グルテンフリー食品中の擬似穀物の利用−2
キノア
炭水化物
デンプン
キノア中の主な炭水化物成分はデンプンである。しかしながらキノアのデンプン含量は、穀物中のものより低い(表7.1)。アマランスにおけるように、デンプンは外胚乳中にあるが,少量は種子膜と胚にもある(Prego et
al., 1998)。キノアデンプンは1個の多形粒で0.63-1.8μm(平均 1.5μm)のサイズである(Atwell et al.,
1983; Ando et al., 2002)。デンプン粒の複合体がまた見出され、そこでは14000単一粒までは1複合体を作っている(Lorenz,1990)。これらの複合体は球状または横長であり、タンパク質マトリックスでとり囲まれ,80μm長に達する。キノアデンプンのタンパク質含量は、他の穀物デンプンより高い(Atwell et
al., 1983)。
2つの大部分のデンプン粒結合タンパク質は、粒結合デンプン合成酵素I(GBSSI)で分子マスは56と62である(Lindeboom et al., 2005b)。GBSSI含量はデンプン中のアミロースの濃度とポジテブの関係がある。キノアデンプン中のアミロース含量は穀物デンプンよりずっと低く、異なった量が見出され、その範囲は3-22%である( Atwell et al., 1983; Qian and Kuhn,1999a; Tang et al., 2002; Wright et al.,2002;
Tari et al., 2003; Lindeboom et al., 2005a, 2005b)。デンプンは、短鎖分子グルカンで平均分子量は11.3 x 106g/molである(Praznik et al., 1999)。Tang
et al., (2002)は、キノアアミロペクチンのユニークな鎖長分布を見出し、それはワキシアミロペクチンに似ていて、長鎖に対する短鎖のより大きな比率である。X線分析パターンは、デンプンが典型的な"A"タイプの結晶性を示すことを示した(Qian and Kuhn,1999a; Wright et al., 2002)。
キノアデンプンは他の穀物より高い糊化温度を持ち、より高い粘度を持つ。これらの値は冷却で増加する(Atwell et
al., 1983; Lorenz1990; Ruales and Nair,1994; Schoenlechner,1997)。さらに低アミロース含量は、高水結合能、高膨潤能、高酵素感受性、特別の冷凍解凍能、老化安定性と関係ある(Atwell et
al.,1983;Lorenz,1990;Ahamed et al.,
1996;Qian and Kuhn,1999a)。
これらの物理的性質はアミロース含量とポジテブの関係にある(Lindboom et al., 2005a)。アミロース含量内の広いバリエーションは、そのためキノアデンプンの物理的性質の違いに関係ある。
抵抗デンプン
色々な穀物、擬似穀物中の抵抗デンプン含量(老化RS3 加工中に生じる)は、酵素的(AACC法32-40)、Milkulikova and Kraic ( 2006)によって測定された。キノアの値は12.6±1.29g/kg種子、これは他の穀物、例えば小麦(39.0±5.7g/kg)あるいはライ麦(49.0±7.3g/kg) よりも低い。RS/全デンプンの比率はキノアで2.18%、 小麦、ライ麦で各々5.64%、7.01%であり比較出来る。かなり低いキノアのRS含量の理由は、低アミロース含量のせいで、低RSの形成のためである。
低分子量炭水化物
キノア中の遊離糖の量に関し、はっきりした結果が報告されている。
Gonzalez
et al.,(1989)は,グルコース含量4.55%、フラクトース2.41%, シュクロース2.39%と報告した。シュクロースに対するグルコースの異なる比はGross et al.,(1989)によると;グルコース0.19%、シュクロース2.79%、 ラフィノース 0.15%、スタキオース 0.08%、 α----ガラクトサイド0.23%、フラクトース0%、 ベルバスコース0%であった。またOgungbenle (2003)は、より低い量のグルコース(0.019%)を他の糖、例えばフラクトース(0.019%),ガラクトース(0.06%),リボース(0.07%),マルトース(0.1%),D-xylose(0.12%)と比較した。
繊維
キノアの食物繊維含量(12.88%)は他の穀物に匹敵するほどであるが(表7.1)、外胚乳より胚は高含量である(Hirano and Konishi,2003)。
全食物繊維のうち可溶性繊維は僅か13.5%である(Ranforta et al., 1993)。調理とオートクレーブで可溶性繊維区分は低下し、一方不溶性区分は変化しない(Ruales and Nair,1994)。
タンパク質
キノアのタンパク質含量は他の穀物より高く、タンパク質の品質は非常に良い(表7.1)。
貯蔵タンパク質
キノアタンパク質は主にグロブリンとアルブミンである。種子タンパク質は、31%水、37%塩、0.8%アルコール,11.5%アルカリ可溶、19.7%不溶性タンパク質区分から成る(Prakash and Pal,1998;Ando et
al., 2002; Watanabe et al., 2003)。各タンパク質区分のアミノ酸プロフィールは、高レベルのリジン(4.5-7.0%)を含んだバランスのとれた不可欠アミノ酸の内容を示す(Watanabe et al.,2003)。キノア種子中のタンパク質の2つの主クラスのタンパク質は、11S(ケノポジン、chenopodin)と2S(高システイン)タンパク質である(Bringar and
Goundan,1993;Brinegar,1997)。11Sと2Sのはっきりした構造的および可溶性の特徴は,はっきりそれらの性質が違う事を示している。酸性条件下でケノポジン不溶性であるのは、他の11Sタンパク質の特徴であり、一方キノア2Sタンパク質は高度に可溶で、多くのシステイン残基を含んでいる。
アミノ酸
アミノ酸は38.71g/100gタンパク質の濃度で存在し、この値は全卵タンパク質の濃度より僅かに16%ほど低い(Drzewiecki et al., 2003)。キノアタンパク質はFAOの推薦する不可欠アミノ酸のパターンに近い(Prakash and Pal,1998)。リジンレベル(6.3%)は大豆のレベルと比べる事ができ、一方、他の典型的双子葉種子タンパク質の様にメチオニンは不足している(Ranhorta et al., 1993)。しかしながら、違う結果が制限アミノ酸については報告されている。化学スコアにより芳香族アミノ酸チロシンとフェニルアラニンは、制限されるとわかったが、一方メチオニンとシステインの濃度は高い(Ruales and Nair,1992a)。分画はキノアのアミノ酸組成に影響しないようだ(Chauhan et al.,1992)。
栄養的品質
Ranhorta et al., (1993)は,キノアのタンパク質の品質を研究した。PER値(3.8)とC-PER値(2.7)は明らかにカゼインとは異なった。消化率は84.3%でカゼイン(88.9%)よりも低かった。キノアタンパク質は75.2のNPU値を持ち生物値(BV)は82.6であった(Ruales and Nair,1992a)。Chauhau
et al., (1999)はPERの増加を見出したがサポニン抽出後はBVの変化しないことを見出した。Ruales とNair ( 1994)によると、in vitroでは生のキノアのタンパク質消化性はカゼインよりも低い。種子層の外側の除去は、そこにサポニンが含まれていて消化率を7%まで改良した。消化性の増加はまた加熱処理後も見出された。さらに加熱処理は,有害物質(例えばタンパク質阻害剤)も破壊する。構造変化もまた生じるだろう(例えば脂質--、あるいはデンプンータンパク質複合体の低減)、それは加熱処理後のキノアタンパク質消化性の改良に関係あろう。しかしながら調理時間を永くすると改良のレベルは低下する。
アレルギーとセリアック病
キノアのアレルギーあるいはセリアック病患者への悪影響については文献上情報がない。
タンパク質の機能性
キノア粉のタンパク質可溶性はpHにより、pH6.0で最も小さく、それはパールミレット中に見られたようである(Oshodi et
al., 1999;Ogungbenle 2003)。
しかしながら乳化能と安定性は、パールミレット、小麦よりキノアの方がべターであり、一方起泡性はより低いようだ(Oshodi et
al., 1999)。
酵素阻害剤
アマランス同様に、トリプシンインヒビター活性はキノアでは低く,加熱処理により不活性化する(Chauhan et
al., 1992)。
Ruales and Nair
(1992b) によると、1.36-5.04 TIU/mLサンプルが見出され、それは豆中より低い。
脂質
キノア中の脂質含量は穀物中より高い。平均して5-6%(表7.1)の範囲で,しかしある品種ではより高い。例えばRuales and Nair (1993a)は9.7%NO脂質含量を述べ,Pezybyski et al.,
(1994)は7.6%を測定した。脂質含量は外胚乳よりは胚芽中、種子表皮で高い。脂質は不飽和脂肪酸の高含量で特徴づけられ、リノール酸(linoleic acid )は脂肪酸の50%以上と測定される。パルミチン酸は約20%と測定され、オレイン酸約8%、リノレン酸 (linolenic acid ) 約6%以上と続く。不飽和度は75%以上(Przybyski et al., 1994)、あるいはAndo et
al., (2002)によると87%以上である。高ビタミンE含量により、キノア脂質は貯蔵に安定であることが判った(Ng et
al., 2007)。リン脂質は全脂質の25.2%を示した(Przybylski et al.,1994)。それらはリゾフォスファチジルーエタノールアミン(リゾセファリン),フォスファチジルーエタノールアミン、フォスファチジルーイノシトール、フフォスファチジルーコリン(レシチン、それは全リン脂質の49%を占める)である。他のリン脂質は僅かの量検知された。
ミネラル
キノア中のミネラル含量(灰分)は、ほぼ穀物の2倍である(表7.1)。成長条件はミネラル成分に影響するようである(Karyotis et al., 2003)。Ca、Mg、Fe、Znは高い量が見出される(Chauhan et
al., 1992; Ruales and Nair1993a; Ando et
al., 2002; Kinishi et al., 2004; Ogungbenle,
2003)。キノアはアマランスより高い量のKを含みCa/P比は1:4.1−1:6である(計算はSouci et
al., 2000; Chauhan et al., 1992)。栄養学者は約1:1.5 ( Ca:P) を薦める)。サポニン除去で(機械的にあるいは洗浄で)キノアのミネラル含量は大きく低下する(例えばKの46% は減る)(Ruales and Nair 1993a; Konishi et al., 2004)。
ビタミン
キノア中ビタミン含量は、これまでの穀物に見出されたものに類似している。Ruales and Nair ( 1993a) はキノア、小麦中でほぼ等量と述べている。キノアは、チアミン(0.4mg/100g)、葉酸(78.1μg/100g)、ビタミンC ( 16.4mg/100g)の良い供給源である(Ruales and Nair,1993a)。アマランスの様に、キノアにはリボフラビン(0.2mg/100g)が穀物以上ある。さらにキノアは、特にビタミンEの良い供給源である(Coulter and Lorenz 1990; Ruales and
Nair,1993a; Souci et al., 2000)、 それは油脂の安定性に貢献する。キノア種子にはγ--トコフェロール(5.3mg/100g)がα--トコフェロール(2.6mg/100g)の2倍多い。Ruales and Nair (1993a) は、0.3mg/100gβ--トコトリエノールを測定したが、いかなるα--トコトリエノールは見出せなかった。
植物化学
全フェノール化合物
キノア中いろいろなタンニン含量が報告され、その値は0-500mg/100gの範囲である(Chauhan et al., 1992; Ruales and Nair,1993b)。この違いは品種と生息地の違いによるものと説明することが出来る。とにかく粒中500mg/100gのタンニンレベルは、かなり低い。不溶性繊維中全フェルラ酸の含量を考えると、635μg全フェルラ酸/g不溶性繊維が報告された(Packert,1993)。この値はアマランス中のものと同程度である。
フラボノイド
キノア中にあるポリフェノールは、主にケンペロールとケルセチングルコサイドである。2つのフラボノイドグリセロールは種子から分離された(De Simone et al.,1890)。Zhu et
al., ( 2001) はキノア中に6種のフラボノイドを分離し、4種ケンペロールグルコサイド、2種ケルセチングルセロールを分離した。全て6成分はDPPH試験で抗酸化活性を示した。2つのケルセチングルコシドは、存在する4つのケンペロール3-グルコサイドよりずっと強い活性を示した。さらに5種のフラボノールグルコサイドと1つのバニラ酸グルコシルエステルがDini et
al., ( 2004) により見出された。
抗酸化活性
キノアはアマランスより抗酸化活性が強い(Jung et
al., 2006)。
サポニン
キノア(全種子)は、0.03--2.05%間の苦味サポニンを含む(Ridout et
al., 1991; Chauhan et al., 1992; Gee
et al., 1993; Ruales and Nair, 1993b;
Cuadrado et al., 1995),
しかしこれらの値はまだ大豆のそれに比べると低い。キノア種子中のサポニンは、オレアニン酸と3種の他のサポゲノール(hederagenin, phytolaccagenic acid,
deoxyphtolaccagenic acid)からなる(Cuadrado et al., 1995; Woldemichael and Wink, 2001)。化学的方法と光学および電子顕微鏡でキノアの果皮細胞中のサポニン体を同定した(Prado et
al., 1996)。球形のサポニン体は直径約6.5μmで、4-5個の小粒(直径2.2μm)が結合している。34%のサポニンは殻中に見出される(Chauhan et
al., 1992)。脱殻と洗浄で72%まで含量は減る(Ruales and Nair 1993b; Gee et al., 1993)。また加工でサポニンは破壊するが、含量の低下は洗浄や脱殻後に見られるほど大きくはない(Gee et
al., 1993)。
キノア種子中のサポニン含量を低下させるもう一つのやり方は、所謂甘い(低サポニン種)キノア種の生育によるものである。Mastebroek et al., (2000) はいろいろな種のサポニン含量を調べ、苦い品種の0.47-1.13%サポニンに比較し、甘い品種では僅か0.02-0.04%サポニンであることを見出した。Koziol (1991)によると、もしサポニン含量が0.11%以下ならばその品種は甘い品種であるといえる。
フィチン酸
キノアは0.1-1.0%のフィチン酸を含む(Chauhan et
al., 1992; Ruales and Nair, 1993b)。Varriano -MarstonとDeFrancisco
(1984) は、フィチン酸が胚に集中していると述べたが,それはリン含有グロボイド介在物がこの組織に観察されたからである。しかしながらChauhan et
al., ( 1992) , Ruales and Nair( 1993b) によると、フィチン酸は種子に不均一分布するため、研磨脱皮あるいは水抽出によっても減少しにくい。
粉の製造とその性質
小サイズンのため、キノアはふつうは全粒粉にするが、サポニンを洗浄かあるいは研磨脱皮ミルして除去後に行う。異なった化学成分を有するキノア粉フラクションの製造研究は本当に少ない。サポニンは皮に集中しているので、その含量は種子の脱皮により最少にすることができる(例えば;接線研磨脱皮)(Reichert et al., 1986)。Becker and Hanners (1990) は、キノアを石ミルを用いて挽き,種子の33-40%はふすま区分として除けて高研磨力を示した(Becker and Hanners 1990)。しかしながらふすま区分には外胚乳より栄養成分が高含量含まれ、またサポニン量も多かった。研究用ロ−ラーミルがChauhan et
al., (1992) により用いられ、粉区分からふすま区分を分離した。タンパク質-、脂質-リッチのふすま区分として約40% は除外され、残った約50%はスターチリッチ粉区分となる(主に外胚乳)。キノアからのいろいろな粉区分の製造は、アマランス用と同様の道具で行った(前述部を見よ、Nanka,1998; Schoenlechner, 2001)。さらに技術的にローラーミルとプランシフターを結びつけたものを用いて、キノアをデンプンリッチ粉、中間区分、タンパク質リッチセモリナ区分の間で良好な分離ができた。最後に中間区分は、粉区分よりデンプン含量が高い事を示した。Caperuto et al., (2000)はSenior Quadrumat Brabender millを用いてキノア粉を作った。粒を150g/kg水分と前調製し、ブレーキプラスレダクション粉は平均粒子サイズ187.7μmの粉で最大の収量を得た。図らずも、粉のタンパク質含量は全粒粉で12.5%から粉では 3.55%に落ちた。一方、タンパク質はリジンの点では大きくは改良せず、メチオニン、分枝鎖アミノ酸含量の増加がみられた。キノア粉のコーン粉への100g/kgという添加は、グルテンフリースパゲテイを3カ所の工場で作った時、十分にリジン含量に改良があった。
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