戻った感じがした。難聴が気になったらこれをトライする必要がある。これで外部とのやりとりも気にならなくなる。難聴の脳は十分に変化するには3ヶ月程度続けることが必要で途中でやめてしまうと、脳が変化していかないとのことである。
言われるままに補聴器を購入し、はや3月にもなろうか。5月26日から本格的に耳に入れスタートすると、本日7月13日でまだ2ヶ月半か。夜中には補聴器を外して充電し、翌朝6時には起きてテレビをつけ、ニュースを見るとアナウンサーの声は遠くで聞こえる。はっとして補聴器を充電器から取り出して、まず右の耳に入れると高音が耳に入り、左の耳にもそれだけで何やら音が入る。両耳にしっかり入れると、テレビのアナウンサーの声ははっきり以前にのように完全に聞こえ、これまで高音が独立に耳に入っていたが、その単独の音が消えてそれ以外の音と合致してきた。両耳にタイミングよく高音が入りアナウンサーの声が落ち着いて全て聞き取れるようになる。高音がなくて言葉が聞き取れてなかったのである。それを3ヶ月まで出ていないが次第に聞こえるようになったと感じる。急にではなく、次第次第に気がついたら聞こえているような気がする。脳の方が馬鹿なのが、やがてそれがまともに働いてくれるまで時間がかかるのだろうか。やはり時間はかかるが効果的である。この補助器は必需品となっている。脳の機能の仕方を教えてくれる。
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