ソバ:そのユニークな栄養成分と健康促進効果−1
1、 紹介
ソバは古代の双子葉植物でその種子のため世界中の多くの場所で栽培され,今日は緑の植物(葉)としても栽培される。ソバはPolygonaceae科のFagopyrum属に属する(Biacs et
al., 2002)。こうして穀物には関係はないが,しかし化学成分の類似と利用からアマランス,キノアとともに疑似穀物と呼ばれている(Krkoskova and Mrazova, 2005)。
Fagopyrum属は非常に多くの野生種を加えて約19種ある(Zhang et
al., 2012)。2種のソバが数世紀に渡り世界中で一般に栽培された;普通ソバ(Fagopyrum
esculentum Moench)とダッタンソバ[Fagopyrum tataricum (L.) Gaertn.]である(Alvarez-Jubete et al., 2010; Cai
et al., 2016)。普通ソバは初めアジアで栽培され、多分今から6000年前ごろ(Ohnishi,1998)。栽培は中国のYunnan地域、チベット高原の端、ヒマラヤの丘で始まった。そこから広く中央アジア、チベットへと広がって,次に中東とヨーロッパへと広がった (Bonafaccia et al., 2003; Eggum et al.,
1980)。
ソバは短期間、条件の少ない作物で、いろいろな農業条件下で広い生態学的適応性があり、例えば低地力あるいは酸性土壌、低降水量、過酷な環境の辺境地のような所でも適応性がある。植物は耐霜性あり、そのため2000mの高緯度地域が一般的で、チベットの標高4500mまでの地域で見出された。環境的には肥料と農薬の利用なしの持続可能な栽培地が適している(Zhang et
al., 2012)。ソバは毎年生育する作物で、その花の蜜はダークカラーハネー製造に用いられる。風で受精した小さなソバは榮房または頭で生まれる(図7.1A)。
一般に花は雌雄同体でいろいろの数のパートからなる。時にはその植物は緑肥として、飼料として、野生生物の避難所として使われ,さらに土壌浸食をコントロールしている(Aubrecht and Biacs 2001)。
過去数十年でソバの栽培は低下した。しかしながら最近増加が見られ、世界の種子生産は栽培面積は2.5百万haで年間2百万トンを超えている。最大の生産者と消費者はヨーロッパ(52.1%)で、続いてアジア(38.6%)が2番目である。アメリカ、アフリカのシェアは大きくなく、それぞれ7.1%、1.1%である。最近トップのソバ生産は、ロシア、中国、ウクライナ、フランス、ポーランドである(FAOSTAT, 2014).
この章では我々はソバの品種、成分、利用について広範囲の概要をしたい。より良く理解するためデーターを平均的な小麦パラメーターと比較した。
2. ソバ種子の組織学
ソバ植物はほぼ三角形の果実を作り、それは痩果と呼ばれる(図7.1)。
痩果は4-9mm長、千粒重は15-35gである。一般にダッタンそば種子は普通そば種子より小さい(Cai et
al., 2016)。痩果は2パートからなり;穀とひき割り穀物である。殻(外皮,果皮)は痩果の外側の層であり;一般にその色はいろいろで、光沢あるいはくすんだダークグレイから茶色あるいは黒色である。痩果の内部部分はひき割り穀物である(図7.1B)。ひき割り穀物(皮をむいた痩果は3つの部分から成る;種子膜(子乳)、内胚乳、胚である。種子膜は1−3細胞厚である。内胚乳細胞はデンプン粒で満たされている。内胚乳は痩果の頭に位置していて2 個のコチレドンは内胚乳を通して伸びている(Steadman et al., 2000; Stevens,1912)。
3ソバ種子の化学成分
ソバ種子は栄養源である(表7.1)。多くの価値ある成分、例えばデンプン、タンパク質、食物繊維、抗酸化物質、微量エレメントを含む(Krkoskova and Mrazova, 2005)。しかしながら遺伝子型と成長条件(例えば土壌、環境と受粉)は多分その栄養成分に影響する(Wang et
al., 2012)。
3.1 炭水化物
消化できる炭水化物は真の穀物粒同様、ソバ種子の大部分の成分(58-73%)で,それは主にはデンプンの形で存在する。ソバの全ひき割り穀物中、デンプンは含量の変化が59%から70%(乾物ベース)で、いろいろな天候、栽培条件下で変動を示す。他の殆どの疑似穀物、アマランス、キノアはより低いデンプン含量である(Steadman et al., 2000)。Qian and Kuhn (1999)は、酵素分析から異なった国々のデンプンのアミロース含量が21.3% から 26.4%の範囲であるとソバデンプンを分析した。しかしながら、ある研究はもっと高い(〜50%)アミロース含量を報告している(Berghofer and Schoenlechner, 2007; Christa
and Soral-Smietana, 2008)。ソバデンプンの重合化の程度は12-45グルコースユニットといろいろである。(Christa and Soral-Smietana, 2008)。一般に、ソバデンプン粒の形は丸く、卵型、あるいは多角形である。ソバデンプン粒サイズは2-15μmといろいろで,真の穀物種の殆どのサイズよりそれ以下である(Berghofer and Schoenlechner , 2007)。約35%のソバデンプンは消化に対して抵抗性である(Cai et
al., 2016)。
ソバひき割り穀物は又1%--6%の可溶性炭水化物を含み,それは殆ど内胚乳とアリューロン層にある。これらのレベルは穀物粒や他の疑似穀物に比べても高い。ソバ可溶性炭水化物は殆ど還元糖,ファゴピリトールとして存在する。
FagopyritolA1(O-alpha-D-galactopyranosyl-(1è3)D-chiro-inositol)fagopyritolB1(O-alpha-D-galactopyranosyl-(1è2)-D-chiro-inositol)が殆ど全てのソバ種子中の顕著なfagopyritolsである(図7.2,Christa and Soral-Smietana, 2008)。
ソバ種子は7.0%-10.9%の食物繊維を含むが、それは全小麦粒に比べて低く、しかし他の穀物粒に似ていてがアマランス、キノアに比べて高い(Christa and Soral-Smietana , 2008)。普通ソバは食物繊維レベルがダッタンソバに比べ高い(Steadman et al., 2000)。一般にはソバ繊維に抗栄養素フィチン酸はない。約20-30%のソバ繊維は可溶性で、それは真の穀物より高い (Wang et al., 2012)。
3.2 タンパク質
ソバひき割り穀物のタンパク質含量は約12%で小麦に似るが,他の疑似穀物より低い(Steadman et al., 2000)。表7.2はソバ全ひき割り穀物のアミノ酸組成である。小麦に比べると、ソバタンパク質は類似かあるいはほぼ全てのアミノ酸でより高い含量である;リジン,スレオニン,バリンは最も重要なもので、人体に不可欠なものである(Pomeranz and Robbins,1972)。グルタミン,プロリンアミノ酸含量は、ソバではかなり真の穀物より低い(Aubrecht and Biacs, 2001)。
ソバ種子タンパク質の特徴は、その可溶性をベースに幾つかの研究がある。オズボーン可溶性区分は次の比率で見つかった;アルブミンが主なタンパク質区分(30-40%)で、続いてグルテリン(11-29%)、マイナー区分はプロラミン(2%-10%)、グロブリン(3.0%-7.82%)である(Pomeranz,1983; Wei
et al., 2003)。異なった抽出法といろいろな品質では極端に違った結果となる。4区分は十分量の必須アミノ酸(不可欠)、ヒスチジン、バリン,イソロイシン、ロイシンを含む(Guo and Yao, 2006)。非不可欠アミノ酸の中でグルタミン酸とアスパラギン酸のレベルは全ての区分で十分である。
3.3脂質
2%-4%の脂質が全粒子中にあり、それは内胚乳中に集中している。結合脂質量は遊離脂質の2倍高い(Cai et
al., 2016)。ソバ脂質は9個の脂肪酸からなる;大部分はパルミチン(16:0),オレイン(18:1),リノール(18:2)酸である。全脂肪酸の幾つか75%-80%は不飽和であり,そのうち40%以上は多不飽和で、他の粒に比べて高い部分である(Steadmasn et al., 2000)。
3.4 ミネラル
ソバはミネラルの高い含量を含み、キノアより高く,アマランスに似ている。巨大要素K、Mg、Ca、Na、微小要素Cu、Zn、Fe、Mnは特に高レベルで存在する(Krkoskova and Mrazova, 2005)。極小要素、例えばCr、Seは非常に低レベルで僅かに存在する。ミネラルは内胚乳(主にタンパク体にフィチン酸塩として保存される)と、種子と皮の外側層に蓄積される(Christa and Soral-Smietana, 2008)。
3.5 ビタミン
ソバはビタミンBの良好な供給源と知られ、ビタミンBの最も高いレベルは種子のふすま部分に存在している。Kim et
al., (2002) は痩果のビタミンB成分の分析を行い、次のレベルを見出した;ビタミンB1(チアミン3.3mg/kg)、B2(リボフラビン、10.6mg/kg)、 B3(ナイアシン、18.0mg/kg)、 B5(パントテン酸11.0mg/kg)、B6(ピリドキシン、1.5mg/kg)である。全ビタミンB含量は比較的ダッタンソバ中の方が多い(Bonafaccia and Kreft, 1994)。逆に普通ソバはより脂質可溶ビタミンE(トコフェロール)が多く、各々0.05-0.14 mg/kgである(Cai et al., 2016; Kim et al ., 2002)。
3.6 植物化学物質
これらの主要成分に加えてマイナー成分があるが,それは健康増進の性質の点で重要なものである。それらの含量と成分とは、ソバの種,成長条件によって異なる(Christa and Soral-Smietana, 2008)。
3.6.1 フラボノイド
フラボノイドは天然の抗酸化物質の大きなグループである。フラボノイド含量と組成はいろいろなソバ種の間で異なる。わかっている事は,フラボノイド含量は、ダッタンソバで普通ソバの4倍高いことである。ひき割りダッタンソバの苦味はこれらの成分によるものと言われている(Cai et
al., 2016)。Kreft et
al., (2005) は,ソバから6フラボノイドを分離した;ルチン、ケルセチン、オリエンチン、ビテキシン、イソビテキシン、イソオリエンチンである。ルチンが主力のもので、ソバはルチンを含む唯一の疑似穀物であり、そこでこのフラボノイドのはっきりした源である。
ルチン (quercetin-3-rutinosid, 図7.3)
はフラボノールグルコシド植物生理物質である。それは紫外線照射に対する防御の役割がある。ルチンは主にソバ植物の花と緑の部分で発見される。典型的にソバ茶の葉は種子より10倍以上その含量が高い(Christa and Soral-Smietana 2008; Kitabayashi
et al., 1995; Kreft and Cerm, 2008)。種子にはルチンは少なく,一般に精製した粉中より全種子ソバ粉中の方がより多い。Kitabayashi et al.,(1995)は、そば全粒ひき割りソバ粉中の含量は12-36mg/100kgの範囲であると述べた。Kreft et al., (2005)は平均21.8mg/100gが全ひき割りソバ粉中にあると報告し、ソバの重要な食物内容とした。
3.6.2 ステロール
ソバ種子は低レベルの植物ステロールを含む。
ベーターシトステオールは特に重要であり、人の体中で合成できない(Krkoskova and Mrazova, 2005)。脂質抽出後脱皮した痩果中のステロール含量は、約β--シトステロールが700mg/kg、カンペステロールが95mg/kg、低量のシグマステロールが測定された(Horbowiez and Obendorf 1992)。
4. 抗栄養素ファクター
ソバもまた、幾つかの抗栄養的成分を含み,例えばトリプシンインヒビター(I, II, III)でこれはソバの種子から分離された。トリプシン以外これらのインヒビターは又キモトリプシンも阻害した(Krkoskova and Mrazova、2005)。フィチン酸塩も又内胚乳やアリューロン細胞のタンパク体に存在する。Steadman et al., (2001) は35-38g/kgフィチン酸をソバ種子中に見出した。ソバふすまはまたタンニンの豊富な源である。Zhang et al.,
(2012) は高タンニン含量1.6%を測定した。高レベルの繊維がソバ中にあり抗栄養素要因の1つと考えられるが、しかしながら脱皮処理の間、これらの成分は外皮にあるため殆ど除去される(Cai et
al., 2016)。
4.1 アレルギー反応
アレルギー反応はソバか、ソバ製品摂取、あるいはソバほこりに触れると起こる反応である。そば粉はタンパク質を含み、それが過敏反応(アレルギー)を引き起こす。このイミュノグロブリン(IgE)-仲介反応は、重大な症状のアナフィラクテックショックを起こす(Wang et
al., 2004)。
ソバアレルギーは一般的ではない。しかしながら非常に重大なアレルゲンで特に子供にとってである(Park et
al.,2000)。ソバアレルギーは初めて1900年代初期に報告された。それ以来 病気の数は増え、特にヨーロパ、北アメリカ、日本、同様にアジア諸国であり、ソバを含む食品製品をしばしば、しかも多量に消費する人々である(Morita et
al., 2006)。特異的ソバアレルゲンに対する感受性は、特別の症状と関係し,例えば主な胃腸または皮膚症状であり,さらに最悪のアナフィラキシーである(Heffler et
al., 2011)。低分子量タンパク質、特に分子量9、16、19、24kDaタンパク質が殆どのアレルゲンになる強い候補物質である事が示された(Park et
al., 2000)。又ある研究ではIgE-結合効果ある低分子量範囲(<9kDa)のタンパク質が見出された(Christa and Soral-Smietana, 2008)。臨床的に関連ある交叉反応性は、ソバタンパク質と他のアレルゲン、例えば米、ポッピー種子(けしの実)、ヘーゼルナッツとの間が述べられている(Oppel et
al., 2006)。ソバ粒のアレルゲンタンパク質除去のいろいろな試みがなされ、例えば酵素修飾あるいはイーストによる特異発酵で行われた(Christa and Soral-Smietana, 2008)。ソバ粒の製粉や食品加工の間、ある労働者達はアレルギー反応に苦しんだ、たとえば鼻のかゆみ,くしゃみ、さらにもっと重大な症状,喘息である(Krkoskova and Mrazova, 2005; Wieslander and
Norback, 2001)。明らかに特異的なソバアレルゲンタンパク質の性質、加工特性について知る必要がある。
全ソバ植物の摂取はファゴピリズムと呼ばれる重大な光感受性を引き起こす。ファゴピリンはナフトジアンスロンであり、ヒペリシンと関係あり、しかし毒性は低い。ファゴピリンの光毒性は紫外線に対する感受性と関係ある(Stojikovski et al., 2013)。この病気は第1に植物の葉を食べる動物で起こり、しかし人では大量のソバもやしを食べるヒトに報告がある(Li and Zhang, 2001)。普通ソバの花は0.64mg/gのファゴピリンを含み、葉は0.4-0.6mg/gを含む、しかしファゴピリンはひき割りソバ中には見られない。しかしながら人では,光毒性ドースに関する情報はない(Stojikovski et al., 2013)。プラスのこととして、ファオピリンの光依存活性は光線力学療法において増感剤として用いられるだろう(Benkovic et al., 2014)。
5. ソバ消費による健康増進面
ソバは中国の伝統療法で効果的薬草として利用され、多くの病気に対し1000年以上にわたり治療に用いられてきた(Cai et
al., 2016)。
今日では有益な栄養的性質のために、機能食品材料と添加物として力になっている。
ソバ炭水化物は好ましい特性を持つ。ソバデンプンの栄養的品質の研究は、低グリセミックインデックスの食品形成として重要な利用性を示したが、それは高アミロース含量と高抵抗性デンプン量のためである(Cai et
al., 2016)。穀物繊維は多くの健康増進効果を示した。特にそれらは胃排出を減らし、下部消化管での輸送時間を増やす。これらのソバ中の繊維成分は、消化管中の微生物相による発酵をすすめ、短鎖脂肪酸を作り、ガスを生産する(Steadman et al., 2000)。より高レベルの可溶性繊維は、栄養関連病気の危険性を低下するのに効果的で、たとえば肥満または心血管疾患の様な病気である。ユニークなソバ可溶性炭水化物の活性成分は、ファゴピリトールである。それらは非インシュリン依存性糖尿病や多嚢胞性卵巣症候群の治療にかなりの関心がある(Christa and Soral-Smietana, 2008)。
示されたように、ソバタンパク質のアミノ酸組成は栄養的に十分バランスが取れている。ソバは好ましいアミノ酸組成を持つタンパク質食事源としてよく知られ、特にリジンに富んでいる点である。これは他の植物タンパク質と比べ良いところで、リジンは植物中心の食事の中で第1制限不可欠アミノ酸であるためである。ソバ中、スレオニン、メチオニンは第1、第2制限アミノ酸である(Krkoskova and Mrazova, 2005; Pomeranz and
Robbins,1972)。さらに疑似穀物タンパク質、特にソバタンパク質は、真の穀物に比べてかなり高い生物学的価値(90%以上)がある(Berghofer and Schonkchner , 2007; Egyum et al., 1989)。これは高バランスの不可欠(必須)アミノ酸濃度によって説明される。全ひき割り穀物中、外部抗栄養素の存在(食物繊維、プロテアーゼインヒビターとタンニンータイプ成分を含む)のため、それとタンパク質分解作用へのタンパク質の低感受性のため、真のタンパク質分解性は僅か80%以下である (Bonafaccia and Kreft 1994; Pomeranz and
Robbins 1972)。
多くの不飽和脂肪酸の有効な効果が示された。ソバ種子中の高比率不飽和脂肪酸(主に多不飽和である)は非常に好ましく、ソバは栄養的に真の穀物の脂肪酸組成に比べ優れている(Krkoskova and Mrazova, 2005)。
さらに殆どに用いられる穀物に比べ,ソバは高い抗栄養活性をもつ事が報告され、主にはその高ルチン含量によるためである(Sedej et
al., 2011)。ヒト食事中のルチンは、他の健康上のメリット同様に抗微生物的,抗炎症作用がある(Cai et
al., 2016)。
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