2011年1月アーカイブ
2011年1月24日 18:21 ( )ホットケーキの話−11
クロリネーションを小麦粉に施して問題になるのは、やはり食品衛生上の問題です。怖いのは、塩素元素が食品中の成分と反応して、それが体内に入ると言うことです。
これまでお話しした中でもアミノ酸などには明らかに塩素元素が入り込んで、それが原因でタンパク質の疎水化を引き起こしたりしています。それ以外に脂質の不飽和脂肪酸などにも塩素元素が入り込み、これをガスクロマトグラフィーで調べると、多くの誘導体が出来てました(聖母女学院短大紀要, 1991, 20, 53-60)。
これらクロリネーションによる誘導体形成物質が、人体の中に入って悪影響はないのかどうか興味深い点です。
費用のかからぬ方法で、簡単に調べる方法はないかどうか検討しました。1972年にアメリカのAmesらが考案した、微生物を用いる細菌復帰突然変異試験(Ames試験)法の確立されていることを知りました。
これは、ネズミ体内から分離された微生物(Salmonella TA 98) を用いて調べる突然変異原性の研究方法です。この方法による突然変異原性を示す物質と、発ガン性物質とは90%の相関があると言われています。
一般には、まず危険性のある物質をこの方法で追求し、その可能性があれば、有機合成して多量の当該物質をえてから動物実験を行って、発ガン性有無を調べるという段取りです。
このエームズ試験法を用いて、クロリネーションアミノ酸の突然変異原性を検討しましたが全て陰性でした。その実験のコントロールとして用いたTrp-P-2は、強い突然変異原性を示しました(聖母女学院短大紀要, 1990, 19, 1-4)。
日本の品川らによって開発されたumu試験法は、簡便な突然変異原性試験方法(これは大塚アッセイ研究所、ウムラックとして市販されています)です。この方法を用いてクロリネーション脂肪酸の誘導体を試験しました。やはり突然変異原性は認められませんでした。このときのコントロール,furylfuramide, 2-aminoanthraceneは強い陽性を示しました。
Ames試験法、umu試験法ではクロリネーションアミノ酸、脂肪酸の各誘導体による突然変異原性は認められなかったということです。その他は不明です。
次回からクロリネーションから、他の方法に展開します。
ホットケーキの話−10
パンやホットケーキなどのドウやバッター(ともに小麦粉に液体を加えて練ったものをいいます)では、米を炊飯するときに比べ、加水量の比率が低いため、これらのパンやホットケーキなどのデンプンはかなり糊化度が低くて、デンプン粒の原形をとどめています。
米は炊飯時に加える水の量が大変に多いですから、デンプンは十分糊化(α化)しています。だからご飯の方がパンやホットケーキよりも、消化はよくエネルギーが大きいのです。それに比べ、特にホットケーキより加水量の少ないパンの方が、消化は悪くデンプン粒の原形をとどめている傾向は大きいのです。
ということは、デンプン粒表面の性質が、パンやホットケーキの組織形成(膨らみ、弾力性)に大きく影響して、これを食べた時の食感にも大きく影響するということです。クロリネーションのデンプン粒表面の疎水化と弾力性獲得も正にそれです。デンプン粒表面の性質が大変に重要なのです。小生がデンプン粒表面にこだわるのはそんな理由です。
これまでの話で、小麦デンプン粒の表面タンパク質の存在とその定量方法の確立まで進めました。ではそのデンプン粒自体はどんな構造しているのか、興味の出るところです。
小麦デンプン粒には2種類あり、大粒(サイズ約20μメータ-)と小粒(約2μメーター)の2つです。その中間サイズはないため、おのおのの生合成ルートは別のものと考えられます。大粒の方が小麦粉酢酸分画した時にPS区分にくるもので、小粒の方はTailings区分に紛れ込みます。大粒はPS区分そのものです。
今クロリネーションのメカニズムの調査から、PS区分を追っかけているので大粒の方を調べました。この大粒の形はというと、横から見ると凸レンズ状で、上から見ると円形です。粒はお椀状のもの2枚が真ん中で張り付いているように見えます。張り付いたところには線が見え、これを赤道溝(equatorial groove)と呼んでいます。ここのところが構造的には弱そうです。
大粒を割ってその内部を見たいのですが、みるならばお椀状のものがはり付いている赤道溝のところが弱そうで、ここを引き離したら内部がきれいに見えそうでした。
デンプン粒を水中で熱すれば糊化し、デンプン粒はくちゃくちゃになり、何れも歪んでしまいます。また、アミラーゼなどの酵素作用でも酵素で何が起るか不明です。酵素も使いたくないのです。
加熱したり、酵素など用いないで何とか粒を開けないだろうかと。
界面活性剤など使って前回述べたように粒表面からはいろいろなものが外れてゆきます。次第に内部に及び、粒の形を保持しながら元の姿が変形してゆきます。
何かデンプン粒の表面環境を変化させて、粒がうまくオープンしないだろうかと考えました。
デンプン粒表面の環境を変えるために、レマゾールブリリアントブルー(RBB)色素で粒表面を染色したデンプン粒を用いました。これを用いて、半日間室温で前回述べたメルカプトエタノールという還元剤を入れたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で撹拌しながら、洗浄操作を行いました。
走査型電子顕微鏡(SEM)でこのサンプルを観察しました。研究者は金長助手(当時)でした。彼女は極めて熱心なSEM観察者でした。その当時の本学のSEMには旧式のためコンピューターが入っておらず、全て手動式でした。彼女は1枚の写真を撮るのにも、数十分から1時間ほどかけ、微調整しながら取ってゆきました。その写真は素晴らしいもので、陰影の明快さもコンピューター以上のものでした。徹夜で多くの写真を撮ってくれました。すぐにCereal Chemistryに投稿しました。先方のレフェリーからは彼女の取った写真に対し絶賛でした。
この方法でやると、デンプン粒は先述のような赤道溝の所から2つに割れるものが多くみられました。
童話の世界、桃から生まれた桃太郎のような割れ方でした。あるものは、ハンバーガーの2枚のバンが少々ずれて見えるといったようなものもありました。
1個のデンプン粒が2つに割れ、内部はというと何か桃の種子が中心部にあるようで、中心部は周縁部と異なった構造が認められました。
粒には2重構造があるようでした。いろいろな角度の写真から、デンプン粒の内部構造を推察しました。このような写真はこれまで雑誌にはなかったので、Cereal ChemistryはすぐにAcceptしてくれました(Cereal Chem. 74:548-552, 1997)。
金長氏は体調を崩され、大病で入院することになりました。小生も数回病院へお見舞いに行きました。ちょうどそのころ、彼女の取った電顕写真の掲載された論文の別刷りがCereal Chemから郵送されてきました。
その別刷りを病院に持ってゆきました。ベッドで寝ていた彼女に報告しました。彼女は感激したのか、それを見て泣いていました。命がけで撮影された電顕写真だったことは確かです。
現在、ご本人は元気になり、大学に復帰されています。
米は炊飯時に加える水の量が大変に多いですから、デンプンは十分糊化(α化)しています。だからご飯の方がパンやホットケーキよりも、消化はよくエネルギーが大きいのです。それに比べ、特にホットケーキより加水量の少ないパンの方が、消化は悪くデンプン粒の原形をとどめている傾向は大きいのです。
ということは、デンプン粒表面の性質が、パンやホットケーキの組織形成(膨らみ、弾力性)に大きく影響して、これを食べた時の食感にも大きく影響するということです。クロリネーションのデンプン粒表面の疎水化と弾力性獲得も正にそれです。デンプン粒表面の性質が大変に重要なのです。小生がデンプン粒表面にこだわるのはそんな理由です。
これまでの話で、小麦デンプン粒の表面タンパク質の存在とその定量方法の確立まで進めました。ではそのデンプン粒自体はどんな構造しているのか、興味の出るところです。
小麦デンプン粒には2種類あり、大粒(サイズ約20μメータ-)と小粒(約2μメーター)の2つです。その中間サイズはないため、おのおのの生合成ルートは別のものと考えられます。大粒の方が小麦粉酢酸分画した時にPS区分にくるもので、小粒の方はTailings区分に紛れ込みます。大粒はPS区分そのものです。
今クロリネーションのメカニズムの調査から、PS区分を追っかけているので大粒の方を調べました。この大粒の形はというと、横から見ると凸レンズ状で、上から見ると円形です。粒はお椀状のもの2枚が真ん中で張り付いているように見えます。張り付いたところには線が見え、これを赤道溝(equatorial groove)と呼んでいます。ここのところが構造的には弱そうです。
大粒を割ってその内部を見たいのですが、みるならばお椀状のものがはり付いている赤道溝のところが弱そうで、ここを引き離したら内部がきれいに見えそうでした。
デンプン粒を水中で熱すれば糊化し、デンプン粒はくちゃくちゃになり、何れも歪んでしまいます。また、アミラーゼなどの酵素作用でも酵素で何が起るか不明です。酵素も使いたくないのです。
加熱したり、酵素など用いないで何とか粒を開けないだろうかと。
界面活性剤など使って前回述べたように粒表面からはいろいろなものが外れてゆきます。次第に内部に及び、粒の形を保持しながら元の姿が変形してゆきます。
何かデンプン粒の表面環境を変化させて、粒がうまくオープンしないだろうかと考えました。
デンプン粒表面の環境を変えるために、レマゾールブリリアントブルー(RBB)色素で粒表面を染色したデンプン粒を用いました。これを用いて、半日間室温で前回述べたメルカプトエタノールという還元剤を入れたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で撹拌しながら、洗浄操作を行いました。
走査型電子顕微鏡(SEM)でこのサンプルを観察しました。研究者は金長助手(当時)でした。彼女は極めて熱心なSEM観察者でした。その当時の本学のSEMには旧式のためコンピューターが入っておらず、全て手動式でした。彼女は1枚の写真を撮るのにも、数十分から1時間ほどかけ、微調整しながら取ってゆきました。その写真は素晴らしいもので、陰影の明快さもコンピューター以上のものでした。徹夜で多くの写真を撮ってくれました。すぐにCereal Chemistryに投稿しました。先方のレフェリーからは彼女の取った写真に対し絶賛でした。
この方法でやると、デンプン粒は先述のような赤道溝の所から2つに割れるものが多くみられました。
童話の世界、桃から生まれた桃太郎のような割れ方でした。あるものは、ハンバーガーの2枚のバンが少々ずれて見えるといったようなものもありました。
1個のデンプン粒が2つに割れ、内部はというと何か桃の種子が中心部にあるようで、中心部は周縁部と異なった構造が認められました。
粒には2重構造があるようでした。いろいろな角度の写真から、デンプン粒の内部構造を推察しました。このような写真はこれまで雑誌にはなかったので、Cereal ChemistryはすぐにAcceptしてくれました(Cereal Chem. 74:548-552, 1997)。
金長氏は体調を崩され、大病で入院することになりました。小生も数回病院へお見舞いに行きました。ちょうどそのころ、彼女の取った電顕写真の掲載された論文の別刷りがCereal Chemから郵送されてきました。
その別刷りを病院に持ってゆきました。ベッドで寝ていた彼女に報告しました。彼女は感激したのか、それを見て泣いていました。命がけで撮影された電顕写真だったことは確かです。
現在、ご本人は元気になり、大学に復帰されています。
ホットケーキの話−9
さらに小麦デンプン粒の構造についてお話いたします。
SDS ( Sodium dodecyl sulfate=ドデシル硫酸ナトリウム)は、難溶性タンパク質を可溶化抽出するのに都合のいい試薬です。SDSは、我々の歯磨きチューブの中にも入っていて、歯磨きした時、我々の口腔内にへばりついた脂質、タンパク質残さなどをきれいに清掃してくれ、口の中をさっぱりしてくれるものです。
この試薬にさらにタンパク質のSS結合を外すため、少々還元剤も入れ、それでデンプン粒表面を洗浄しました。そうするとタンパク質は外れ、共に脂質や粒表面の可溶性デンプンを含めた炭水化物なども外れてきます。しかしデンプン粒自体は加熱しない限り粒形を保っています。
この条件でほぼ1日ぐらい室温で撹拌すると、これらのものはデンプン粒本体からはずれ、さらに新鮮な洗液に切り替えて洗浄すると、2日目からはデンプン粒から炭水化物のみが抽出されてきました。
こうして続けると、4日目には粒は顕微鏡下で新しい形を示すようになりました。これを偏光顕微鏡で見ると、扁平な形のデンプン粒が見え、その内部が透けて見えるようになりました。内部には2重構造が見えてきました。円形の中にさらに中心部に小型の円形のものが見え、外側の周縁部には放射状のスカート状のラインが多く見えてきました (Cereal Chem, 66:193-196 1989)。
はじめこれは、粒表面のものが、刷毛のようなもので取り去られ、表面の模様が見えていると思いましたが、電顕(SEM)ではこの模様がみえなかったので、デンプン粒内部が光で透けて見えたのだと思いました。
SDSでデンプン粒を洗浄することでまずタンパク質、脂質が外れ、それとともに表面部のソフトなデンプン部が溶け出たのでしょう。
さらに続いて内部のデンプン部の弱いところから溶け出て、粒骨格構造がはっきり浮き出て見えるようになったのです。
それは、例えばビルデイングのセメント部が外れ、抜け落ち、残った骨格の鉄骨などの強固部分が残って、それが外側から見えたのです。
こうなると、こうして外部から弱い構造を外して外からみるのではなくて、何とかしてデンプン粒の内部を開いてみたいと思いました。
そのものズバリ、デンプン粒を開けてみたいと思うようになりました。
次回です。
SDS ( Sodium dodecyl sulfate=ドデシル硫酸ナトリウム)は、難溶性タンパク質を可溶化抽出するのに都合のいい試薬です。SDSは、我々の歯磨きチューブの中にも入っていて、歯磨きした時、我々の口腔内にへばりついた脂質、タンパク質残さなどをきれいに清掃してくれ、口の中をさっぱりしてくれるものです。
この試薬にさらにタンパク質のSS結合を外すため、少々還元剤も入れ、それでデンプン粒表面を洗浄しました。そうするとタンパク質は外れ、共に脂質や粒表面の可溶性デンプンを含めた炭水化物なども外れてきます。しかしデンプン粒自体は加熱しない限り粒形を保っています。
この条件でほぼ1日ぐらい室温で撹拌すると、これらのものはデンプン粒本体からはずれ、さらに新鮮な洗液に切り替えて洗浄すると、2日目からはデンプン粒から炭水化物のみが抽出されてきました。
こうして続けると、4日目には粒は顕微鏡下で新しい形を示すようになりました。これを偏光顕微鏡で見ると、扁平な形のデンプン粒が見え、その内部が透けて見えるようになりました。内部には2重構造が見えてきました。円形の中にさらに中心部に小型の円形のものが見え、外側の周縁部には放射状のスカート状のラインが多く見えてきました (Cereal Chem, 66:193-196 1989)。
はじめこれは、粒表面のものが、刷毛のようなもので取り去られ、表面の模様が見えていると思いましたが、電顕(SEM)ではこの模様がみえなかったので、デンプン粒内部が光で透けて見えたのだと思いました。
SDSでデンプン粒を洗浄することでまずタンパク質、脂質が外れ、それとともに表面部のソフトなデンプン部が溶け出たのでしょう。
さらに続いて内部のデンプン部の弱いところから溶け出て、粒骨格構造がはっきり浮き出て見えるようになったのです。
それは、例えばビルデイングのセメント部が外れ、抜け落ち、残った骨格の鉄骨などの強固部分が残って、それが外側から見えたのです。
こうなると、こうして外部から弱い構造を外して外からみるのではなくて、何とかしてデンプン粒の内部を開いてみたいと思いました。
そのものズバリ、デンプン粒を開けてみたいと思うようになりました。
次回です。
ホットケーキの話−8
小麦粉のクロリネーションでホットケーキの弾力性(食感)のでることは何度もお話しいたしました。その原因としてデンプン粒表面タンパク質の疎水化が原因であるということもお話しいたしました。
デンプン粒表面タンパク質のそのタンパク質については、各種タンパク染料で着色して確認され、さらに蛍光顕微鏡観察によりデンプン粒1個1個にタンパク質の付着を確認しました。これは前のブログで説明しました。
こうしてデンプン粒表面タンパク質の存在を明らかにしたら、更にそのデンプン粒タンパク質表面のタンパク質含量の定量がしたくなりますね。
このデンプン粒表面タンパク質の定量方法が大切な場面がこれから必ず出てくると思われるからです。
それではデンプン粒表面タンパク質の定量の方はどうするのかを考えねばなりません。
一般に、食品成分表に出ている食品中のタンパク質含量を測定するのに、ケルダール分解法、水蒸気蒸留法が用いられます。あらゆる種類のタンパク質を食品中から取り出してその重量をはかるなどという事は不可能なので、食品をケルダール法で加水分解して、タンパク質からN(窒素)を取り出し、水蒸気蒸留法でこのN含量測定してタンパク質を測定する方法が一般的です。
具体的には、Nはケルダール分解法でアンモニアにして、水蒸気蒸留法で一定量の酸の中に溶かして定量する方法です。この方法は簡単です。タンパク質中にNは一般に16%ですから、N量に6.25(=100/16)をかければ、そのままタンパク質量が計算できるという塩梅です。
この方法でやればデンプン粒のタンパク質も求められるのです。
しかしそれはデンプン粒表面のタンパク質だけではありません。デンプン粒全体(内部も表面も)のタンパク質含量です。多分デンプン粒の内部にはタンパク質はないでしょうが。しかしこの方法ではここで欲しいデンプン粒表面タンパク質だけの含量の定量ではありません。
何かうまいデンプン粒表面タンパク質含量測定方法はないだろうかと考えたわけです。
タンパク質の定量法には昔から色素結合法という方法があります。これはタンパク質にしか結合しない色素(タンパク染料)を結合させてその結合した色素量を測定する方法です。
ジュースなどのタンパク質含量測定法でみたことがありました。
デンプン粒では粒表面にまずこの色素(Amido black 10B)を結合させます。結合しない色素は徹底的に洗浄して除き、デンプン粒に結合したもののみの状態にします。
その後、デンプン粒表面のタンパク質をこの色素が結合した状態で外すのです。いろいろテストした結果、それには薄いアルカリ(NaOH)溶液がよかったのです。薄いアルカリ溶液はデンプン粒自体を糊化したりすることなく、粒表面タンパク質ー色素の状態でタンパク質をデンプン粒から外して、この外れたタンパク質に付着したまま色素量を(OD630nm)で測定するのです。
こうしてデンプン粒表面タンパク質を定量する事が出来ました(Cereal Chem.76: 410-412, 1999、Cereal Chem. 82: 739-742, 2005)。
この方法を用いて小麦以外、米、コーン、大麦、ポテト、ドングリ、タピオカ等のデンプン粒表面タンパク質も測定できました。何れもケルダール分解で用いたデンプン粒タンパク質含量と比較しましたが、ほぼ同一であった事からデンプン粒中のタンパク質は表面に集中している事がわかりました。
しかしそのタンパク質量は僅かで、タンパク質の袋の中にデンプン粒がさらに入っていて、他のものが接触できない、たとえばヨード反応などがおこらぬというものではありません。
カンサス州立大学のSeib先生はこの論文を見て試薬はどこで入手できるのか等、詳しく問い合わせがあり、直ちに試薬を提供しました。
そのころこのSeib教授, Purdue大学のBeMiller 教授ともに炭水化物化学界の巨峰であることを知りました。
デンプン粒表面タンパク質のそのタンパク質については、各種タンパク染料で着色して確認され、さらに蛍光顕微鏡観察によりデンプン粒1個1個にタンパク質の付着を確認しました。これは前のブログで説明しました。
こうしてデンプン粒表面タンパク質の存在を明らかにしたら、更にそのデンプン粒タンパク質表面のタンパク質含量の定量がしたくなりますね。
このデンプン粒表面タンパク質の定量方法が大切な場面がこれから必ず出てくると思われるからです。
それではデンプン粒表面タンパク質の定量の方はどうするのかを考えねばなりません。
一般に、食品成分表に出ている食品中のタンパク質含量を測定するのに、ケルダール分解法、水蒸気蒸留法が用いられます。あらゆる種類のタンパク質を食品中から取り出してその重量をはかるなどという事は不可能なので、食品をケルダール法で加水分解して、タンパク質からN(窒素)を取り出し、水蒸気蒸留法でこのN含量測定してタンパク質を測定する方法が一般的です。
具体的には、Nはケルダール分解法でアンモニアにして、水蒸気蒸留法で一定量の酸の中に溶かして定量する方法です。この方法は簡単です。タンパク質中にNは一般に16%ですから、N量に6.25(=100/16)をかければ、そのままタンパク質量が計算できるという塩梅です。
この方法でやればデンプン粒のタンパク質も求められるのです。
しかしそれはデンプン粒表面のタンパク質だけではありません。デンプン粒全体(内部も表面も)のタンパク質含量です。多分デンプン粒の内部にはタンパク質はないでしょうが。しかしこの方法ではここで欲しいデンプン粒表面タンパク質だけの含量の定量ではありません。
何かうまいデンプン粒表面タンパク質含量測定方法はないだろうかと考えたわけです。
タンパク質の定量法には昔から色素結合法という方法があります。これはタンパク質にしか結合しない色素(タンパク染料)を結合させてその結合した色素量を測定する方法です。
ジュースなどのタンパク質含量測定法でみたことがありました。
デンプン粒では粒表面にまずこの色素(Amido black 10B)を結合させます。結合しない色素は徹底的に洗浄して除き、デンプン粒に結合したもののみの状態にします。
その後、デンプン粒表面のタンパク質をこの色素が結合した状態で外すのです。いろいろテストした結果、それには薄いアルカリ(NaOH)溶液がよかったのです。薄いアルカリ溶液はデンプン粒自体を糊化したりすることなく、粒表面タンパク質ー色素の状態でタンパク質をデンプン粒から外して、この外れたタンパク質に付着したまま色素量を(OD630nm)で測定するのです。
こうしてデンプン粒表面タンパク質を定量する事が出来ました(Cereal Chem.76: 410-412, 1999、Cereal Chem. 82: 739-742, 2005)。
この方法を用いて小麦以外、米、コーン、大麦、ポテト、ドングリ、タピオカ等のデンプン粒表面タンパク質も測定できました。何れもケルダール分解で用いたデンプン粒タンパク質含量と比較しましたが、ほぼ同一であった事からデンプン粒中のタンパク質は表面に集中している事がわかりました。
しかしそのタンパク質量は僅かで、タンパク質の袋の中にデンプン粒がさらに入っていて、他のものが接触できない、たとえばヨード反応などがおこらぬというものではありません。
カンサス州立大学のSeib先生はこの論文を見て試薬はどこで入手できるのか等、詳しく問い合わせがあり、直ちに試薬を提供しました。
そのころこのSeib教授, Purdue大学のBeMiller 教授ともに炭水化物化学界の巨峰であることを知りました。