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2011年3月アーカイブ

2011年3月30日 17:56 (瀬口 正晴)

カステラの話−2

1556年(安土桃山時代)にポルトガル人宣教師ルイ・アルメイダが日本にカステラ製法を伝えたと言われている。ポルトガルからの南蛮菓子の一つである。ポルトガルにはカステラという菓子はなく、パンデローという菓子がそれに近いものと言われている。カステラが日本に定着するまで長い時間がかかった。その間、かすていら鍋、銅の鍋,銅の平鍋、銅の焼鍋、大和鍋、江戸鍋等の道具類と製造方法の記録を料理塩梅集(1668-1683)、合類日用料理指南抄 (1689)、和漢三才図絵 (1712)、西洋紀聞 (1715),古今名物御前菓子秘伝抄 (1718)、古今名物御前菓子図式 (1761)、四季料理献立(1750-1790)、譚海(1780)、万宝料理秘密箱 (1785),紅毛雑話 (1787)、蘭説辨惑 (1788)、餅菓子即席手製集(1813)、料理早指南 (1822)、菓子話船橋 (1841)、菓子製造法(1905)から読みとることが出来る。カステラの歴史をたどると、日本人の好みにあった工夫をそこから理解することが出来る。

カステラは卵白アルブミンの起泡力を利用した菓子である。卵白を撹拌して十分に起泡させ、そこに小麦粉を放り込んでよく馴染ませてからオーブンで焼いたものである。卵白だけではオーブンの熱により簡単に泡は壊れてしまうが、そこに小麦粉を入れることで泡表面の疎水性が、小麦粉の疎水性で強化され、泡は安定化してオーブンの中でも消えにくくなる。オーブン中では小麦粉中のデンプンの糊化、タンパク質の変性で、カステラのふわふわの組織が出来る。その際各泡(気質)には何れも割れ目が生じ、内部の空気はその割れ目を伝わり外部へ放出されるためにカステラ組織はつぶれずスポンジ状になる。


全卵、卵黄、砂糖をはじめに混合し、そこに水飴、はちみつ、水を湯煎にかけてよく混ぜ合わせ全て加えた時の温度を35℃にし、キッチンエードーミキサーで混合する。混合して11分後に種比重0.52を確認した後、小麦粉(全体の約18%)を入れて5分間混合し、生地比重が0.58〜0.60であることを確認する。次に出来上がった生地を縦22.3cm、横18.8cm、高さ7cmのカステラ枠に入れ、上:230℃、下:200℃のオーブンで90秒間ベーキングする。その後取り出し、ゴムべラで生地のまん中と外側の温度を均一にするようにまぜる。これをアワ切りという。この90秒間オーブンに入れ出してアワ切りをする操作を3回くり返した後、8分間ベーキングする。そしてカステラ枠をさらに2段重ねその上に鉄の蓋をし、25分間ベーキングしてカステラを調製する。カステラの容積は菜種置換法で測定した。

本来小麦粉を入れずにバッターのみをオーブンでベーキングすると、丁度ゴム状の板ができてしまい、食べられない。ここに小麦粉を入れてやるとオーブン中でも気泡は全て消えることはなく、ベーキングすると組織はでき、カステラの本体は出来る。

本研究はここで用いる小麦粉の加工研究である。

2011年3月22日 10:06 (瀬口 正晴)

カステラの話(1)

これまでのホットケーキの話を続けてきました。その結果ホットケーキのおいしさを示す弾力性(ホットケーキの)や膨らみ等の改良について考えてきました。特にその弾力性、口腔内での咀嚼時のスポンジ性が何と言ってもケーキの命であります。

小麦デンプン大粒表面の疎水化とクロリネーション、乾熱処理、エージング、そしてホットケーキの弾力性との関連について長々とお話ししてきました。

その中でいろいろな新しい知見もえられ、逐次国際誌(Cereal Chem., J.Food Sci., Starke, FSTR等)に発表してきたが、国内ではこれらの論文に付いては殆ど評価されなかったことが印象的でした。


丁度そのころ、本学からそう離れてはいない製菓用小麦粉を作っておられる製粉会社から小生の方に関心が向けられました。「昔から製粉したての小麦粉をカステラ製造メーカーに持っていっても、すぐに返品されてしまう。理屈は分からないがこれまでの経験から、引き立ての小麦粉を袋に入れて暗所で1年間ほど寝かせると、彼らに満足を与える小麦粉が得られるのだ」と言われる。

しかしながら長時間小麦粉をエージングしておくことは商品の回転効率がよくないかもしれない。

なぜこうして寝かせておくことが必要なのか、もっと短時間で同一効果のものは得られないだろうかとのお問い合わせでした。

当方丁度そのごろホットケーキのエージング、乾熱処理の実験を進めていたころでした。これは良く似た話で、ホットケーキがカステラに置き換わっただけではないかということです。

共通の問題解決ができよう、ということで直ちにカステラ用小麦粉を数種類いただき、研究に入りました。


神戸女子短期大学の中村 智英子助手がこの問題に着手しました。彼女は小麦粉を約2年間、室温でエージングしてサンプル調製しました。

彼女はそれらの小麦粉を用いて、片っ端からカステラベーキングを進めました。カステラの焼き方はデリケートなところがありましたが、精密な中村氏の集中的な実験で、再現性良くデーターを得てゆきました。小麦粉はこれまで通りエージングで疎水性を示すようになり、彼女はこれをミキソグラフ装置を用いてデーター化してゆきました。更にこの小麦粉を次々に酢酸分画し、得られたPS, WS, G, T区分の各比率の違いとエージング時間の関係を検討してゆきました(Food Science and Technology Research 13, 351-355, 2007) 。



カステラという菓子は、卵が勝負であり、小麦粉はある程度その副成分ぐらいのものと影の薄いきらいありましたが、しかしその小麦粉のカステラにおける役割り、重要性も確認できました。これもホットケーキの時と同様でした。

続く

2011年3月15日 19:12 (瀬口 正晴)

ホットケーキの話−18

さらに乾熱処理小麦粉PS(小麦デンプン大粒)区分のバッター中の気泡安定性を検討しました。これはクロリネーションの時に行った時と同様の実験です。その方法はホットケーキの話、第5回に書いた通リです。

乾燥熱処理小麦デンプン粒(120℃, 1, 2, 5 時間)500mgを水に懸濁し、ここに起泡剤として2%イソアミルアルコールを入れ、縦型の震盪機で激しく30分間震盪後、数秒置きに、泡の消えてゆく状況を写真にとりました。全く乾熱処理しないコントロールに比べ、120℃乾熱処理デンプンによる泡安定性を比較する研究でした (Cereal Chem. 65: 375-376, 1988)。

乾熱処理時間が伸びるに伴って、デンプン粒表面の疎水性は大きくなりますが、やはりイソアミルアルコールで生じた気泡は、このデンプン粒で次第に安定化しました。最終的に全ての泡は消えてしまいますが、その間の気泡の安定性に差が認められました。現像写真から各試験管中の泡の高さを測定することからデーターを得ることが出来ました。これはクロリネーションの時と同じことでした。

ホットケーキ組織中にあっても、バッター中の二酸化炭素による泡は、乾熱処理小麦粉のPS区分の疎水化により安定化し、ホットケーキの組織安定化にも関与するものと思われました。

乾熱処理小麦粉を酢酸分画した後、PS, T区分間の相互作用が確認できましたが、ホットケーキベーキング中でもこれが食感改良に結びついていると思われました。何と言ってもPS とT区分とで小麦粉のほぼ80%を占めていますから。

T区分にも親油性のあることが証明されました(Starke 61, 389-406, 2009)。





さらに共同研究者の小澤氏は、乾熱処理によるPS, T区分間の相互作用を次のように証明しました。PS区分のみをヨード染色してほぼ黒くし、T区分はそのままのほぼ白色にして、乾熱処理によるPS, T区分間の相互作用を巧みに色の混合で証明しました。

即ち、未乾熱処理小麦粉からのPS, T区分は、きれいに白(T区分)、黒(PS区分)が遠心分離で分かれますが、PS, T区分を乾燥熱処理すると,PS, T区分間は相互作用により分離しなくなり、色も分離しなくなるという訳です。

更に、彼女と一緒に仕事をやっていた大学院(マスターコース)の加藤 幸恵さんは、小麦粉の乾熱処理により生じるアミログラフ最高粘度の上昇と、糊化開始温度の低下の原因を調べました。彼女は、アミログラフ実験中のデンプン粒をアミログラフカップから各温度でサンプリングし、その顕微鏡観察を行いました。

そして乾熱処理、未処理小麦粉の同一実験の、同一温度でのデンプン大粒の形状変化とその膨潤を比較しました。

しかし、未処理小麦粉中のに比べ、乾熱処理小麦粉中のデンプン粒の糊化膨潤の増加は認められなかったのです。

彼女はその原因を調べる為に、さらに小麦粉からまず水溶性区分を除去して、それを乾燥後、半分は乾熱処理して、半分は未処理のままで、同様のアミログラフプロフィールをそれぞれ求めました。アミログラフの最高粘度、糊化開始温度の乾熱処理による変化はそのまま保持されたのです。

さらに小麦粉から水溶性区分とグルテン区分を酢酸分画法で除去して、pHを調整後、乾燥し、半分は未処理、半分は乾熱処理を行ってアミログラフを求めると、今度は乾熱処理、未処理小麦粉からの両プロフィールが一致したのです。

即ち、乾熱処理小麦粉と未処理小麦粉を比べ、乾熱処理による最高粘度増加、糊化開始温度低下の原因は、小麦粉中のグルテン区分への乾熱処理の効果の大きいことが推察されました(Starke 61, 389-406, 2009)。

この辺は、これからの大きな研究テーマだと思ってます。

東北関東大震災に合われた皆様、衷心からお悔やみ申し上げます。
管理栄養士、栄養士の皆さん、困窮の方々をお助けください。頑張りましょう。

つづく

2011年3月 7日 16:58 (瀬口 正晴)

ホットケーキの話−17

乾熱処理小麦粉によりクロリネーション同様の疎水化がPS区分に生じたこと、それがホットケーキ弾力性に大きく貢献したことをこれまで述べてきました。


乾熱処理(120℃,2時間)の熱処理で小麦デンプン粒表面のタンパク質が疎水化したことがその原因であることを述べました。

乾熱処理デンプン粒の疎水化(親油化)はデンプン粒表面のタンパク質の疎水化の原因と推察されましたが、このモデルとしてガラス粒、ガラス粉表面に牛血清アルブミン(BSA)を付着させ、乾燥後、120℃、2時間乾熱処理を行い、親油性のあることを確認しました。

そうならば、乾熱処理すればタンパク質はいずれも親水的だったものが疎水的に変化する傾向を示すのかどうが興味深いところです。

現在、乳化剤が、パン、ケーキ類加工食品類で多用され、それらが果たして体の中で安全なのかどうかという議論も米国などでは多いようです。

天然物のタンパク質ならばそれらは極めて安全でしょう。このタンパク質を乾熱処理して
その構造を一部疎水化して乳化性を与えることは食品工業的にも意義があろうと思われたからです。

ここでは何れも粉体のタンパク質(BSA (牛血清アルブミン)、卵アルブミン、カゼイン、大豆タンパク質、グルテン等)を乾熱処理(120℃、2時間)して、その後の親油性を調べました(Cereal Chem 63: 311-315, 1986)。やはり水との関係は低下し、オイルを吸収して親油性を示すことが認められました。


つづく

2011年3月 1日 09:34 (瀬口 正晴)

ホットケーキの話−16

小麦粉に乾熱処理を施して疎水性を与え、ホットケーキに弾力性を与えることは可能でした。そしてその原因についてもクロリネーションに類似の効果であることが判明しました。高い温度で短時間処理して、小麦粉にクロリネーション同様の効果を与えることは証明されました。

しかしこの高温処理によるグルテンタンパク質変性の膨化食品への影響は問題です。即ち膨化食品の膨らみはやはりグルテン等のタンパク質に頼らざるを得ないからです。

特に本研究では、なるべく小麦粉の性質がホットケーキに直接でてくるように、副原料をカットし、卵、牛乳など入れない実験です。

それはそれで、副原料を入れてみればよいわけですが、なるべく小麦粉の性質を調べるためには小麦粉、砂糖、膨剤だけのシステムで実験を進めてきました。


ならば小麦粉の乾熱処理をなくした場合、同様の効果は得られないだろうかと次に考えました。室温でのエージングの効果です。

昔から、製粉したての小麦粉では焼いても良いものが出来ないが、これら少々放置するとなぜか良好な効果に出ることが経験的に知られています。

それならばどの様に小麦粉を処理すれば良いのかということとなります。

今ではもうある企業に勤めていますが、長男がまだ小学生のころ、中学受験のための模擬試験に、会場までつれてまいりました。

1日がかりの模擬試験で、その間、近くの喫茶店で子供を待っていましたが、このことを考えたことがありました。

物が化学反応する時、温度10℃下がると、反応速度は2−3倍に下がるでしょう。逆に10℃あがると反応速度は2−3倍あがります。そのように考えると120℃2時間で小麦粉に疎水化が生じてホットケーキの弾力性が生じるならば110℃ではどうでしょうか。100℃ではと、どんどん室温まで下げてゆきました。

室温では何と数ヶ月です。

これを行ってサンプルを作りました。

得られた小麦粉でホットケーキベーキングを行うと、120℃から温度が下がるほど時間かかりますが、同一の効果(ホットケーキの弾力性、小麦粉PS区分の疎水性、それによるPS, T区分間の相互作用)が得られました。

さらに、室温(15−25℃)条件下では、神戸女子短期大学の中村智英子助手が徹底的にこの研究をやり(FSTR 2007, 13(3), 221-226)、満足のゆく結果をえました。

この方法でやれば高温の場合、感じられていた臭気の問題も生じませんでした。

つづく。

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