キノア ユニークな栄養と健康促進効果−1
1. 紹介
キノア (Chenopodium
quinoa Willd.) の起源は南アメリカのアンデス地域と考えられている。数品種は約7000年間プレヒスパニック人によって育てられた。アンデス地域で最も古い作物の1つと考えられる。植物学的にはキノアは双子葉植物類に入る。いくつかの植物遺伝子分類によるとChenopoduim
遺伝子はCaryophyllalesに入る。甘い、苦いの両方がキノア品種に存在する。分類はサポニン含量の違いによる。もしサポニン含量が0.11%以下ならばその品種は甘い品種と考えられる。C.
quinoaは、1年生のイネ科の植物であり、典型的には0.5-1.5 m高に達し、しかしアンデス間渓谷では2.5m高までになる。種子はシリンダー状--レンズ状の形状で約1.5-2.5mmであり、約1.9-4.3 gの千粒重の値である。内胚乳は2つの子葉からなり、基礎組織で囲まれている。デンプン貯蔵は主に胚乳中に蓄えられ、一方、脂質とタンパク質は内胚乳と胚組織中の細胞中に貯まっているが、そこにはフィチン、リン酸、K, Mgのほぼ球状の結晶とフィトフェリチンを含む前色素体(prosplastids)をも含む。胚乳は4層を持ち、外側層はサポニン(にが味のある化学成分;ステロイドのグルコサイド、ステロイドアルカロイド、 あるいはトリテルペン)に富む。キノアは非常に多様であり、多くの異なった種類があり、白から黄色、赤、黒の遺伝子タイプがある。異なった農業生態学的条件下にも十分対応し、他の植物タンパク質源が利用しない地域ですら生産することが出来る。
キノアはKaniwa
(Chenopodium pallidicaule,
Aellen)や他の可食性植物、例えばアマランス(kiwicha-Amaranthus
caudatus, Linn)同様大きくアンデスの住民により消費され、当時、他の唯一利用出来る穀物、トウモロコシの様に主食であった。長い間放置された後、それらはあるアンデスの谷間でのみ育ってきたが、これらの植物は20世紀半ばから後半に西欧諸国によって"再発見"され、そして2000年来、キノアを利用したもの、そしてそれを含むモノがかなり食品製品としてマーケット上に増加して来た。
この新規興味に対する主な理由は次の二つが重要な要因として関係している;(1)キノアには上等な栄養成分があり、タンパク質と脂質の高品質、高含量と高含量のミネラル、更にいくらかのビタミン類がある。
デンプン粒は知られたもののうち最も小さいものであり、アミロース含量は非常に低いのでキノアはユニークな物理化学的性質をもつ;(2)キノアはグルテンーフリーであり、グルテン不耐性で苦しむ人々により消費することが出来る。一般にグルテンフリー食品の要望への増加は、特により栄養価の高いグルテンフリー製品への要望増加は、これまでずっと(今でも)西欧諸国でキノアの利用の増加に対する最も重要な原動力になっている。グルテンフリー食品を必要とするヒトの数を考慮すると、マーケットは全人口の8-10%にまで達すると計算される。
キノアへの世界の要望の増加は、その生産の非常に大きな増加と成る。2014年192,506トンのキノアは平均収穫0.8t/haが世界規模の生産である。これは過去10年ほぼ4倍の生産増加である。主生産国はペルー、ボリビアで両方で世界生産の90%以上であり、そしてエクアドル、今日は、アンデス全域に生育しコロンビアから北アルゼンチン、チリと、もっと多くの国々と地域でも、例えばUSA、カナダ、イタリア、フランス、英国、スエーデン、デンマーク、オランダ、インド、さらにアフリカ諸国のいくつかの国々である。ペルー、ボリビアで生産された殆どのキノアは輸出され、特にヨーロッパ、アメリカがメインの輸入者で有る。2011年以来、ボリヴィアは全キノア生産のほぼ半分を輸出している。ペルーはキノア生産域だが、生産/ヘクタール(今日1.6t/haまで)が非常に大きく増加すると同様、その輸出は2007年より少しずつ増加し、2012年には生産の23.2%にまで達した。
この章ではキノアの化学栄養成分(タンパク質、アミノ酸、脂質成分、炭水化物、食物繊維、微量栄養素も含め)、加えて抗栄養素、と生理活性物質の詳しい情報を示す。またまとめとして、加工と応用食品の現在の知見、特にグルテンフリー食品の関係あるものを含めた。最終的セクションで栄養的健康増進のキノア食品製品の性質を述べる。
2. 化学成分と栄養関連
述べたように、近年キノアがこのように大きく興味を引かれる主な理由の1つは、グルテンーフリーであることと上等な栄養的性質であることだ。キノアの成分は明確の様であり、しかしもっと重要なことはその大部分の成分は時に上等な品質を持っていることだ。
2.1 タンパク質とアミノ酸
キノアのタンパク質含量は穀物に類似しているが、穀物と比べてキノアのタンパク質は非常に高品質で、豆タンパク質によく比較される。平均タンパク質含量は13-15%(で、異なる新種の中では8-22%までの変化がある。キノアは非常に高含量の(不可欠)必須アミノ酸、例えばリジン、アルギニン、トリプトファン、SH含有アミノ酸を含む。キノアにおける制限不可欠アミノ酸に関する結果には矛盾があり、それはひょっとしたら研究した品種、あるには分析法の違いによるためであろう。
WHO (2002)によると、キノアのバランスのとれたアミノ酸組成は、ヒト食事のFAO/WHO要求の最適タンパク質参考パターンに近いものであり、わずかイソロイシンとバリンのみ多少制限があるが、一方Ruales et
al., (2002)による研究では1次制限アミノ酸はチロシン、フェニルアラニン続いてリジン、スレオニンであるとわかっている。キノアで利用される全タンパク質は67.7-75.7とわかり、生化学的値は71.1-82.6であり、両方とも穀物に比べ明らかに良好で有る。
また穀物との違いは、キノアの主貯蔵タンパク質はグロブリンとアルブミンであり、ともにそれらは全タンパク質の80%までと測定される。他のユニークなキノア種子の属性は(またアマランス種子も)、第2アルブミン区分であり、それは大きくグロブリン、アルブミンを抽出後に水で分離されるものである。プロラミンは非常にわずかに存在する。更に穀物との対照としてキノアプロラミンは低含量のプロリンで特徴づけられる。
免疫学的にWestern blotあるいはELISAテストから、キノアタンパク質はセリアック病に苦しむヒトには毒性はない。臨床試験研究から、19セリアック病患者は6週間キノア50gを毎日食べ、キノアには十分耐えられたとはっきり断言した。
2.2 油脂成分
キノア中の脂質量は小麦の約4倍ほど高く, その範囲は4.0%から9.7%である。脂質の品質は非常に高く、ポリ不飽和インデックス(Pufa/SFA, 総多価不飽和脂肪酸/総飽和脂肪酸)は3.7-4.9である。不飽和脂肪酸の含量は全脂肪酸量中約82.7%-85.0%であった。キノア中、主脂肪酸はリノール酸(50%以上)、オレイン酸(20%以上)、パルミチン酸(8%)である。更にオレイン酸、α-リノレイン酸を含む。
極性脂質は全脂肪酸含量のうち約25.2%で、リゾフォスファチジルエタノールアミン(LPE)が43.2%で大部分であった。
2.3 炭水化物(デンプンと糖)
デンプンはキノア中の大部分のグリセミック炭水化物で穀物と同じである。これはキノアをデンプンベース製品として用いて有効である。穀類に比較して見ると、デンプンは内胚乳に貯蔵されるが、キノアではデンプンは外胚乳に貯蔵される。デンプン粒はキノアでは多形で、非常に小さく直径は約1.0-2.5μmであり、アマランスのデンプン粒よりわずかに大きい唯一のものである(平均1μm)。それらは各粒として、あるいは多数の粒の集まりとして認められ、数百の各粒による大きな集団粒である。更にキノアデンプンは、アミロースの低含量で特徴づけられ(普通10%以下)、しかし4%と20%の間の変化がある)。この異なった成分のためキノアデンプンは比較的低いが広い糊化温度域(57-71 ℃)を示すが、それはアミロース含量による(アミロース含量がより高いほど、糊化温度は低くなる)、そして高い糊化粘度になる。また低アミロース含量に関係して、強い冷凍--解凍の安定性がキノアデンプンにはあり、老化に対する抵抗性もある。
単純糖含量は普通の穀物よりキノア中には高く、種類によっては明らかにばらつきが大きい。Jacobsen et al.,(2003)によるとこれは凍結耐性と関係あるという。Altiplanoからの品種は谷からのものよりキノアの糖含量が高い。Repo-Carrasco(1992)は、キノアの遊離糖含量は6.20%と報告した。次の糖とオリゴ糖はGross et
al., (1989)により見出された;フラクトース、グルコース、シュクロース、ラフィノース、スタキオース、ベルバスコースとα-ガラクトシドである。ショ糖が主な糖で2.79g/100g乾物の含量である。Ogungbenle
(2003)によると、キノア粉はD-キシロース(120.0mg/100gサンプル)とマルトース(101.0mg/100gサンプル)の高含量、グルコース(19.0mg/100gサンプル)とフラクトース(19.6mg/100gサンプル)の低含量を含む。
2.4 食物繊維
キノア中の食物繊維含量は穀物類のそれと似ているが、種と品種の間に大きな違いがあり、それはまた真の穀物では一般的である。これは環境条件、例えば土壌の栄養状態、水利、あるいは遺伝的タイプと環境の様なものによるだろう。他の理由は種子のハンドリングや加工によって異なる。サポニンの除去は繊維含量を低下することが知られる。ここである著者らはキノアで比較的食物繊維含量が低いことを報告し、一方他のものは高い含量を見出している。7.8%-14%のレベル。La Mothe et al., (2015)は、全食物繊維含量がキノア中10%と求め、そのうち78%は不溶性であるとした。不溶性繊維(IDF)は主にガラクチュロン酸、アラビノース、ガラクトース、キシロース、グルコースが成分である。キノア中の溶性繊維の比率(ほぼ22%)は殆どの一般的穀物より高く、主にグルコース、ガラクチュロン酸、アラビノースからなる。
キノア中の食物繊維の成分は、穀物より果物、野菜、豆類種子に似ていて、それは有益な結腸機能のよい可能性を秘めているかもしれない。しかしこの点に関してはより研究が必要である。
2.5 微量栄養素--ミネラルとビタミン
キノアの微量栄養素、ビタミン、ミネラルの高含量は、キノアを上等な栄養源にする様相の1つである。キノア中の全ミネラル含量(灰分)は穀物中の約2倍で、特にカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛が多い。ミネラル、例えばカリ、マグネシウムのようなものは内胚乳中にあり、一方カルシウム、リン酸は果皮の細胞壁ペクチン成分と結びついている。
ビタミン、カロチン、リボフラビン(ビタミンB2)、トコフェロール(ビタミンE)、葉酸に関しては豊富である。トコフェロール、アルファートコフェロール、ガンマートコフェロール、べータートコフェロールに関してはキノア中の大部分のものである。大きく印象的なのはキノア中の葉酸含量であり、世界の人々の大部分に欠けているビタミンである(全ての国々、地球の南側同様、地球の北側も)。Schoenlechner et al., (2010b) は、これらの擬似穀物、アマランス、キノア、ソバ中の全葉酸含量を4穀物類と比較すると、アマランス中の葉酸含量は穀物中のモノは約4倍高く、キノアでは10倍まで高いことが判った。あるキノア種は約265μg/100gほどの含量である。ソバ中のみ葉酸は真の穀物の範囲である。毎日の摂取推薦量は葉酸で300μgで、キノアははっきりした葉酸の高い供給源と考えられる。
2.6 生理活性物質
フェノール化合物、それは植物中に存在する植物化学物質であり、抗酸化能に関係し健康価値を与えるが、キノアに存在するがしかしその量は穀物中でもより低い値である。再び、種間のレベルには大きなばらつきがあり、そのレベルはまた成長条件にもよっている。Miranda et
al., (2010)、 Pasko et
al., (2009)、Repo-Carrasco and Astuahuaman (2011)によると、全フェノール化合物は各キノア品種で1.59から3.74 mg gallic acid等量(GAE)/100gである。キノア中全ポリフェノールに対するデーターの比較は、用いる分析法の違いのよって異なり、特にポリフェノール抽出法によって異なる。Pasko et
al., (2009)は2段階抽出法を用い、初めはメタノールで続いてアセトンで抽出し、全ポリフェノール(3.75mg GAE/g)のより高い量を見出し、それはRepo-Carrasco
and Astuahuaman (2011)のメタノールだけの方法(1.59mg GAE/100g)よりも高かった。ここで幾つかのポリフェノールは後者の著者らによる抽出方法には含まれない。Yawadio Nshimba et al., (2008) はキノアとアマランス(Amaranthus
hypochondriacus and Amaranthus cruentus)中の全フェノール化合物を分析し、94.3と14.8 mg tannin acid equv./g.のレベルの間を見出した。著者の仕事(2016データーは未出版)では全フェノール(TP)はmgフェルラ酸(FA)等量/100g demで決められた。白,赤,黒の6キノア品種のTP含量は、93~279 mg FA等量/100 g dmが求められた。白品種は黒品種より顕著に低いTP含量であった。白品種中、結合フェノールの比率は明らかに遊離フェノールよりも低く、黒品種ではその比率は反対である。キノア種子の発芽の間、全フェノール含量は増加する。
キノア中のフェノール化合物の組成はRepo-Carrasco et al., (2010)により研究された。彼らはcaffeic acis (カフェイン酸)、フェルラ酸、p-coumaric acid, p-hydroxy-benzoic
acidとvanillic acidを調べた。しかしながら普通穀物に比べて、キノアは一般にフェノール酸が低かった。フェノール酸組成は前述の6種のキノアタイプ(白、赤、黒)では大きな違いがあった。フェルラ酸は全ての品種で決められた唯一のものであり、それらのどれもにgallic acid あるいはsalicylic acidは含まれてない。
フラボノイドはキノア中に多くあり、主にはflavonols kaempferol とquerrcetinのグルコシドからなる。Repo-Carrasco et
al., (2010)は、あるキノア種中にmyricetin とisorhamnetinを見出し、Vega-Galvez et al., (2010) はイソフラボン特にdeidzeinとgenisteinを見出した。
2.7 サポニンとフィチン酸塩
これらの生理活性物質とは別に、キノアはかなりの量の苦みのサポニンを含み、それは一般には抗栄養物質と考えられる。しかしながら低濃度ではそれらは健康促進作用を示すが、コレステロール低下作用、 抗炎症作用、 抗がん性あるいは免疫刺激、及び抗酸化効果である。キノア(全種子)は、0.03--2.05%の苦みサポニンを含む、しかしこれらの値は未だ大豆中の値より低い。キノアでは、サポニンはoleanic acid と他3種のsaponenolsからなり、それらはhederagenin、phytolaccagenic acid、deoxyphytolaccagenic
acidである。光学および電子顕微鏡を化学法と結びつけて、サポニン体をキノア果皮細胞中に同定した。グロボイド型のサポニンボデーは約6.5μm直径あり、4-5個の小粒の会合体である(2.2μm直径)。
約34%のサポニンは外皮中に存在する。
脱皮、洗浄で72%まで含量は低下する。加工はまたサポニンを破壊するが、含量の低下は洗浄や脱皮後ほどは大きくない。別の方法でキノア種子中のサポニン含量の低下は、所謂甘いキノア品種(低サポニン含量)の生育による。Mastebroek et al., (2000)はいろいろな品種のサポニン含量を調べ、苦い品種中では0.47-1.13%に比べて、甘い品種ではわずか0.02-0.04%サポニンが見出された。Koziol(1991)によると、サポニン含量が0.11%以下だとその品種は甘い品種だと考えられる。
フィチン酸は全ての品種の全粒中に一般に存在する。フィチン酸塩は、抗酸化性、心臓病阻止、抗ガン作用等に好ましい効果が報告されているが、またタンパク質、ミネラル、微量要素、例えばCa, Mg, Zn, Cu、Feの生理的利用性を低下する事もよく知られる。キノア種子の発芽と幾つかの加工方法は、フィチン酸塩含量の低下することが出来る。キノア種子で報告されているフィチン酸塩含量は9.3-20.3μmolesフィチン酸/gの広いバリエーションであり、主には粒の内胚乳細胞のタンパク体中に存在し、それは全フィチン酸塩の約60%である。
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