2016年12月アーカイブ
2016年12月27日 17:22 ( )学生が教えてくれたこと
卒論の締め切り日近くなっても、さっぱり卒論実験に出てこず、これからどう指導しようかと苦慮する学生がいた。がごめ昆布からアルギン酸、フコイダンを抽出して、グルテンフリーパンを調製しようというのが学生に与えた研究テーマであった。興味が持てなかったか、あるいはアルバイトに多忙だったのか、とにかく実験しにこなかった。卒論実験終了間際になって、やっとやってきた。
「次年度の卒論生のテーマとしたい。次にこの実験をやるヒトのスピードアップために、昆布からアルギン酸、フコイダンの抽出方法を調べた論文があるからこれを翻訳してみよう。」とアドバイスし、英文論文を2報手渡し、翻訳を指示した。この仕事なら自宅でできるだろう、学生がある程度、翻訳論文の形を整えれば、多少手を入れて完成することができるだろうと高をくくっていた。
数日後、コンピューターできれいに打ち込んだ用紙をもってきた。しかし文章間につながりがない、その文章自体よく見てみると文章になっていない。単なる言葉の羅列で、脈絡がない。コンピューターに翻訳させたものであった。難しい言葉自体の翻訳はできているが、バラバラに言葉が繋がっていて、意味が全く不明の文面であった。翌日、「これは、コンピューターが書いたもので、君はどこにいるのですか。」と意見した。本人は神妙に下を向いて聞いていた。こちらで修正し、その原稿を打ち直させた。こんな時代になったかとあきれてしまった。コンピューターの人口知能などしれたもので、まだまだ翻訳など遠いことの典型ダナと思っていた。ヒトの知力とは言葉を一列に並べて、そこにいいたいことを盛り込み他人に正確に伝える力ですね。ヒトの知力がそこに入らないと言葉も死んでしまう。
今年度のAACCI(American Association of Cereal Chemists, International)大会のシンポジウム内容を伝えるためにAACCIから流れてきたメール上のシンポジウム内容をコピーした。15項目にわたり詳細にかかれてある。その英文はコンピューター上で和文に翻訳された。
オリジナルの英文とコンピューター上の翻訳日本文を比較しながら、その内容の検討を行った。言葉のつながりがバラバラであり、文章は英文を見ながら修正しないと本意が伝わってこない。
しかし人口知能が経験を重ね、進化してくるとコンピューターによる翻訳はかなり正確になるであろう。コンピューターによる経験とは単なる言葉の羅列が正確な羅列になるということだ。さらに人が介入してその精度を上げ、そのうち人不要の時代が来る。翻訳料のコストはグーグルマップ同様フリーである。
会話なども人はコンピューター付属イヤホーンをつけ、日本人は日本語をしゃべり、相手は英語に翻訳した物を同時に聞き取り英語で答え、そのやり取りする時代がすぐ来る。英文面も同時に日本語ですぐ読み取れる時代がすぐくる。グーグルがすべてただでやる時代である。
英語がわからないという日本人のコンプレックスは、コンピューターにより間もなく解消され、日本の鎖国は解消されるだろう。ここで初めて国際化される可能性がある。
学生が私に教えてくれたことである。
大学での授業のやり方
日本では大学での授業のやり方は、全て各人に任せてあるが、アメリカでは講義ノウハウの指導があるようである。
教員は、学生時代の授業を思い出しながらそれにそって進めるようになる。学生時代に受けた実験、講義のやり方をまねしてきたような感じがする。
たとえば、食品学実験や化学実験のやり方はこうである。実験のためのテキスト、あるいはプリントはその授業のはじめに既に学生に手渡してあるが、その日に行なう実験の説明は、その前週の実験の説明の中で行なう。したがって当日の実験は、その前週の実験日に行なった説明に基づいて進める。まずグループ(5−6名)毎に学生を集め、そのグループの輪の中に入り、本日の実験の目的、方法等を一人一人に説明させる。試薬はどのような目的で使うか、加熱の意味は何であるか等である。うまく答えられない場合にはそのグループを自席に追い返し、グループ内でデスカッションさせる。その間、別グループに対応し、その説明が夫々できるようになって初めて実験させるようにした。グループは待ち時間が生じるが、その間、よくグループ内で実験の内容をチェックさせる。
早く実験に取りかかりたいので、各グループは夫々真剣になる。うまく説明できない学生は、他の学生の手前真剣にならざるをえない。
説明できたグループに試薬、試験器具等を手渡し実験させた。こうすると事前に学生達の目の色が代わり十分に準備してくるようになる。できないときには時間内で実験が終わらぬこともある。
講義(1クラス、約40名)は、というと、
講義はマイクを使わずに肉声でやる。スライドは使わない。参考書は座右に置かせる。講義の大切な所はゆっくり何回もしゃべり、ノートに書かせる。文字の書きにくいときには白板に大きく書き、ノートをつくらせるやり方である。これは学生時代にニコニコ笑っていた文学の教授の授業だった。
大学時代のゼミの松田先生の授業が今でも興味深く思い出される。先生の授業の中では教え子(院生)の実験データーを講義の中にどしどし入れて、これは誰々君のデーターだといいながらそれがどの雑誌にでて、学問的にどの様な意味があるのかまで説明された。教科書に出てくるデーターと我々の目と先にいる先輩たちの仕事との関連なると、授業は面白く、刺激的であった。
小型のIC RECORDER(録音機)があり、長時間記録できる。授業を全て録音し、後で聞くことにしている。こうすると、自分のしゃべり方、スピード等をはっきり反省することができる。自分の授業を聞くべきである。
今年のAACCI (American Association of Cereal Chemists, International)大会のシンポジウム
5、•澱粉の物理性、機能性のマッピング;最適な食品のためのデンプンの質とその効果。
デンプン膨潤挙動の理解と、それがどのように食品系の機能特性に影響を与えるか。
新規デンプンベーススナック食品のテクスチュア感覚と消費者への受け入れ方。
化学的、物理的修飾によるモチ小麦粉のデンプンの粘性、テクスチュアの改良。
エクストルーダーを使用してデンプンベースのテクスチャーデザイン。
食品に脂肪のような食感を与えるデンプンの展開
6、 穀物の穀粒研究に新プロテオミクスアプローチ
小麦の品質研究のためのプロテオミクス的アプローチ。
真実の穀物:穀物タンパク質組成をプロテオミクス的に解明する。
大麦粒プロテオミクス:現状と今後の展開。
小麦品種開発の新規形質のプロテオームによる有効選択。
グルテンのアレルゲン解析のためのプロテオミクス的アプローチ。
7、粉体レオロジー(粉体の吸湿とその性質)
粒子の流動体モデルとしての動き。
粉体レオロジーへの粒子特性の重要性。
粉体の凝集性。
流体レオロジーを用いた粉末特性評価。
8、タンパク質の動向と技術:健康、レギュラトリー、摂取ルールの課題
動物実験の代わりインビトロ(試験管内)での新たな迅速PDCAAS法について。
タンパク質の摂取ルール;アレルゲン性の観点からその機会とチャレンジ。
肥満者への高タンパク食品摂取の影響。
オート麦タンパク質のアミノ酸組成と消化性の摂取ルールと消費へのサポート。
9、革新的な食品用途として豆類;物理化学的、栄養機能的属性について。
新規高繊維レンズ豆粉のスナックタイプの機能性食品への利用:
新食品への豆成分利用について。
レンズ豆/コーン/発酵カベルネ・ソーヴィニヨン粉によるエクストルージョン食品。
ヒヨコマメ、未熟バナナとトウモロコシ粉で作ったグルテンフリースパゲティ。
栄養酵母で強化した豆ベースの膨張エクストルージョン食品。
10、米と米ベース食品の構造/機能の最近の研究
中国の伝統的発酵米麺の品質への米品種と製粉方法の違いの影響。
湯でボイルした米の米品種、水浸漬条件等の重要性。
健康に大切な米粒品質の強化。
製粉過程の違い による米飯の官能検査。
蒸し米パンの製造技術。
11、穀物ベース製品を開発するための感覚的アプローチと新しい方法。
TCATA法を使用して、すぐに食べられる穀物ベースのシリアル製品の開拓。
食品を受け入れのための消費者の味の複雑さについて。
すぐ食べられる穀物への栄養上の心配と食べたい感覚とのバランス感覚について。
12、発芽穀物とは消費者にとって何ですか ?
発芽穀物の栄養効果。
安全性と栄養面への発芽穀物の加工技術。
発芽食品の栄養上の魅力。
13、サンプリング、分析方法の開発と統計処理
サンプリングのあやまり。
OC曲線(抜き取り検査))の開発ーサンプリング、サンプル調製および分析に関連する誤り。
14、豆粉&ファイバーの栄養・機能の理解
•食後血糖と満腹感への豆エクストルージョン食品の効果。
•微生物、炎症やクローン病に及ぼすエンドウ豆外皮繊維の役割。
in vitroでの炭水化物の消化率に及ぼす豆粉粒子サイズの効果。
豆粉とその成分の機能性。
ドウ発酵への添加エンドウ豆繊維の効果とその粒度サイズの効果。
15、小麦の品質について、我々はそれをこれまでどのように測定してきたか?
「先任将校 軍艦名取短艇隊帰投せり」松永市郎著(光人社NF文庫)を読んで
戦争中の兵糧食、乾パンに興味を持つうちに、本「先任将校」に出会った。第二次世界大戦中の日本海軍の軍艦「名取」が米軍により雷撃され沈没した。太平洋に放り出された軍人のうち,195名がカッター3隻に分乗し、一人のリーダーと数名の副リーダー(著者ら)の下で10日間あまり、洋上をカッターで乗り切り、無事全員フィリッピンにたどり着くまでの様子を書いた本である。
手持ちの乾パンを30
日間に食い延ばすため、食事は朝晩2回とし、各人1回に一枚しか乾パンは食べられない。一枚3グラムの乾パンを、一日に合計2枚しか食べられなかった。乾パンは一袋に20枚はいっていたから、ひと袋を20人で分けていたが、この袋の片隅に小さな金平糖が2個入っていた。この金平糖を20人でまわしなめをするわけにもゆかないので、一応、回収して保管しておき、スコールが永く続いた後か、疲労の激しいときにこの金平糖を水筒の水に溶かし、砂糖水にして回しのみしたという。この砂糖水は、カッター生活にアクセントをつけたし、大きなはげみにもなったという。現在の乾パンにも入っている。乾パンなどの非常食に、金平糖をつける絶妙のコンビネーションである。
日中は暑いので船の中で体力を消耗しないようにし、夜間に舟をこいだようだ。はっきりした目に見える物もなく、リーダーの指示に従った日本海軍の兵士の物語であった。驚くのは、暴力と権力で統制された日本軍の中で、きわめて教養を必要とする生死を分かつ危険なこのような場面、よくこれら軍人集団を統制して乗り切ったものだという印象である。カッター内での反乱も起こったはずだ。よほどのリーダー、副リーダーたちのインテリゲンスが混乱を押さえはずである。本文からは全く読みとれなかった。著者は、リーダー存命中数十年間、彼の名前を本の中で明かさなかったという。